極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の涙

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 頭取の息子の名は代田憲しろた けんといった。歳は三十七――、二十年前に事件を起こした時は十七歳の高校生だったということになる。汰一郎より七つほど上だが、現在は父親が頭取を務める見晴銀行で営業を担当しているようだ。
「同じ営業マン同士、接点があったのかも知れんな」
 この地下街での接待を口実に代田に近付き、交友を深めることで探りを入れているのかも知れない。
「俺が調べたところでは、代田憲は四十近くになった今でも昔からの気質はあまり変わっていないようだ。頭取の息子という立場をいいことに、仕事はいい加減。態度もデカく、社内での評判はあまり良いとは言えんな」
 そんな男だ、この地下街で無体を働いたとしても不思議はない。
「問題は汰一郎とその代田がどのように関わっているかということだ。仮に代田と近付きになる為に汰一郎がここへの出入りを手引きしたとして、目的は何だというのだ」
 おそらく代田の方では汰一郎の顔さえ覚えていないのだろうから、よもや親の仇として狙われているなどとは夢にも思っていないだろう。
 皆で考え込む中、紫月がとある仮定を口にしてみせた。
「なあ、こういうのはどうだ? 汰一郎は代田憲が大人になった今も相変わらずのならず者と知って、敢えてここを紹介した。おそらく代田のことだから、ここでもイチャモンをつけたり芸妓に手を出したり、迷惑行為をするだろうことを予想して――だ。それによって代田がパクられれば、親父の頭取もろとも失脚させられる。イコール復讐になると考えた――とか」
 確かに一理あるかも知れない。
「だが、源さんを訪ねて盗聴器まで仕掛けた理由は何だ。それに――もしも復讐を考えているんだとすれば、暴行騒ぎでパクられる程度で気が済むだろうか。見晴銀行といえば国内じゃ有名どころだからな。そこの頭取の息子となればマスコミも一時は騒ぎ立てるだろうが、実際罪としてはそう重くもならんだろう。せいぜい執行猶予がつくか、実刑を食らったとしてもすぐにシャバへ出てくるのは目に見えてる」
 その程度で汰一郎の気が済むかというところだ。
「源さんを訪ねて来たのは……本当にこれまでの礼を言いたかっただけとか……? あ、けどそれなら盗聴器の意味が分かんねえか……」
「いずれにせよ、代田の一味がこの地下街を荒らしているのは事実だ。まずはそれを制圧するとして、汰一郎の出方を待つしかあるまい。うちの応接室に仕掛けた盗聴器を回収しにヤツが再び姿を現した時は、俺も源さんと共に会ってみようと思う」
 ひとまず今晩から早速用心棒として鐘崎組の若い衆数人をこの地下街に常駐させることに決めた。
「それから――伊三郎の親父さん。町永汰一郎の証券会社が贔屓にしていた置屋が分かれば教えていただけないか」
「はい。大空証券様でございますな。その方々にご贔屓いただいているのは最上屋という店でございます。この街のちょうど半ば辺りに位置しておりましてな。涼音という芸妓が御職を張っており、なかなかに人気が高うございます。店のご主人も昔からよう存じておりますが、芸事のレベルも高く、粋を重んじるたいへんいい店でございますよ」
「最上屋か――。その店で少し話を聞きたいのだが――」
「ではご案内いたしましょう」
 鐘崎らは最上屋に出向いて汰一郎らの様子を訊くことにした。
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