極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
1,106 / 1,212
三千世界に極道の涙

しおりを挟む
「で? 依頼を引き受けるんか?」
「ああ。とりあえず一度下見に行ってみようと思うんだが――」
 だったら俺も伊三郎の親父さんの顔を見がてら付いて行くと言った紫月に、鐘崎も有り難く同意することにした。
 ところがなんとそんな話が耳に入った周と冰が、自分たちも一緒に行きたいと言い出したのだ。
「あいつらも久しぶりに伊三郎さんたちと会いたいと言ってな」
 どうせなら組員や李らも交えて皆で顔を出そうということに決まったのだった。



◇    ◇    ◇



 鐘崎らが揃って伊三郎の元を訪れたのは、まだ店が開く前の昼過ぎ頃である。例の客たちがやって来る前に粗方の経緯を聞く為だった。
「紅椿! 皆さんも……! お久しゅうございます! この度はご足労をお掛けして申し訳ない」
 伊三郎は紫月のことを未だ『紅椿』と呼んでいる。例の事件当時、花魁紅椿として店子であったそのままの感覚でいるのだ。
 一通り再会を懐かしんだ後、早速に状況を聞くこととなった。
「とにかく酷いものでして……きゃつらが最初にこの街へ訪れるようになったのはひと月ほど前のことです。芸妓の態度や料理に文句をつけては、毎度酷い言葉で恐喝した挙句、暴れるようになり申した。ここ最近では飲み代も全てツケに変わってしまい、挙句は平気で踏み倒す勢いです。番所にも都度出向いていただいているのですが、こう頻繁ではどうにも対応が間に合いませんでな」
 だが、この街へ来るには厳重な審査と既存の客からの紹介がなければ入り口の大門すら潜れない仕様のはずである。鐘崎がそこのところはどうなっているのかと訊くと、伊三郎からは意外な答えが寄せられた。
「実はその無法者らがこの街に出入りすることになったきっかけですが、最初は真っ当な方からのご紹介があってのことだったのです。これまでにも散々ご贔屓にしてくださっていた大きな企業のご紹介でした」
 つまりれっきとした太客の紹介というらしい。初めの数回は普通の客として訪れていたそうだが、次第に接待だからと理由をつけては同行する連中が増えていき、あれよという間に無法化していったそうだ。
「ご紹介元は我々にとってもご上得意様でしたし、紹介された側も有名な銀行の頭取をなさっているお家柄のお客様でした。まさかこのような無体をするとは思いもよりませんでした」
「銀行家――か。親父さん、その客と紹介者のリストがあったら見せてはもらえまいか」
 鐘崎が尋ねると、伊三郎はもちろんですと言って顧客リストを持ってきた。
「それから、あなた方にお見せしようと思って防犯カメラの映像も用意してございます」
 大門には密かに監視カメラが設置されていて、誰がこの街に出入りしたかという記録が残してあるとのことだ。
「それは有り難い。早速拝見させてください」
 鐘崎と周、それに李らで確認したところ、思い掛けない社名が見つかって驚かされることと相成った。
 紹介者の名簿の中になんと源次郎の知り合いだという町永汰一郎が勤める証券会社を見つけたからである。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...