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陰謀
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変な話だが、親子鑑定云々以前の問題だった。息子は十四歳とのことだが、身長も高く、体格は立派といえる。何より顔の造りが周と本当によく似ているのだ。若干違和感を覚えるとすれば彼の深く濃い黒髪の色合いくらいだ。香港の家族や周自身も黒髪ではあるが、ここまでくっきりとした深い黒ではない。東南アジアに見られる特有の黒さと言おうか、だがまあ母親の血を濃く引いているなら有り得ない話ではない。
目鼻立ちは端正で、いわば男前だ。十四歳にしては長身で、一七〇センチはゆうに超えている。もう数年もすれば周と同じくらいには伸びるだろうと思わされる感じだ。目つきも鋭いというのだろうか、意思のある感じで、年の割には大人びた印象だった。
母親だという女は当時の面影を残していて、周もまた、一目であの時の娘だと分かったようだった。
「スーリャン――だな? 周焔だ。その節は世話になった」
周自らがそう言うと、女は少したじろいだようにしながらもおずおずと軽い会釈で応えてみせた。
「私の名前、覚えていた。嬉しい……」
「アンタたち一家は俺と兄貴の命の恩人だからな。もちろん覚えている。――それで、そちらが息子さんか?」
「はい……、そです。アーティット言います」
母親に背中を押されて紹介されたのが分かったのだろう、アーティットと紹介された息子もまたチラリと上目遣いながら小さな会釈を見せたものの、言葉は発せず黙ったままだった。
とにかくは話を聞こうということになり、劉が息子を伴ってコネクティングルームの方へ移動。女との対峙が始まった。
「あのボウズが俺の息子だそうだが――?」
本当なのかと周が尋ねると、女は大きく首を縦に振って応えてみせた。
「本当あるます! あの子はあなたと私の子……!」
「――そうか。だが俺にはあんたとの間に子供ができるようなことをした覚えはないのだがな」
いったい何を以てそうまではっきり『あなたの子だ』と言い切れるのだと問う。すると女は想像していた通りのことを口にしてみせた。
「あなた覚えてない言う。でも、怪我して覚えてないだけ。あなた……あの時わたし抱いた」
「――あの時というと、怪我で意識を失っていた時ということか?」
「怪我して覚えてない言う。でも、わたし本当のこと言う。あの子、あなたの子供!」
女はある程度の中国語は理解できる様子ながら、こう片言では詳しいことまで訊くのは限界がありそうだ。ここへ来る前にそちらの言語が堪能な通訳を手配することも考えたのだが、話が話だけにやたらな他人を介することも憚られて、とにかくは会ってみてからにしようということになっていたのだ。
周も鐘崎もそれこそ片言ならば彼女の国の言葉が分かるものの、小さな村独特の言い回しや民族の言葉などを出されれば流暢とは程遠い。正直なところ、ほぼ通じないというのが現実だ。皆が困ったなと眉根を寄せたその時だった。今は例によって海外での仕事に出ている鐘崎の父・僚一からリモート通話が入り、通訳を引き受けようと言ってくれたのだった。
聞けばつい先程、紫月から連絡があって、事の一端を聞いたというのだ。紫月は通訳が必要になるかも知れないと言って、僚一に助力を頼んでくれたとのことだった。
目鼻立ちは端正で、いわば男前だ。十四歳にしては長身で、一七〇センチはゆうに超えている。もう数年もすれば周と同じくらいには伸びるだろうと思わされる感じだ。目つきも鋭いというのだろうか、意思のある感じで、年の割には大人びた印象だった。
母親だという女は当時の面影を残していて、周もまた、一目であの時の娘だと分かったようだった。
「スーリャン――だな? 周焔だ。その節は世話になった」
周自らがそう言うと、女は少したじろいだようにしながらもおずおずと軽い会釈で応えてみせた。
「私の名前、覚えていた。嬉しい……」
「アンタたち一家は俺と兄貴の命の恩人だからな。もちろん覚えている。――それで、そちらが息子さんか?」
「はい……、そです。アーティット言います」
母親に背中を押されて紹介されたのが分かったのだろう、アーティットと紹介された息子もまたチラリと上目遣いながら小さな会釈を見せたものの、言葉は発せず黙ったままだった。
とにかくは話を聞こうということになり、劉が息子を伴ってコネクティングルームの方へ移動。女との対峙が始まった。
「あのボウズが俺の息子だそうだが――?」
本当なのかと周が尋ねると、女は大きく首を縦に振って応えてみせた。
「本当あるます! あの子はあなたと私の子……!」
「――そうか。だが俺にはあんたとの間に子供ができるようなことをした覚えはないのだがな」
いったい何を以てそうまではっきり『あなたの子だ』と言い切れるのだと問う。すると女は想像していた通りのことを口にしてみせた。
「あなた覚えてない言う。でも、怪我して覚えてないだけ。あなた……あの時わたし抱いた」
「――あの時というと、怪我で意識を失っていた時ということか?」
「怪我して覚えてない言う。でも、わたし本当のこと言う。あの子、あなたの子供!」
女はある程度の中国語は理解できる様子ながら、こう片言では詳しいことまで訊くのは限界がありそうだ。ここへ来る前にそちらの言語が堪能な通訳を手配することも考えたのだが、話が話だけにやたらな他人を介することも憚られて、とにかくは会ってみてからにしようということになっていたのだ。
周も鐘崎もそれこそ片言ならば彼女の国の言葉が分かるものの、小さな村独特の言い回しや民族の言葉などを出されれば流暢とは程遠い。正直なところ、ほぼ通じないというのが現実だ。皆が困ったなと眉根を寄せたその時だった。今は例によって海外での仕事に出ている鐘崎の父・僚一からリモート通話が入り、通訳を引き受けようと言ってくれたのだった。
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