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三千世界に極道の涙
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「そうだな。まずヤツが源さんを訪ねて来た理由だが、ヤツの言い分としてはこれまで世話になったことへの礼を言いたかったということだが――」
「まあ、礼ってのは口実だろうな。真の目的はどう考えても盗聴器の方だろうぜ」
周の言うには、汰一郎が源次郎を何かの形で利用したいのは間違いないように思うとのことだ。
「ヤツは鐘崎組が裏の世界の極道だと知っているということだったな?」
「そのようだな。そこの番頭の源さんになら代田らのような危ねえ連中でも抑えられると思ったってな話だが――」
「とすればよ、時系列がこう変わってくるんじゃね?」
紫月がリストに色のついたペンで書き足しながら言う。
「まず――汰一郎が代田と再会して、近付きになろうと地下街へ誘った。最初っから真っ向暴れ出すってのは考えにくいから、二人は何度かあの地下街で会う機会を重ねていったとするべ? そんで、最上屋に通う内に汰一郎の方が涼音とデキちまった。次第に代田が傍若無人な振る舞いをするようになって、ヤツがパクられるっつー最初の目的は達成目前までいったが、今度は涼音に危険が及びそうになって汰一郎は焦った。そこで源さんに礼を言いがてら助けてもらうつもりで組を訪ねて来た」
盗聴器は本当に源次郎が頼りになるかどうかを探りたかった為ではないかという。
「なるほど、それなら道理は通るか――」
皆の想像が出揃ったところで、鄧からは思いもよらない意見が述べられた。
「では皆さんの今のご想像をパターン壱としましょう。パターン弐は私の想像です。少々ひねくれた考えやも知れませんが、ひとつの考え方程度に聞いてください」
鄧はそう前置くと、鐘崎ら四人には考えもつかなかったことを話し出した。
「町永汰一郎は二十年前の事件で両親を失ったわけですが、その時一緒にいた同級生らのご家族は皆無事でした。源次郎さんはたまたま通り掛かったことで仲裁に入り、たった一人で刃物を手にした少年数人をほぼ制圧した。結果として町永夫妻以外の三家族を救うことに成功したということになります。幼かった汰一郎少年としては、こんなに強い人が何故自分の両親も救ってくれなかったのだ――とは思わなかったでしょうか」
それを聞いて四人全員が驚いたように瞳を見開いた。
「……つまりは、なんだ。鄧は町永汰一郎が源次郎氏に対して恨みを抱いているんじゃねえかと思うわけか?」
「ひとつの可能性としてです。汰一郎少年はその後も源次郎さんが口利きした施設で暮らし、それまでと同じ小学校に通ったとのことでしたね? だとすれば、事件の時に一緒にいた三家族の同級生らとも共に過ごしたわけです。彼らの両親は救われて健在、なのに自分だけは親も家も失って不幸になった。あの時、源次郎さんが自分たちのことも助けてくれていれば、こんな思いはしなくて済んだ――と、そのように思ったかも知れないということです」
周らは驚いていたが、鐘崎には思い当たる節があったようだ。
「――そういえば源さんが言っていたな。最初に汰一郎がウチの組を訪ねて来た日のことだ。ヤツが盗聴器を仕掛けていった理由は何だと思うと訊いたところ、彼の両親だけを救ってやれなかったことに対する恨みじゃねえかと……」
源次郎にはたった今鄧が言ったような可能性が頭にあったということになる。
「まあ、礼ってのは口実だろうな。真の目的はどう考えても盗聴器の方だろうぜ」
周の言うには、汰一郎が源次郎を何かの形で利用したいのは間違いないように思うとのことだ。
「ヤツは鐘崎組が裏の世界の極道だと知っているということだったな?」
「そのようだな。そこの番頭の源さんになら代田らのような危ねえ連中でも抑えられると思ったってな話だが――」
「とすればよ、時系列がこう変わってくるんじゃね?」
紫月がリストに色のついたペンで書き足しながら言う。
「まず――汰一郎が代田と再会して、近付きになろうと地下街へ誘った。最初っから真っ向暴れ出すってのは考えにくいから、二人は何度かあの地下街で会う機会を重ねていったとするべ? そんで、最上屋に通う内に汰一郎の方が涼音とデキちまった。次第に代田が傍若無人な振る舞いをするようになって、ヤツがパクられるっつー最初の目的は達成目前までいったが、今度は涼音に危険が及びそうになって汰一郎は焦った。そこで源さんに礼を言いがてら助けてもらうつもりで組を訪ねて来た」
盗聴器は本当に源次郎が頼りになるかどうかを探りたかった為ではないかという。
「なるほど、それなら道理は通るか――」
皆の想像が出揃ったところで、鄧からは思いもよらない意見が述べられた。
「では皆さんの今のご想像をパターン壱としましょう。パターン弐は私の想像です。少々ひねくれた考えやも知れませんが、ひとつの考え方程度に聞いてください」
鄧はそう前置くと、鐘崎ら四人には考えもつかなかったことを話し出した。
「町永汰一郎は二十年前の事件で両親を失ったわけですが、その時一緒にいた同級生らのご家族は皆無事でした。源次郎さんはたまたま通り掛かったことで仲裁に入り、たった一人で刃物を手にした少年数人をほぼ制圧した。結果として町永夫妻以外の三家族を救うことに成功したということになります。幼かった汰一郎少年としては、こんなに強い人が何故自分の両親も救ってくれなかったのだ――とは思わなかったでしょうか」
それを聞いて四人全員が驚いたように瞳を見開いた。
「……つまりは、なんだ。鄧は町永汰一郎が源次郎氏に対して恨みを抱いているんじゃねえかと思うわけか?」
「ひとつの可能性としてです。汰一郎少年はその後も源次郎さんが口利きした施設で暮らし、それまでと同じ小学校に通ったとのことでしたね? だとすれば、事件の時に一緒にいた三家族の同級生らとも共に過ごしたわけです。彼らの両親は救われて健在、なのに自分だけは親も家も失って不幸になった。あの時、源次郎さんが自分たちのことも助けてくれていれば、こんな思いはしなくて済んだ――と、そのように思ったかも知れないということです」
周らは驚いていたが、鐘崎には思い当たる節があったようだ。
「――そういえば源さんが言っていたな。最初に汰一郎がウチの組を訪ねて来た日のことだ。ヤツが盗聴器を仕掛けていった理由は何だと思うと訊いたところ、彼の両親だけを救ってやれなかったことに対する恨みじゃねえかと……」
源次郎にはたった今鄧が言ったような可能性が頭にあったということになる。
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