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陰謀
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その後、伯母夫婦の家で再会を果たしたスーリャン一家はここ数日の図らいを悔やむと共に、一家揃って周らに深く謝罪した。俳優のチャンムーンが患った病を突き止める為、すぐに現地の大きな病院に入院の手続きを取り、周は治療費一切を持つゆえ手厚く診てやってくれと依頼、チャンムーンはその時点で即入院となった。
看病は一旦スーリャンの生んだ女児と伯母夫婦に任せて、スーリャンと息子のアーティットにはダーウバンを誘き出すべく協力を仰いだ。
夜九時少し手前――ダーウバンから指定のあった港の倉庫街へと母子を向かわせる。周らの他には鐘崎親子と曹来、汐留からは李と紫月、冰ももちろん一緒だ。それに香港の周隼がよこしてくれた応援の側近らでがっしりと周囲を固め、一行はダーウバンとの対面の時を待った。
「何も心配はいらない。この倉庫は完全に俺たちの仲間が包囲した。あんたは打合せ通りに話が上手くいったと言って、ひとまずこのアタッシュケースをヤツに手渡してくれ」
ケースの中身は分厚い現金の束だ。
「すべて足がつかない古紙幣で用意した。今後の養育費等については俺から振り込まれることになったと伝えてくれ」
「分かりました……。周さん、ご迷惑を掛けて……申し訳ありません」
スーリャンは心底恐縮していたが、周は心配するなと言って微笑みを見せた。
「大丈夫だ。あんたは何も心配せず、言われた通りにやってくれればいい。あんたら母子に危険が及びそうになっても慌てるな。包囲は完璧だ。必ず無傷で救い出す!」
「……周さん……。何から何まで……本当にすみません」
スーリャンとアーティットは真っ暗闇でがらんどうの倉庫の中、必死にアタッシュケースを抱えてダーウバンらの到着を待つこととなった。二人の周囲には四方八方から隙のない警護態勢が敷かれる。
九時を少し回った頃だった。倉庫周辺で警戒に当たっていたファミリーの側近たちから報告が寄せられる。
『焔老板、敵の到着を確認しました。車が二台、人数はダーウバン含め八人ほど確認できます』
「了解した」
『ヤツらの乗って来た車輌はこちらで押さえます』
表を張っている者らでダーウバンらの降りた車輌を制圧、逃走手段を断つ。倉庫内を見渡せる欄干部分には狙撃手を配置、周と鐘崎親子らは至近距離での銃撃戦に備えて各自銃を携帯。紫月は日本刀を手に母子を見渡せる一階部分の木箱に身を潜めてその瞬間を待った。
「よう! 上手くやったようだな。それで? 周焔って野郎からはいくら搾り取れたんだ?」
ダーウバンは母子が二人だけでガタガタ震えている様子を見て、完璧な包囲網が敷かれているなどとは夢にも思っていないようだ。スーリャンは縮み上がるようにしてアタッシュケースを差し出してみせた。
「周焔さんから……とりあえずの養育費だと言われてこれを……いただきました。残りは……毎月振り込んでくださるそうです……」
「ふん! どら? 見せてみろ!」
ダーウバンが彼女の手からもぎ取るようにしてアタッシュケースを奪い、中を開いて瞳を輝かせる。
「は――! 見ろ、言った通りだろうが! 一時金でこんだけの大金をポンとくれてよこすような大物だ。こいつぁ幸先がいい!」
ダーウバンは現金の山に興奮気味でいる。
「それで――? 毎月の額はいくら振り込むと言っていた?」
「……それより……約束した主人の入院代を……。一刻も早くあの人を病院に連れて行ってあげたいのです」
スーリャンは周らとの打合せ通りにそう懇願してみせた。
看病は一旦スーリャンの生んだ女児と伯母夫婦に任せて、スーリャンと息子のアーティットにはダーウバンを誘き出すべく協力を仰いだ。
夜九時少し手前――ダーウバンから指定のあった港の倉庫街へと母子を向かわせる。周らの他には鐘崎親子と曹来、汐留からは李と紫月、冰ももちろん一緒だ。それに香港の周隼がよこしてくれた応援の側近らでがっしりと周囲を固め、一行はダーウバンとの対面の時を待った。
「何も心配はいらない。この倉庫は完全に俺たちの仲間が包囲した。あんたは打合せ通りに話が上手くいったと言って、ひとまずこのアタッシュケースをヤツに手渡してくれ」
ケースの中身は分厚い現金の束だ。
「すべて足がつかない古紙幣で用意した。今後の養育費等については俺から振り込まれることになったと伝えてくれ」
「分かりました……。周さん、ご迷惑を掛けて……申し訳ありません」
スーリャンは心底恐縮していたが、周は心配するなと言って微笑みを見せた。
「大丈夫だ。あんたは何も心配せず、言われた通りにやってくれればいい。あんたら母子に危険が及びそうになっても慌てるな。包囲は完璧だ。必ず無傷で救い出す!」
「……周さん……。何から何まで……本当にすみません」
スーリャンとアーティットは真っ暗闇でがらんどうの倉庫の中、必死にアタッシュケースを抱えてダーウバンらの到着を待つこととなった。二人の周囲には四方八方から隙のない警護態勢が敷かれる。
九時を少し回った頃だった。倉庫周辺で警戒に当たっていたファミリーの側近たちから報告が寄せられる。
『焔老板、敵の到着を確認しました。車が二台、人数はダーウバン含め八人ほど確認できます』
「了解した」
『ヤツらの乗って来た車輌はこちらで押さえます』
表を張っている者らでダーウバンらの降りた車輌を制圧、逃走手段を断つ。倉庫内を見渡せる欄干部分には狙撃手を配置、周と鐘崎親子らは至近距離での銃撃戦に備えて各自銃を携帯。紫月は日本刀を手に母子を見渡せる一階部分の木箱に身を潜めてその瞬間を待った。
「よう! 上手くやったようだな。それで? 周焔って野郎からはいくら搾り取れたんだ?」
ダーウバンは母子が二人だけでガタガタ震えている様子を見て、完璧な包囲網が敷かれているなどとは夢にも思っていないようだ。スーリャンは縮み上がるようにしてアタッシュケースを差し出してみせた。
「周焔さんから……とりあえずの養育費だと言われてこれを……いただきました。残りは……毎月振り込んでくださるそうです……」
「ふん! どら? 見せてみろ!」
ダーウバンが彼女の手からもぎ取るようにしてアタッシュケースを奪い、中を開いて瞳を輝かせる。
「は――! 見ろ、言った通りだろうが! 一時金でこんだけの大金をポンとくれてよこすような大物だ。こいつぁ幸先がいい!」
ダーウバンは現金の山に興奮気味でいる。
「それで――? 毎月の額はいくら振り込むと言っていた?」
「……それより……約束した主人の入院代を……。一刻も早くあの人を病院に連れて行ってあげたいのです」
スーリャンは周らとの打合せ通りにそう懇願してみせた。
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