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陰謀
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そうしていくつの朝と夜を迎えただろう。共に放心状態というほどに激しく愛し合った後、二人乱れたシーツの海の上、同じような表情で同じような体勢でぼうっと天井を見上げていた。大の字にひっくり返ったまま、肩を並べてただただ重力に身を任せる。ふと、冰が掠れた声で気怠げに言った。
「ねえ白龍……」
「ん――。腹が減った。メシを食おう」
「うん。けどその前に――」
「そうだな。お前の――」
「あなたの――」
残り香を消すのはもったいないけど――
「とりあえず湯に浸かろう。その後で美味いメシを食って、腹が満たされたら」
「またひとつになればいいよね」
「だな。それじゃそろそろ起きるか」
「うん……!」
二人同時にゆっくりと、シーツの海から半身を起こす。
「あ……たたたッ、うわぁ……全身ダルダル……」
「……ッ、俺もだ」
さすがに張り切りすぎたか。というよりも没頭し過ぎた。
「あははは……! 俺たち、いったい何日こうしてたんだろ」
「何日……というほどじゃねえだろう。ほんの一晩、いや二晩くれえじゃねえか?」
「なんか、もう二年くらいこうしてたように思えるよ」
「はは……、すっかり社の方もサボってしまったな……」
「うん……。李さんと劉さんに謝らなきゃだね」
こんなことは起業して以来初めてだ。社の仕事を放って、しかも無断欠勤――。いくら驚愕の出来事に見舞われて、それが一件落着した直後とはいえ、一国一城の主として――それ以前に社会人としてあってはならない怠惰さといえる。きっと李も劉も自分たちの気持ちを察して、好きにさせてくれていたのだろう。無断で社に顔を出さなかったこの日丸一日、彼らはしっかり業務をこなし、社を守ってくれていたことだろう。
「その分、明日からはバリバリ働かなきゃ!」
「ああ、そうだな」
ようやくと身体も意識も目覚めてきた感覚に、再び額と額をコツリと合わせて微笑み合う。
と、タイミング良くかダイニングの方から美味しそうな匂いが漂ってきて同時に腹が鳴った。それと共に『お食事のお支度が整ってございますぞ』と、ドア越しから真田の呼ぶ声――。
「さすがは真田だな。絶妙なタイミングでメシを用意してくれたようだ」
満足げな笑みと共に周がベッドを抜け出してドアを開けると、そこには釈迦様か仙人様かというような笑みを讃えた真田がビシッといつもの黒服に身を包んで立っていた。
「おう、真田。すまねえな」
ちょうど腹が減ったところだったんだ――そう言おうとした矢先だ。
「坊っちゃまぁ……」
慈愛の笑みと思えた表情が段々と鬼のような形相に変わり、白目が逆三角のかまぼこ型になっていく。ふと見ればその手には掃除用のハタキ、それに脇にはベッドリネンなどが積まれた銀色のワゴン。
「坊っちゃま! 冰さん! 無断でお仕事をサボるとは何事! お食事も摂らず、ベッドリネンも変えずに二晩も!」
まるで父親のごとくそう言って、アニメかコミックかというような表情で目を三角に吊り上げている。
「いや、待て待て……! サボったのは認めるが――二晩も経っちゃいねえだろう……。俺の記憶じゃ今日一日だけだったかと……」
上海から帰国したのが昨日の夕刻だった。ということは、どう考えてもサボったのは今日一日のはず――。指折り数えながら眉根を寄せる『坊っちゃま』に、真田は額にビキっと青筋を立てて睨みを利かす。
「細かいことはどうでもよろしい! おサボりなすったのは事実でございましょうが」
逆三角形の目が再びカーッと吊り上がる。こうなってはさすがの周もタジタジだ。
「ねえ白龍……」
「ん――。腹が減った。メシを食おう」
「うん。けどその前に――」
「そうだな。お前の――」
「あなたの――」
残り香を消すのはもったいないけど――
「とりあえず湯に浸かろう。その後で美味いメシを食って、腹が満たされたら」
「またひとつになればいいよね」
「だな。それじゃそろそろ起きるか」
「うん……!」
二人同時にゆっくりと、シーツの海から半身を起こす。
「あ……たたたッ、うわぁ……全身ダルダル……」
「……ッ、俺もだ」
さすがに張り切りすぎたか。というよりも没頭し過ぎた。
「あははは……! 俺たち、いったい何日こうしてたんだろ」
「何日……というほどじゃねえだろう。ほんの一晩、いや二晩くれえじゃねえか?」
「なんか、もう二年くらいこうしてたように思えるよ」
「はは……、すっかり社の方もサボってしまったな……」
「うん……。李さんと劉さんに謝らなきゃだね」
こんなことは起業して以来初めてだ。社の仕事を放って、しかも無断欠勤――。いくら驚愕の出来事に見舞われて、それが一件落着した直後とはいえ、一国一城の主として――それ以前に社会人としてあってはならない怠惰さといえる。きっと李も劉も自分たちの気持ちを察して、好きにさせてくれていたのだろう。無断で社に顔を出さなかったこの日丸一日、彼らはしっかり業務をこなし、社を守ってくれていたことだろう。
「その分、明日からはバリバリ働かなきゃ!」
「ああ、そうだな」
ようやくと身体も意識も目覚めてきた感覚に、再び額と額をコツリと合わせて微笑み合う。
と、タイミング良くかダイニングの方から美味しそうな匂いが漂ってきて同時に腹が鳴った。それと共に『お食事のお支度が整ってございますぞ』と、ドア越しから真田の呼ぶ声――。
「さすがは真田だな。絶妙なタイミングでメシを用意してくれたようだ」
満足げな笑みと共に周がベッドを抜け出してドアを開けると、そこには釈迦様か仙人様かというような笑みを讃えた真田がビシッといつもの黒服に身を包んで立っていた。
「おう、真田。すまねえな」
ちょうど腹が減ったところだったんだ――そう言おうとした矢先だ。
「坊っちゃまぁ……」
慈愛の笑みと思えた表情が段々と鬼のような形相に変わり、白目が逆三角のかまぼこ型になっていく。ふと見ればその手には掃除用のハタキ、それに脇にはベッドリネンなどが積まれた銀色のワゴン。
「坊っちゃま! 冰さん! 無断でお仕事をサボるとは何事! お食事も摂らず、ベッドリネンも変えずに二晩も!」
まるで父親のごとくそう言って、アニメかコミックかというような表情で目を三角に吊り上げている。
「いや、待て待て……! サボったのは認めるが――二晩も経っちゃいねえだろう……。俺の記憶じゃ今日一日だけだったかと……」
上海から帰国したのが昨日の夕刻だった。ということは、どう考えてもサボったのは今日一日のはず――。指折り数えながら眉根を寄せる『坊っちゃま』に、真田は額にビキっと青筋を立てて睨みを利かす。
「細かいことはどうでもよろしい! おサボりなすったのは事実でございましょうが」
逆三角形の目が再びカーッと吊り上がる。こうなってはさすがの周もタジタジだ。
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