極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「それなんだがな――相変わらずというか、変わっていないというか。ろくでもないことだけをベラベラと喋って帰っていった」
「……そうでしたか。焔老板もお気になされていらしたもので」
「後で老板にもご報告申し上げるが、あの馬鹿が良からぬことをしでかす前に摘める芽は摘んでおかねばならん。ヤツはしばらくこの日本に滞在するとぬかしていたから、ひとまず私の名刺を渡しておいた」
「……名刺を渡されたので?」
「ああ。密かにGPSを仕込んである方の名刺だ。ヤサを知っておいて損はないからな」
 渡した名刺は社のロゴマーク部分にGPS機能を組み込んだタイプのものだ。余程のことがない限り使うことはないのだが、不測の事態が想定されるような場合にだけ使えるようにと特別に作った名刺である。記載の電話番号も簡単に変更可能な――いわばメールでいうところの捨てアドレスのようなもので、架ってきた通話は転送で李の携帯へと入ってくる仕様だ。むろんのこと劉も同様の名刺を持っているが、未だに使ったことはなかった。
「左様でしたか。すると彼がまた何か焔老板に不利益をもたらすような兆しがあったのですか?」
「今のところは何とも言い難い。だが、日本での仕事が上手く運んだ暁には老板にもいい話が持ってこられるかも知れないなどとほざいていたからな。用心しておくに越したことはない。お前さんも心に留めておいてくれ」
 李は昨夜郭芳と話した内容を一通り話して伝えた。
「なるほど……。私自身はあの郭芳がファミリーを去った後にご縁をいただいたもので、彼についてはよく存じませんが、心しておきます」
 そんな話をしていると周らが出勤して来た。
「老板、冰さん、おはようございます」
 李は早速に昨夜のことを周にも報告することにした。



◇    ◇    ◇



「なるほどな。するとヤツは未だ裏の世界に未練があるというわけか」
「どうもそのようです。日本での仕事がどうのと言っておりましたが、またしくじってこちらにとばっちりが来なければいいのですが……。とりあえずのところヤサは突き止められましたので警戒しておくことにいたします。渡した名刺のGPSの反応から安ホテルに滞在しているようですが、ヤツがあの名刺を処分しない限り追えるところまで追ってみます」
「すまんな、李。要らぬ苦労を掛ける。だがまあ――少々思い込みの激しい野郎だったからな。てめえの力量を過信して、身の丈以上のブツに手を出さんとも限らん。ファミリーを抜けているとはいえ、お前の言うようにこちらにとばっちりが来ないよう気をつけておくに越したことはない」
「はい、その点は抜かりなく――。私見ですが、いずれまたヤツの方から接触を試みて来る気がいたしますので」
 周に迷惑となるようなことだけは避けねばならない。李は気持ちを引き締めると共に重い溜め息が隠せなかった。
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