極道恋事情

一園木蓮

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陰謀

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「白龍……白龍……!」
 クイとつま先で立ち、白魚のような指で愛しい男の頬に伝う熱い雫を拭う。

 こんなふうに涙してまで自分を愛しいと言ってくれる。それこそが信じられないくらいで、身体中が震えてやまない。

「白龍……あなたに……そんなふうに想ってもらえるような人間じゃない、俺……。でも――ありがとう。本当に――俺」

 それこそ上手くは言葉にならない。

「泣かないで――。あなたと俺は一心同体の夫婦だもの。あなたの想いは俺の想いで、俺の想いはあなたの想いで――」

 一心同体というひとつのものは例えどんな悪意によっても、陰謀によっても裂くことなどできないのだから――!

 あなたの身が、心が、滅びることがあるとするなら、同時にこの身も心も滅びるだろう。この身が、心が、無くなる時はあなたの心身も共に消滅する。
 二人の間には互いを気遣い、自分が滅びても相手を救いたいというような思いすら存在しない。片方が壊れればもう片方も共に壊れ、片方が幸せならばもう片方も幸せとなる。

「だって俺たちは――」

 同じ重さの想いを分かち合い、同じ肉体を持ったひとつの存在なのだから――!

 どんなに尊い愛を抱こうと、深く強い想いを抱こうと、この世にこれほどまでに強い絆によって結びつけられる相手と巡り会えるだろうか。
 自分よりも相手が大事――その感情を遥かに超えて、真に一体となれるほどに強い愛情があるだろうか。

「俺たちには怖いものなんてない。どちらかのせいでどちらかが傷付くなんてこともない。互いに対する申し訳ないなんて思いも存在しない。いつか誰かの悪意によって引き裂かれるかも知れないなんていう心配も要らない。だって俺はあなたで、あなたは俺なのだから――」
「ああ。ああ――そうだな」

 俺たちは一心同体の夫婦だ――!

 溶け合おう。慈しみ合おう。愛し合おう。
 今、目の前にある絹糸のような髪も、陶器のようになめらかな肌の温もりも。
 逞しく頼り甲斐のある胸板も、すべてを見抜くほどの鋭くキレのある瞳も。
 愛しい想いもすべてをひとつに混ぜてしまおう。
 二つの頬を伝うとめどなくあふれる涙をもひとつにすべく、無我の境地で温もりを重ね合わせよう。
 深く身体を繋ぎ、時の流れさえもとめてしまうほどに睦み合おう。
 次の朝が来ても、そのまた次の夜が巡っても、決して離れることがないように、魂と魂をひとつにすべく溶け合おう。

 そんな思いのままに二人は無言ですべてを絡め合い、溶け合った。夜が明けて空が白み、その空にまた蒼い闇が降りてもなお、果てしなく求め合い、溶け合った。




◇    ◇    ◇


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