極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の涙

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 まずはこの賭場の席をどういう流れに持っていくか――である。実際に壺を振る冰も、今の代田らの会話を聞いていて汰一郎をカモにしていることを知り、正直いい気分ではない。ここはひとつ思い切り上げてから地獄に叩き落として、お灸を据えてやるのも悪くない。周もまたそう思ったわけか、ひどく端折った広東語でそのことを冰に知らせた。聞きようによっては江戸弁とも取れる言い回しに代田らには意味が分からなかったようである。

[持ち上げて落とす]

 つまり、最初の内は稼がせてやれという意味だ。代田らに大金を握らせたところで一気に丸裸に剥いてやろうという策である。当然、取り返そうと挑んでくるのは見えているから、そこから先は立て続けに叩き潰して、膨大な払いを要求すれば間違いなく暴れ出すことだろう。とはいえ、最初から勝負など有って無いも同然だ。汰一郎がツケを負う必要もない。
「では――どちらさんもよろしゅうござんすか? 入ります」
 冰が壺を振ると、中盆役である周が強面の掛け声で張るようにうながし始める。
「さあ、張った張った!」
 代田らは本物の賭場の雰囲気に押され気味でいる。張れと言われても何をどうすればいいのかまるで分からない様子で、互いに仲間を見やりつつキョロキョロと視線を泳がせている。しかしながらさすがに『やり方が分からない』と言うのはプライドが許さないわけだろう、知ったかぶりでまずは代田が「丁」と言った。
 すると仲間たちも何となく意味が分かったのか、続けて「半」という声が掛かり、皆それに倣うようにしてオズオズと賭け始める。丁半それぞれ半々くらいの割合に出揃ったところで、最初の勝負が告げられた。
「三ゾロの丁!」
 まずは代田が賭けた『丁』の目を出して、いい気分に持ち上げてやることとする。案の定、代田は上機嫌で、次の勝負もやる気満々の様子だ。他の仲間たちもやり方が分かってきたのか、『なんだ、簡単じゃねえか』とでもいうように調子づいていった。
 その後も代田に八割型勝たせるように目を操り、仲間全員合わせると目を剥くような額の現生を目の前に積んでやったところ、誰もが発狂するくらいに喜び勇んで賭場は大盛り上がりと化していった。
「うっひゃあー! たまんねんなー!」
「見ろよ、この札束の山! こんなの見たの生まれて初めてだぜ!」
「つか、チョロいチョロい! こんなおもしれえモンとは思わなかったぜ!」
 誰もが浮き足立つ中、代田はマウントを取りたいわけか、皆に向かって鼻高々でしゃくってみせた。
「はん! 情っけねえなあ、てめえら! この程度の札束でビビってんじゃねーよ。俺なんか毎日飽きるほど見てるわ!」
 とはいえ単に銀行内で動く金だろうがと突っ込みたいところだが、わざわざ仲間の前でも威張り散らしたい様子からするに、この代田という男の浅はかさがよくよく窺える場面といえる。
 さて、そろそろ潮時であろう。ここまで散々持ち上げて一時の夢を見させてやったのだ。今からは地獄の方も味わってもらわねばならない。
 周と鐘崎が目配せで合図をし合った折だった、代田の方からとんでもない案を持ち掛けられて、瞬時に場が凍りつくこととなった。
「なあ! せっかくの賭場だ。俺らだけで楽しんでるんじゃ味気ねえだろ? どうだ、こっからはその綺麗な花魁の姉ちゃんと勝負しようじゃねえか!」
 なんと花魁相手に対戦したいと言い出したのだ。しかも、自分たちが勝てば、一晩花魁を好きにしていいということでどうだなどと言っている。
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