極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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 一方、隣室の鐘崎と紫月の方では意外にも真面目な世間話に明け暮れていた。
「な、遼。今回の犯人たち――丸中と中橋だっけ。よく考えりゃヤツらも気の毒っつーかさ、元はと言えばヤツらも誰かに騙されたり嵌められたりして親の社を失ったわけだべ? まあ……復讐とか逆恨みっつー選択肢は間違ってっと思うけど、このまんま犯罪者として再起できなくなっちまうのは……ちっと気の毒だなって思ってさ」
 紫月が布団の上でごろ寝しながらそんなことを口にする。鐘崎は胡座をかきながらそんな紫月の髪を愛しそうに梳いていた。
「確かにな――。まあ、親父とも相談せにゃならんが、もしかしたらその件でまた少し俺たちも動くことになるやも知れん」
「動くって?」
「丸中らが失った社をすっかり元通り――とは到底いかねえだろうが、ヤツらが刑期を終えて出てきた時に再起できる足掛かりくれえになれるよう手助けしてやれたらなと思うんだ」
 事によると既に父の僚一の方ではそういったことを視野に入れているのではないかと鐘崎は言った。
「……っつーと、丸中や中橋の社を潰した張本人らの調査とか、当時の経緯を洗い返すとかってこと?」
「そうなろう。親父のことだ、今回丸中らを調査する間に彼らが倒産に追い込まれた経緯もほぼ調べはつけているだろうしな」
 彼らを嵌めた相手が誰かということも察しはついているはずだ。
「正直なところ丹羽さんたちにはどうしてやることもできんだろうしな。そういう時の為に俺たちの組織がある。親父もおそらくそう思っているんじゃねえかと――」
 警察をはじめとする組織や機関が司法や立場の関係から表立っては手が出せない、そんな案件を秘密裏に解決するのが始末屋の役目でもある。その為に自分たちが存在しているのだと言って鐘崎は微笑した。
「そっか……。じゃあまた忙しくなるな。俺にできることは――少ねえかもだけど、ちょっとでもおめえや親父の手助けができるよう俺もがんばるからさ!」
 そんなふうに言ってくれる紫月が愛おしくて堪らなかった。
 直接は調査に出たり関わったりせずとも、家で栄養バランスを考えた食事を用意してくれたり、いつでも少しでも気が休まるように整えて帰宅を待っていてくれる。鐘崎にとってはそんな紫月の存在があるからこそ、思い切り外で戦ってくることができるのだ。
「ありがとうな、紫月。これからもこんな亭主と――それから親父や組員たちのこと、頼む」
 存外大真面目にそんなことを言った鐘崎に、紫月は頼もしい笑顔でうなずいた。
「任せろ! それが俺ン役目だからさ」
 そう言って、先程から髪を梳いてくる大きな掌に自らの手を添えた。
「な、せっかく普段とは違うシチュなんだからさ。そろそろ猛獣君になりてえべ?」
 ニヤっと意味ありげに笑う。
「――いいのか?」
「ダメ……っつっても止まんねえのが猛獣だべ?」
「――こんにゃろ」
「へへ!」
 ペロリと舌を出して笑う。その小さくて赤い可愛い舌先を絡め取るようにすかさず奪い取った。
「うわ……ッ、変わり身早ッ……! さすが……」
「お前だけの猛獣――な?」
 組み敷きながらこちらも負けじと不敵に笑い――そのまま我を忘れたようにして猛獣タイムに突入した夫婦であった。
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