極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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 その後、アパートの契約期間が切れるまでは借り続けることとなり、週末などに鐘崎らの家へ遊びに行った際などには周と冰でアパートに泊まるなどという日々が続いた。
 汐留での生活も元通りとなり、周にとっては自身が抜けていた期間の仕事の整理で忙しくしていたものの、留守を守ってくれた李らの尽力もあって、経営自体は滞りなく業績も上々であった。
 香港から出向していた曹来も、鐘崎らと共に丸中や中橋らが出所してきた際に少しでも足掛かりになれるようにと、今しばらくは日本に残ることとなり、彼らの親が潰された会社の再建に尽力してくれていた。
 以前と変わらぬ日常が戻ってきた、そんな中――周と鐘崎ら夫婦四人は改めて今回の件で力を合わせてきた真田をはじめとする皆への労い会を催そうと密かに計画を練っていたのだった。
 週末、真田に贈る懐中時計を選ぶ為に丸の内にある宝飾店へと出向いた四人は、久しぶりに買い物やティータイムを満喫。以前のままのダークスーツに身を包んだ周の横で、冰はしきじきと懐かしいその姿に見惚れていた。
「うん……やっぱりこういうスーツ姿の白龍も素敵だね。タンクトップにニッカポッカもすごくカッコ良かったし」
 結局、何を着てもどんな境遇でも格好いいものは格好いいのだと言って頬を染めている。そんな嫁さんが愛しくて堪らない周であった。
 そうして無事に懐中時計を選び終えた四人は、ティータイムをすべく同じ界隈にあるラウンジへと向かった。場所はホテル・グラン・エー、粟津財閥が経営する五つ星だ。今回の囮作戦では嫡男の帝斗にも世話になった。結果的には粟津を囮にすることは避けられたものの、窮地に陥っていたあの時に快く囮作戦に手を貸そうと言ってくれた帝斗の言葉にどれだけ助けられたか知れない。皆は報告と礼を兼ねて、帝斗を訪ねたのだった。
「やあ、皆んな! よく来ておくれだね」
 帝斗は相変わらずの王子気質な笑顔で出迎えてくれた。
「粟津、今回は本当に世話になったな。お陰でなんとか落着できた。また親父さんの方には改めてご挨拶申し上げるが、とにかくは礼を言う」
 鐘崎が菓子折を手渡しながらそう言い、周や嫁たちも揃って頭を下げた。
「いやいや、結局僕らの出番は無かったわけだし。でもまあ上手く片付いて良かったよねえ」
 朗らかに笑いながらも最上階にあるレストランの個室へと案内してくれた。
「それはそうと帝斗! こないだおめえが持って来てくれたホールのケーキ! あれ、めちゃめちゃ美味かったわ! うちの若い衆たちも超喜んでさ」
 紫月が礼を述べると、帝斗もまた嬉しそうにしながらも更なる王子ぶりで応えてよこした。
「そうそう、そのケーキだけれどね。あれからまたパティシエが新作を編み出してくれてね。紫月たちに味見をしてもらおうって思ってたところだったんだ」
 しばらくすると階下のラウンジからサンプルのケーキが届けられた。今度はホール状ではなく、一口大のミニケーキが銀の皿にビッシリと並べられてきて、紫月らは驚きと感激に興奮状態だ。
「うわ……ッ、すっげえ……。めちゃめちゃ種類ある」
 しかもひとつひとつは小さいのに、まるで芸術品のように精巧な作りにも目を見張らされる。
「紫月が美味しいって言ってくれれば太鼓判だからって、ウチのパティシエたちがそう言うもんだからねえ。どうか遠慮なく素直な感想を聞かせてやっておくれ」
 と言われても、実際口に入れてしまうのが憚られるような美しい代物だ。紫月も冰も目を丸くしながら凝視状態――しばらくはもったいなくてなかなか手をつけられなかったほどだった。
「まあそう言わずに食べてみておくれ」
 帝斗が自ら紅茶とコーヒーを注いでくれる。その手つきたるや、まるで一流のサーバーそのもので、それ自体にも驚かされる。
「帝斗……おめえすげえな……」
 紅茶のカップを片手にポットを非常に高い位置から注ぐ、その仕草はまるでプロだ。財閥のお坊っちゃまというと、こういったことはまったくできないものと思っていたが、帝斗曰く学生時代からホテル業の各部署に弟子入りして身につけた技だそうだ。社のトップが何の経験もなく胡座をかいているだけではいけないと、まずは現場を体験することからが修行なのだというのが粟津家の教えだそうだ。
「ほえええ……すげえなぁ。マジで尊敬する……」
 自分たちものうのうとしていないで頑張らなきゃなと紫月と冰は感服しきりだ。
「まあ、とにかく感想を聞かせておくれよ」
 帝斗に勧められて、もったいなくも有り難く相伴に与ることとなり、最高に楽しく美味しいティータイムを満喫した面々であった。
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