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陰謀
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『――で、そっちの様子はどうだ。女と息子はまだグラン・エーにいるんだろ?』
「ああ。二人共ホテルを動いてはいない。粟津の話だと大分居心地がいいのか、割合リラックスした様子でいるらしい。特にすることもなく暇を持て余しているかと思いきや、東京の雑踏が怖いのか二人揃って出掛ける様子もねえってことだ」
日に二度、午前中には劉が、そして夕方には李が様子窺いに顔を出してくれているが、特に変わったことは起こっていない。
「ただし、女の方が俺との面会をえらく望んでいるらしく、俺が会いに来ないのが不満のようだと聞いている。だが今のところ母子に外部からの接触は見られん。俺の方では母子の裏で糸を引いている人物が居ないかどうかの調査を念入りに進めているところだ」
『そうか。俺たちは女の一家が移り住んだ際に村を出て行ったという若い男についても洗うことにする。もしかしたらその男に上手いこと言いくるめられて、一家が移住を決めた可能性もあるからな』
何か分かったらまた連絡すると言って、鐘崎は調査へと戻っていった。
その翌日のことだ。汐留では新たな受難に誰もが頭を抱えさせられる事態が勃発することとなった。
なんと、鄧が行っていた親子鑑定の結果が黒と出たからである。つまり、女が連れて来た息子は本当に周の血を引く息子だった――という結果だ。
正直なところ、鑑定結果が出ればこの奇妙な事件は解決すると、皆心のどこかで信じて疑わなかったわけだ。それゆえ、調査といっても、なぜ女がこのようなでたらめを言いに出向いて来たのかということを明らかにすべく方向に重点を置いて進められてきた。誰もが陰謀を疑い、女の裏で糸を引いている人物を引き摺り出すべく調べを進めてきたわけだ。まさか本当に周との血縁関係が明らかになるなどとは思ってもみなかったというのが実のところである。
それゆえ、汐留では蜂の巣を突いたような大騒ぎに、蒼白となっていた。
「鄧浩、間違いないのかッ? お前さんの鑑定を疑いたくはないが――だがしかし……」
李が蒼白顔で鄧に詰め寄る。
「私とて誰よりも驚いているのだ。だが、お前さん方がグラン・エーで採取してくれた息子の毛髪と焔老板からご提供いただいたDNA……。それらを鑑定にかけた結果こうなったのだ。正直なところ信じられないのは私の方だ」
ともすれば声を荒げん勢いの二人に、周は『よせ』と言って彼らを宥めた。
「お前らが争うことはない。結果が黒と出た以上、それが事実だ。やはりあの時――十五年前の村で……俺は意識朦朧の中、あの娘との間にガキができるような既成事実があったのだと認めねばならんだろう」
「ですが老板……」
李も鄧も驚愕といったふうで言葉にもならないでいる。
「ああ。二人共ホテルを動いてはいない。粟津の話だと大分居心地がいいのか、割合リラックスした様子でいるらしい。特にすることもなく暇を持て余しているかと思いきや、東京の雑踏が怖いのか二人揃って出掛ける様子もねえってことだ」
日に二度、午前中には劉が、そして夕方には李が様子窺いに顔を出してくれているが、特に変わったことは起こっていない。
「ただし、女の方が俺との面会をえらく望んでいるらしく、俺が会いに来ないのが不満のようだと聞いている。だが今のところ母子に外部からの接触は見られん。俺の方では母子の裏で糸を引いている人物が居ないかどうかの調査を念入りに進めているところだ」
『そうか。俺たちは女の一家が移り住んだ際に村を出て行ったという若い男についても洗うことにする。もしかしたらその男に上手いこと言いくるめられて、一家が移住を決めた可能性もあるからな』
何か分かったらまた連絡すると言って、鐘崎は調査へと戻っていった。
その翌日のことだ。汐留では新たな受難に誰もが頭を抱えさせられる事態が勃発することとなった。
なんと、鄧が行っていた親子鑑定の結果が黒と出たからである。つまり、女が連れて来た息子は本当に周の血を引く息子だった――という結果だ。
正直なところ、鑑定結果が出ればこの奇妙な事件は解決すると、皆心のどこかで信じて疑わなかったわけだ。それゆえ、調査といっても、なぜ女がこのようなでたらめを言いに出向いて来たのかということを明らかにすべく方向に重点を置いて進められてきた。誰もが陰謀を疑い、女の裏で糸を引いている人物を引き摺り出すべく調べを進めてきたわけだ。まさか本当に周との血縁関係が明らかになるなどとは思ってもみなかったというのが実のところである。
それゆえ、汐留では蜂の巣を突いたような大騒ぎに、蒼白となっていた。
「鄧浩、間違いないのかッ? お前さんの鑑定を疑いたくはないが――だがしかし……」
李が蒼白顔で鄧に詰め寄る。
「私とて誰よりも驚いているのだ。だが、お前さん方がグラン・エーで採取してくれた息子の毛髪と焔老板からご提供いただいたDNA……。それらを鑑定にかけた結果こうなったのだ。正直なところ信じられないのは私の方だ」
ともすれば声を荒げん勢いの二人に、周は『よせ』と言って彼らを宥めた。
「お前らが争うことはない。結果が黒と出た以上、それが事実だ。やはりあの時――十五年前の村で……俺は意識朦朧の中、あの娘との間にガキができるような既成事実があったのだと認めねばならんだろう」
「ですが老板……」
李も鄧も驚愕といったふうで言葉にもならないでいる。
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