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三千世界に極道の涙
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当の源次郎には組の留守番を預けていて、今日この場には来ていなかったのだが、間違いなく汰一郎が勤めている社の名前である。鐘崎は例の盗聴器の件以降、汰一郎の周辺について少々調べを進めていたので、すぐに気が付いたわけだった。
驚いたのはそれだけではない。なんと、汰一郎の社から紹介された側の銀行というのが、これまた鐘崎にとっては驚愕といえるものだったからだ。
「こいつぁ……二十年前に町永汰一郎の両親が亡くなった事件の発端となった不良少年グループの一人が勤めている銀行じゃねえか」
その銀行の頭取の息子が汰一郎の父親を刺した張本人だったのだ。
「じゃあ……まさか今回の件は……その汰一郎ってヤツが絡んでるってか?」
とすれば鐘崎や紫月にとっては他人事で済まされる話ではない。源次郎の知り合いであり、しかも数日前には組の応接室に盗聴器を仕掛けられたこともあり、不穏なピースが揃っていくように思えるからだ。
逸る気持ちで監視カメラの映像を確認すれば、その不安は現実のものとなってしまった。
「見ろ――こいつが町永汰一郎だ」
映像には汰一郎の他に三名ほどが映っている。皆スーツ姿なので、会社絡みの接待といったところか。
「一緒にいるヤツらは会社関係者だろうか」
「おそらくそうだろう……」
歳の頃からして汰一郎の上司と思われる。
「つまりこういう経緯だろう。汰一郎は社の接待を通してこの地下街に出入りする機会を得た。それと同時に地上のどこかで二十年前に自分の父親を刺した犯人が有名銀行家の息子だということを知ったんだ。そこでこの地下遊郭街に招待することで犯人との接触を試みようとした――と考えれば辻褄が合うんじゃねえか?」
「もしかしたらその汰一郎ってヤツは二十年前の犯人をずっと捜していたのかも知れんな」
「あるいは――そういう気はなかったにせよ、仕事繋がりで偶然犯人と接触する機会を得たのかも知れん」
証券会社と銀行の間柄なら、それも不思議ではない。
「汰一郎は当時まだ十歳そこらの子供だった。だが、相手の不良少年は既に高校生くらいにはなっていたはずだ。一目見てその時の犯人だと悟ったのかも知れん。仕事で銀行に出入りするうち、偶然にその時の犯人が頭取の息子だと知ったとしたら――」
「その不良少年の方は汰一郎のツラを覚えていなかったということになるな。まあ当時はまだ十歳のガキだったわけだ。大人になって風貌が変わっちまったろうし、それも当然というところか」
鐘崎と周が仮定を組み立てる中、紫月が口を挟んだ。
「そういや遼は当時の事件について調べてたろ? 犯人の少年はその後どういう経緯を辿ったんだ?」
「ああ、汰一郎の父親を刺したのはこの――見晴銀行頭取の息子で間違いねえ。当時はまだ頭取ではなく管理職だったが、その頃から息子には甘かったようだ。高校生にはおおよそ釣り合わねえような小遣いを与えていたらしく、息子の方は不良少年たちの間でも一目置かれていたようだ。ヤツは確かに汰一郎の父親を刺したに違いねえが、傷は思ったよりも浅かったそうでな。直接の死因は揚げ物の鍋に引火したことによる火災だった。傷害で一応は少年刑務所に送られたが、割合短期間で出所している」
「じゃあ出所後に親父さんと同じ銀行に就職したってわけか」
驚いたのはそれだけではない。なんと、汰一郎の社から紹介された側の銀行というのが、これまた鐘崎にとっては驚愕といえるものだったからだ。
「こいつぁ……二十年前に町永汰一郎の両親が亡くなった事件の発端となった不良少年グループの一人が勤めている銀行じゃねえか」
その銀行の頭取の息子が汰一郎の父親を刺した張本人だったのだ。
「じゃあ……まさか今回の件は……その汰一郎ってヤツが絡んでるってか?」
とすれば鐘崎や紫月にとっては他人事で済まされる話ではない。源次郎の知り合いであり、しかも数日前には組の応接室に盗聴器を仕掛けられたこともあり、不穏なピースが揃っていくように思えるからだ。
逸る気持ちで監視カメラの映像を確認すれば、その不安は現実のものとなってしまった。
「見ろ――こいつが町永汰一郎だ」
映像には汰一郎の他に三名ほどが映っている。皆スーツ姿なので、会社絡みの接待といったところか。
「一緒にいるヤツらは会社関係者だろうか」
「おそらくそうだろう……」
歳の頃からして汰一郎の上司と思われる。
「つまりこういう経緯だろう。汰一郎は社の接待を通してこの地下街に出入りする機会を得た。それと同時に地上のどこかで二十年前に自分の父親を刺した犯人が有名銀行家の息子だということを知ったんだ。そこでこの地下遊郭街に招待することで犯人との接触を試みようとした――と考えれば辻褄が合うんじゃねえか?」
「もしかしたらその汰一郎ってヤツは二十年前の犯人をずっと捜していたのかも知れんな」
「あるいは――そういう気はなかったにせよ、仕事繋がりで偶然犯人と接触する機会を得たのかも知れん」
証券会社と銀行の間柄なら、それも不思議ではない。
「汰一郎は当時まだ十歳そこらの子供だった。だが、相手の不良少年は既に高校生くらいにはなっていたはずだ。一目見てその時の犯人だと悟ったのかも知れん。仕事で銀行に出入りするうち、偶然にその時の犯人が頭取の息子だと知ったとしたら――」
「その不良少年の方は汰一郎のツラを覚えていなかったということになるな。まあ当時はまだ十歳のガキだったわけだ。大人になって風貌が変わっちまったろうし、それも当然というところか」
鐘崎と周が仮定を組み立てる中、紫月が口を挟んだ。
「そういや遼は当時の事件について調べてたろ? 犯人の少年はその後どういう経緯を辿ったんだ?」
「ああ、汰一郎の父親を刺したのはこの――見晴銀行頭取の息子で間違いねえ。当時はまだ頭取ではなく管理職だったが、その頃から息子には甘かったようだ。高校生にはおおよそ釣り合わねえような小遣いを与えていたらしく、息子の方は不良少年たちの間でも一目置かれていたようだ。ヤツは確かに汰一郎の父親を刺したに違いねえが、傷は思ったよりも浅かったそうでな。直接の死因は揚げ物の鍋に引火したことによる火災だった。傷害で一応は少年刑務所に送られたが、割合短期間で出所している」
「じゃあ出所後に親父さんと同じ銀行に就職したってわけか」
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