極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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 汐留、アイス・カンパニー社長秘書室――。
 郭芳が姿を見せてからというもの、日に数度は彼の居場所を探査に掛けている李である。今朝も出社するとすぐに渡した名刺のGPSを確認、ふうと小さな溜め息をつく。
「まだホテルを動いていないか――。あの野郎、名刺を部屋に置いたままで出歩いているな」
 紙切れ一枚くらい財布の中にでも持って出てくれれば手間も省けると思う傍ら、ホテルから動いていないのであれば万が一の時に身柄を押さえるのはわけもない。正直なところ商社の仕事で手が塞がっている中、郭芳に張り付いてばかりもいられない。時間が空いた時に位置情報を確認するくらいでも手一杯といったところなのだ。
 とにかくは何事も起こらなければいいと願う李の思惑を裏切るかのように、郭芳の方では着々と身勝手な夢に向かって目下まっしぐら――未だ誰も予期せぬ暗雲が遠くの海上あたりで生まれ出でようとしていた。



◇    ◇    ◇



 香港、夜九時――。
 高級住宅街と言われる高台の、とある一軒家にファミリー側近の重鎮たちが顔を揃えていた。
 彼らは頭領の周隼がまだ組織を継ぐ以前から与していた古株で、いわば先代の頃からの第一側近と言われていた者たちである。つまり周隼の父の代から仕えてきた側近中の側近だ。それゆえ誰もが既に高齢といえる。近頃ではそろそろ隠居してゆっくりと余生を楽しみたいなどという話もチラホラと上がり始めた今日この頃、こうして一堂に会するのも久しぶりのことである。何か事が起こっても若い者任せになっていて、本人たちが表立って動くことの少なくなってきた今、わざわざ重鎮自らが顔を揃えたのには理由があった。それというのは現頭領である周隼の後継について少々放り置けない密告を受けたからだった。今夜の顔合わせも極めて秘密裏の集まりである。
「しかし本当なのか? 東京にいるボスの次男坊の周焔――彼がご長男の周風殿を出し抜いてボスの後釜を狙っているなどと。にわかには信じられん話ではあるが」
「リークしてきたのは以前ファミリーの情報役として芸能界に所属し、モデルをやっていたとかいう郭芳という男だそうだが――」
「何でもその郭芳が久しぶりで周焔と再会したとかで、この情報を持ち込んできたというが。ヤツによると周焔は表向き日本で商社を経営し、跡目争いからは一歩引いた素振りを装ってはいるが、密かに兄の周風殿を蹴落として自分がファミリーのトップに座るつもりで計画を進めているとか」
 本当だろうかと皆で顔を見合わせる。
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