極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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 通話を終えた後も郭芳は呆然、しばしは立ち直れないほどだった。

(あの焔老板が男と結婚しただって……? この前、李狼珠に会った時はそんなことひと言も言っていなかったが……)

 とにかくはその相手の男というのがどんな人間なのか気になって仕方がない。

(冗談ではないぞ……。あの人が男と結婚だなど、それじゃ俺のこの十数年は何だったっていうんだ……)

 いつかは周焔がファミリーのトップになってくれることを望み、その為に少しでも役に立ちたいとファミリーを抜けてまでヨーロッパに渡って世界的なモデルを目指した。だがそれも思うようにいかず、それならとせめて大金を手にできる危ないブツに手を出し、挙句捕まって監獄暮らしを強いられた。
 思えば酷く屈辱的な十年だったわけだ。

(それなのにあの人は香港を離れて堅気まがいの企業家になり……しかもあろうことか男と結婚しただって?)

「クソ……ッ! なんてこった!」
 ガツンと机を叩き、唇を噛み締める。
「いったいどんな男だってんだ……! まさかそいつのせいであの人は変わられてしまったかというのか……? クソ……クソぅ……! こうなったら焔老板の結婚相手を快く思っていないっていうファミリーの重鎮を抱き込んで――何とかするしかねえ」
 まずはその重鎮とやらを捜し出す必要があるが、郭芳にとってそれは案外容易いと思われた。
「おそらくは当初から焔老板自体を邪険にしてたあの老害連中あたりだろう。何とかヤツらと連絡を取って手を組むしかねえ……。老板にファミリーのトップを取ってもらう為には男の配偶者など邪魔になるだけだ! クソぅ、毒婦めが! いったいどんな手であの人に近付いたってんだ!」
 とにかくその結婚相手とやらがどんな男なのかその目で確かめなければ始まらない。郭芳は滞在先を汐留の社近辺に移して様子を窺うことにした。
「……チッ! あの辺りじゃ安ホテルを見つけるのも一苦労だってのに!」
 荷物を整理しながら、ふと先日李からもらった名刺が目に入った。
「――ふ、こいつももう必要ないか。李の番号は登録したし、例え紙切れ一枚でも余分な物は持って行かねえに限る」
 ビリビリと破いてゴミ箱へと放り込む。その切れ端が飛び散って絨毯の下に潜り込んだことに気付かないまま、郭芳はホテルを引き払ったのだった。
 絨毯に潜り込んだのは幸か不幸かGPS機能が組み込まれているロゴマークの部分だ。損傷で電波は微弱になろうが、位置情報が拾えない程ではない。李にとっては郭芳の居場所が未だこのホテルであると思わされる事態といえる。運がいいのか悪いのか、郭芳という男にとっては運がいいということになるのだろう。
 李が知らぬ間の水面下でまたひとつ厄介な企みが動き出そうとしていた。
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