1,084 / 1,212
陰謀
28
しおりを挟む
「だが親父……。氷川からの報告によると、鄧先生が行った親子鑑定の結果、黒と認められたということだが……」
「おそらくそれも仕組まれた可能性が高い。どこかで焔のDNAを入手し、息子の毛髪に見せ掛けて陽性が出るように細工したのではないか? 今現在、女と共に汐留を訪れているのはタイ人俳優チャンムーンの息子で、しかも子役として映画にまで出演している。スーリャンが生んだ女児ではなく息子に演じさせる方がボロが出にくいと考えたのかも知れん」
しかし周のDNAを採取するなど、本当にそんなことが可能だろうかと頭をひねらされる。
「なに、DNAの入手など、その気になれば大して難しいことではない。焔がよく行くホテルのラウンジなどで彼の使ったグラスなどを持ち帰ればいいだけだ。ただし――それに細工を加えて毛髪に仕立てるとなれば話は別だ。おそらくその手に詳しい闇医者か、化学者もどきに伝手があるはず」
現在その毛髪についてはドイツの天才名医、クラウス・ブライトナーに助力を依頼して調べを進めているとのことだから、そう時を待たずしてメカニズムが明らかになるだろうと僚一は言った。
「とにかく――我々はすぐにこのことを焔に報告して、ブライトナーからの結果を待とう。それと同時に村人だった若い男の行方を捜し出すことに全力を尽くす! この推測が当たっているとすればすべての黒幕はその男だ――!」
曹の方では引き続きタイ人俳優の居場所を捜索することとなった。
「チャンムーンという俳優が住んでいると思われるアパートは突き止めました。ですがここしばらく不在のようで、家には人の気配が見られません。スーリャンと息子のアーティットは焔君を訪ねて日本に行ったから留守としても――チャンムーンと女児はどこへ行ってしまったのか行方が掴めずじまいです。もしかしたらこの事件を操っている黒幕あたりに監禁されているということも考えられる……。何とか彼らを捜し出して会うことさえ叶えば、何か事情が聞き出せるはず。俺はそちらから当たってみます!」
こうしてまた二手に分かれることとし、全貌解明に向けての日々が幕を上げたのだった。
一方、ちょうどその頃、汐留でもまた少々驚くべきことが起こっていた。冰を訪ねてアーティットという息子が単身で社にやって来たからである。
社ではしっかり者の受付嬢、矢部清美が対応に困惑させられていた。
「冰って人に会いたい。呼んでくれないか」
スマートフォンの翻訳ソフト画面を見せながら必死の形相で懇願する。しかも相手はどう見ても成人に満たない外国人の子供だ。さすがの清美もやたらと追い返すのもためらわれ、かといって『どうぞどうぞ』と安易に通すわけにもいかない。困り果てた彼女は秘書室の李へと対応を仰いだ。
数分後、李に付き添われてロビーへと降りて来た冰を目にするなり、アーティットは逸ったようにしながらも苦渋の表情を浮かべてよこした。
「突然押し掛けてすみません……。でも……俺、あなたに大事な話があるんです!」
周ではなく冰に聞いて欲しいという。生憎周はクライアントとの打ち合わせで外出中だったので、李としてもとにかくは話を聞くしかないと判断――自分も同席させてもらうことを条件に面会を承諾したのだった。
「おそらくそれも仕組まれた可能性が高い。どこかで焔のDNAを入手し、息子の毛髪に見せ掛けて陽性が出るように細工したのではないか? 今現在、女と共に汐留を訪れているのはタイ人俳優チャンムーンの息子で、しかも子役として映画にまで出演している。スーリャンが生んだ女児ではなく息子に演じさせる方がボロが出にくいと考えたのかも知れん」
しかし周のDNAを採取するなど、本当にそんなことが可能だろうかと頭をひねらされる。
「なに、DNAの入手など、その気になれば大して難しいことではない。焔がよく行くホテルのラウンジなどで彼の使ったグラスなどを持ち帰ればいいだけだ。ただし――それに細工を加えて毛髪に仕立てるとなれば話は別だ。おそらくその手に詳しい闇医者か、化学者もどきに伝手があるはず」
現在その毛髪についてはドイツの天才名医、クラウス・ブライトナーに助力を依頼して調べを進めているとのことだから、そう時を待たずしてメカニズムが明らかになるだろうと僚一は言った。
「とにかく――我々はすぐにこのことを焔に報告して、ブライトナーからの結果を待とう。それと同時に村人だった若い男の行方を捜し出すことに全力を尽くす! この推測が当たっているとすればすべての黒幕はその男だ――!」
曹の方では引き続きタイ人俳優の居場所を捜索することとなった。
「チャンムーンという俳優が住んでいると思われるアパートは突き止めました。ですがここしばらく不在のようで、家には人の気配が見られません。スーリャンと息子のアーティットは焔君を訪ねて日本に行ったから留守としても――チャンムーンと女児はどこへ行ってしまったのか行方が掴めずじまいです。もしかしたらこの事件を操っている黒幕あたりに監禁されているということも考えられる……。何とか彼らを捜し出して会うことさえ叶えば、何か事情が聞き出せるはず。俺はそちらから当たってみます!」
こうしてまた二手に分かれることとし、全貌解明に向けての日々が幕を上げたのだった。
一方、ちょうどその頃、汐留でもまた少々驚くべきことが起こっていた。冰を訪ねてアーティットという息子が単身で社にやって来たからである。
社ではしっかり者の受付嬢、矢部清美が対応に困惑させられていた。
「冰って人に会いたい。呼んでくれないか」
スマートフォンの翻訳ソフト画面を見せながら必死の形相で懇願する。しかも相手はどう見ても成人に満たない外国人の子供だ。さすがの清美もやたらと追い返すのもためらわれ、かといって『どうぞどうぞ』と安易に通すわけにもいかない。困り果てた彼女は秘書室の李へと対応を仰いだ。
数分後、李に付き添われてロビーへと降りて来た冰を目にするなり、アーティットは逸ったようにしながらも苦渋の表情を浮かべてよこした。
「突然押し掛けてすみません……。でも……俺、あなたに大事な話があるんです!」
周ではなく冰に聞いて欲しいという。生憎周はクライアントとの打ち合わせで外出中だったので、李としてもとにかくは話を聞くしかないと判断――自分も同席させてもらうことを条件に面会を承諾したのだった。
29
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる