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陰謀
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「はん! がめつい女だ! まあいい」
ダーウバンは現生の束に満足したのか、その中からほんの一掴みをスーリャンの足元に投げてよこした。
「これだけあれば充分だろう? 今後の振込先はちゃんと俺の言った口座を伝えたんだろうな?」
「ええ……。でも……これだけでは……。主人の容態によってはもっとお金が掛かるかも知れません……。もう少し融通してはもらえませんか……?」
「は! 図々しい女だ! てめえらを生かして銭までくれてやってんだ! それで満足できねえってんならこの場でバラしてやってもいいんだぜ?」
「……そんな……」
「それが嫌ならがめつい考えは起こさずにサッサと消えるこった! それとも――そうだな、てめえを生かしておいたところで今後もこうチマチマたかられたんじゃ堪ったもんじゃねえ。やっぱり今ここで消えてもらった方がいいかもな」
ダーウバンはニヤっと笑うと、とんでもないことをぬかしてみせた。
「お前、確か娘がいたな? 十五年前に俺が仕込んでやったガキだ。つまりこの俺様の娘ってことになるわけだ。てめえの旦那は放っといてもくたばるだろうから、わざわざ手を汚す必要もねえ。てめえら二人は今ここで始末するとして、娘が生き残ってたんじゃ後々面倒だ。そいつは闇市にでも売り飛ばして銭に変えてやらぁ」
それを聞いて黙っていられなかったのは息子のアーティットだ。一も二もなくダーウバン相手に食ってかかった。
「ふざけんなッ! 妹に手を出したら許さねえ!」
拳を握り締めて今にも殴り掛からん勢いで睨みをきかす。ダーウバンはせせら笑った。
「クソ生意気なガキが! てめえ、もしかして俺の娘に惚れてんじゃあるめえな? 俺ァこれでもあいつの父親だ。誰がてめえみてえな小汚ねえガキの好きにさせるかってんだ!」
襟首を掴み上げ、思い切り張り手を食らわそうとしたその時だった。
「そこまでだ!」
倉庫中に響き渡る怒号で、その場の誰もが声の主を振り返った。
「ダーウバンってのはてめえか――。救いようのねえクズだな。てめえのような輩は生かしておく価値もねえ。俺があの世へ送ってやろう」
「ンだとッ! 誰だ、てめえ――」
ダーウバンは掴み上げていた息子の胸ぐらを放して声の主に凄み掛かった。――が、真冬の寒さに白い煙が立つ中、ゆっくりと姿を現した声の主を目にするなりギョっとしたように足をもつれさせて後退さる。そこには怒りの光背を背負ったような周が焔の如く姿で立っていた。
「き、貴様……誰だ」
「てめえのようなクズに名乗ってやる筋合いもねえがな。さすがのバカでも察しはつくだろう」
ギラギラと光る鋭い瞳。ただ立っているだけで絶対に敵わないと尻込みさせられるような威圧感――。ダーウバンはしどろもどろながらもそれが周焔であると悟ったようだった。
「……ッ!? 貴様……ま……さか、周……か? クソッ! こんのアマッ! ふざけたことしやがって……」
ダーウバンは現生の束に満足したのか、その中からほんの一掴みをスーリャンの足元に投げてよこした。
「これだけあれば充分だろう? 今後の振込先はちゃんと俺の言った口座を伝えたんだろうな?」
「ええ……。でも……これだけでは……。主人の容態によってはもっとお金が掛かるかも知れません……。もう少し融通してはもらえませんか……?」
「は! 図々しい女だ! てめえらを生かして銭までくれてやってんだ! それで満足できねえってんならこの場でバラしてやってもいいんだぜ?」
「……そんな……」
「それが嫌ならがめつい考えは起こさずにサッサと消えるこった! それとも――そうだな、てめえを生かしておいたところで今後もこうチマチマたかられたんじゃ堪ったもんじゃねえ。やっぱり今ここで消えてもらった方がいいかもな」
ダーウバンはニヤっと笑うと、とんでもないことをぬかしてみせた。
「お前、確か娘がいたな? 十五年前に俺が仕込んでやったガキだ。つまりこの俺様の娘ってことになるわけだ。てめえの旦那は放っといてもくたばるだろうから、わざわざ手を汚す必要もねえ。てめえら二人は今ここで始末するとして、娘が生き残ってたんじゃ後々面倒だ。そいつは闇市にでも売り飛ばして銭に変えてやらぁ」
それを聞いて黙っていられなかったのは息子のアーティットだ。一も二もなくダーウバン相手に食ってかかった。
「ふざけんなッ! 妹に手を出したら許さねえ!」
拳を握り締めて今にも殴り掛からん勢いで睨みをきかす。ダーウバンはせせら笑った。
「クソ生意気なガキが! てめえ、もしかして俺の娘に惚れてんじゃあるめえな? 俺ァこれでもあいつの父親だ。誰がてめえみてえな小汚ねえガキの好きにさせるかってんだ!」
襟首を掴み上げ、思い切り張り手を食らわそうとしたその時だった。
「そこまでだ!」
倉庫中に響き渡る怒号で、その場の誰もが声の主を振り返った。
「ダーウバンってのはてめえか――。救いようのねえクズだな。てめえのような輩は生かしておく価値もねえ。俺があの世へ送ってやろう」
「ンだとッ! 誰だ、てめえ――」
ダーウバンは掴み上げていた息子の胸ぐらを放して声の主に凄み掛かった。――が、真冬の寒さに白い煙が立つ中、ゆっくりと姿を現した声の主を目にするなりギョっとしたように足をもつれさせて後退さる。そこには怒りの光背を背負ったような周が焔の如く姿で立っていた。
「き、貴様……誰だ」
「てめえのようなクズに名乗ってやる筋合いもねえがな。さすがのバカでも察しはつくだろう」
ギラギラと光る鋭い瞳。ただ立っているだけで絶対に敵わないと尻込みさせられるような威圧感――。ダーウバンはしどろもどろながらもそれが周焔であると悟ったようだった。
「……ッ!? 貴様……ま……さか、周……か? クソッ! こんのアマッ! ふざけたことしやがって……」
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