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身勝手な愛
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一方、郭芳の方ではここ日本での仕事とやらに夢中になっていたようだ。香港時代、多少親しくしていたことのある元の仲間たちに片っ端から電話を架けては、今の自分に相当の力やコネクションがあると自慢げに話す日々。どうやらこの郭芳という男は周ファミリーに復帰したいが為か、躍起になって大手柄を上げんと奔走しているようであった。
今度の仕事でこれだけの金が入る――とか、自身の伝手で日本のヤクザを動かしたとか、少々疑いたくなるようなことばかりを昔のよしみに話しては自慢して歩いているようだ。そうすることによっていかに自分が使える男かという噂がファミリーの耳に届けばいい――とでも思っているかのようだった。
昔馴染みだった連中の方もそんな郭芳の胸中が分かるわけか、少々呆れ気味である。彼らは今現在も周ファミリーに属している現役たちである。正直なところ、身勝手で組織を抜けた者と懇意に連絡を取り合っているなどということが知れれば、彼らの立場を悪くしかねない。
『お前、ファミリーに復帰したいってのか? だったら直接ボスにそう願い出ればいいじゃねえか。まあ……ボスがすんなり聞き入れてくれるとも思えねえが』
「別に復帰したいなどと大それたことは考えちゃいませんよ。ただ周一族に世話になったのは事実ですからね。何か恩返しできることがあればと思うだけです」
『は、恩返し――ね。日本のヤクザと組んでデカいヤマでも踏もうってか? だが気をつけろよ。どこのヤクザと組むんだか知らねえが、日本にはファミリー次男坊の周焔老板がいらっしゃるんだ。あの方に迷惑が掛かるようなことはしねえこった。焔老板の手を煩わせるようなことになれば、香港のボスも黙っちゃいねえだろうからな』
「分かっていますよ。あの人の迷惑になるようなことはしません」
『どうだか――。まあ組織を抜けたおめえさんが何処で何をしようが勝手だが、今や焔老板も所帯を持たれて昔のような身軽というわけじゃねえんだ。せいぜい慎重にやって、今度は監獄にぶち込まれるようなヘマだけはしねえこった』
馴染みの男は親切心からそう苦言しただけだったが、郭芳にとっては今の会話でたいそう驚かされてしまったようだ。
「……焔老板が所帯を持っただって? ではご結婚なされたということですか?」
『なんだ、知らなかったのか? そうだな、かれこれもう二年になるかな。――ああ、おめえさんはその頃監獄暮らしだったか』
それなら知らなくて当然だなと言って昔馴染みは笑った。
「え、ええ……まあ……。それで奥様はどんな方なのです? やはり裏の世界のご縁とか?」
『さあ、馴れ初めまでは知らんな。俺も直接会ったことはねえが、兄貴分の話を聞く限りじゃえらくいい人みてえだ。とにかく謙虚で、野心家とは程遠い善人だとか言われているな。ただしご結婚相手は男だからな、一部の重鎮たちの間じゃあまり歓迎されてねえとかの噂も聞くがね』
「男――? 焔老板は男と結婚したっていうんですか?」
郭芳は心臓が止まるほどに驚かされてしまった。
今度の仕事でこれだけの金が入る――とか、自身の伝手で日本のヤクザを動かしたとか、少々疑いたくなるようなことばかりを昔のよしみに話しては自慢して歩いているようだ。そうすることによっていかに自分が使える男かという噂がファミリーの耳に届けばいい――とでも思っているかのようだった。
昔馴染みだった連中の方もそんな郭芳の胸中が分かるわけか、少々呆れ気味である。彼らは今現在も周ファミリーに属している現役たちである。正直なところ、身勝手で組織を抜けた者と懇意に連絡を取り合っているなどということが知れれば、彼らの立場を悪くしかねない。
『お前、ファミリーに復帰したいってのか? だったら直接ボスにそう願い出ればいいじゃねえか。まあ……ボスがすんなり聞き入れてくれるとも思えねえが』
「別に復帰したいなどと大それたことは考えちゃいませんよ。ただ周一族に世話になったのは事実ですからね。何か恩返しできることがあればと思うだけです」
『は、恩返し――ね。日本のヤクザと組んでデカいヤマでも踏もうってか? だが気をつけろよ。どこのヤクザと組むんだか知らねえが、日本にはファミリー次男坊の周焔老板がいらっしゃるんだ。あの方に迷惑が掛かるようなことはしねえこった。焔老板の手を煩わせるようなことになれば、香港のボスも黙っちゃいねえだろうからな』
「分かっていますよ。あの人の迷惑になるようなことはしません」
『どうだか――。まあ組織を抜けたおめえさんが何処で何をしようが勝手だが、今や焔老板も所帯を持たれて昔のような身軽というわけじゃねえんだ。せいぜい慎重にやって、今度は監獄にぶち込まれるようなヘマだけはしねえこった』
馴染みの男は親切心からそう苦言しただけだったが、郭芳にとっては今の会話でたいそう驚かされてしまったようだ。
「……焔老板が所帯を持っただって? ではご結婚なされたということですか?」
『なんだ、知らなかったのか? そうだな、かれこれもう二年になるかな。――ああ、おめえさんはその頃監獄暮らしだったか』
それなら知らなくて当然だなと言って昔馴染みは笑った。
「え、ええ……まあ……。それで奥様はどんな方なのです? やはり裏の世界のご縁とか?」
『さあ、馴れ初めまでは知らんな。俺も直接会ったことはねえが、兄貴分の話を聞く限りじゃえらくいい人みてえだ。とにかく謙虚で、野心家とは程遠い善人だとか言われているな。ただしご結婚相手は男だからな、一部の重鎮たちの間じゃあまり歓迎されてねえとかの噂も聞くがね』
「男――? 焔老板は男と結婚したっていうんですか?」
郭芳は心臓が止まるほどに驚かされてしまった。
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