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三千世界に極道の涙
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花魁と代田の一発勝負ということから、冰は紫月が告げるだろう『二六の丁』の目を用意して代田の出方を待つ。鐘崎と紫月の誕生日を示す目だ。
「主さんがお先に賭けなんし」
「ふ、ふん……! 随分と余裕ぶっこいてくれっじゃねえか……。俺が先に賭けろってかよ」
先に賭けろと言われてますます膝が震える。ここでしくじれば大金の山が一瞬で消えるわけだ、それも当然であろう。
「……クソッ……ちょ、丁だ! 丁!」
迷った挙句に代田はそう吐き捨てた。ところが紫月は少々呆れた素ぶりで軽やかに笑う。
「おやおや、主さん。これは一発勝負でありんすよ? 目の数も当てていただきませんと」
「……? 目の数だ?」
「サイコロの目の数字でありんすよ。一と二なら足して三。つまり奇数で半でありんしょ? 二と四の目なら足せば六。偶数だから丁」
そう言われて、『なんだ、そういうことか』と、ようやくやり方を理解したようだ。
「ふ、ふん……! ンなこたぁいちいち言われなくても解ってらぁ! そんじゃ……二と六。足して八の偶数になるから丁だ!」
なんという偶然か、紫月が告げるはずの『二六の丁』を選んでしまった。実際、今時点で壺の中の目は二六の丁になっているはずである。少々焦らされたものの、当の冰からは『問題ない』といったように余裕の笑みが浮かんでいる。壺を開く時点で目をごまかせるという合図である。
それを悟った紫月は、自分が告げる目を暗号に乗せて冰へと知らせることにした。
「ではわちき――紅椿はどういたしましょうねぇ」
紅椿、それは紫月の源氏名であると同時に、イコール鐘崎の彫り物だ。つまり鐘崎の誕生日である六月六日、告げる目は『六ゾロの丁』というわけだ。
冰は目線の動きだけで了解の合図を送る。
「決めた。わちきは六ゾロの丁にいたしましょ」
ここで中盆役の周がハリのある声で勝負を確認する。
「そちらさんは二六の丁、花魁は六ゾロの丁! どちらさんもようござんすか」
「構わねえ! 早いとこ勝負といこうぜ!」
「ようござんすよ」
確認が済んだところで誰も固唾を呑む。静寂と化した座敷内の視線が一点、壺に集中する。
ゆっくりと持ち上げられた壺から姿を現した目は――
「六ゾロの丁!」
中盆の雄々しい掛け声と同時に代田は蒼白となった。
札束の山が回収されて花魁の側に積み上げられる。
「……クソッ……クソぅ……! て、てめえら……まさかイカサマじゃねえだろうなッ!?」
声を裏返しながら代田は怒鳴ったが、当の花魁紅椿は余裕綽々で微笑んでいるだけだ。
「落ち着きなんし。うちの賭場でイカサマなんてありゃしません」
往生際が悪いですよと言いたげにクスっと笑む。
「クソ……クソぅ……! もういっぺんだ! 今度こそ……」
躍起になった代田から再度の勝負を挑まれたものの、結果は再び花魁の大勝ちとなった。
結局三度目の正直で対戦するも、完敗に至った代田はワナワナと拳を震わせながらもその顔色は蒼を通り越して真っ白である。いよいよ暴れ出すかと待ち構えていた鐘崎らだったが、何と代田は一旦手水に立つと言って座敷を出て行ってしまった。
「畜生ッ……こうなったらカモに聞くしかねえ……」
立ち上がりざまに吐き捨てた言葉から察するに、どうやら金蔓にしている汰一郎へと連絡を入れるようである。つまりあとどれくらいなら賭け金が出せるのかということを確認するつもりでいるらしい。
如何に汰一郎をカモにしているといっても、さすがに積み上げられた現生の山を目にして心配になったのだろう。これまでも散々吸い上げてきたのは事実だ。万が一汰一郎が『もう金はすっからかんで残っていない』と言えば、自分が負わされる可能性もゼロとはいえない――如何な低脳でもその程度の頭は持っているのだろう。
代田が厠で汰一郎に電話するのだろうと思った鐘崎は、客として別の部屋に潜り込ませていた組員たちに至急見張るように通達を出した。
「主さんがお先に賭けなんし」
「ふ、ふん……! 随分と余裕ぶっこいてくれっじゃねえか……。俺が先に賭けろってかよ」
先に賭けろと言われてますます膝が震える。ここでしくじれば大金の山が一瞬で消えるわけだ、それも当然であろう。
「……クソッ……ちょ、丁だ! 丁!」
迷った挙句に代田はそう吐き捨てた。ところが紫月は少々呆れた素ぶりで軽やかに笑う。
「おやおや、主さん。これは一発勝負でありんすよ? 目の数も当てていただきませんと」
「……? 目の数だ?」
「サイコロの目の数字でありんすよ。一と二なら足して三。つまり奇数で半でありんしょ? 二と四の目なら足せば六。偶数だから丁」
そう言われて、『なんだ、そういうことか』と、ようやくやり方を理解したようだ。
「ふ、ふん……! ンなこたぁいちいち言われなくても解ってらぁ! そんじゃ……二と六。足して八の偶数になるから丁だ!」
なんという偶然か、紫月が告げるはずの『二六の丁』を選んでしまった。実際、今時点で壺の中の目は二六の丁になっているはずである。少々焦らされたものの、当の冰からは『問題ない』といったように余裕の笑みが浮かんでいる。壺を開く時点で目をごまかせるという合図である。
それを悟った紫月は、自分が告げる目を暗号に乗せて冰へと知らせることにした。
「ではわちき――紅椿はどういたしましょうねぇ」
紅椿、それは紫月の源氏名であると同時に、イコール鐘崎の彫り物だ。つまり鐘崎の誕生日である六月六日、告げる目は『六ゾロの丁』というわけだ。
冰は目線の動きだけで了解の合図を送る。
「決めた。わちきは六ゾロの丁にいたしましょ」
ここで中盆役の周がハリのある声で勝負を確認する。
「そちらさんは二六の丁、花魁は六ゾロの丁! どちらさんもようござんすか」
「構わねえ! 早いとこ勝負といこうぜ!」
「ようござんすよ」
確認が済んだところで誰も固唾を呑む。静寂と化した座敷内の視線が一点、壺に集中する。
ゆっくりと持ち上げられた壺から姿を現した目は――
「六ゾロの丁!」
中盆の雄々しい掛け声と同時に代田は蒼白となった。
札束の山が回収されて花魁の側に積み上げられる。
「……クソッ……クソぅ……! て、てめえら……まさかイカサマじゃねえだろうなッ!?」
声を裏返しながら代田は怒鳴ったが、当の花魁紅椿は余裕綽々で微笑んでいるだけだ。
「落ち着きなんし。うちの賭場でイカサマなんてありゃしません」
往生際が悪いですよと言いたげにクスっと笑む。
「クソ……クソぅ……! もういっぺんだ! 今度こそ……」
躍起になった代田から再度の勝負を挑まれたものの、結果は再び花魁の大勝ちとなった。
結局三度目の正直で対戦するも、完敗に至った代田はワナワナと拳を震わせながらもその顔色は蒼を通り越して真っ白である。いよいよ暴れ出すかと待ち構えていた鐘崎らだったが、何と代田は一旦手水に立つと言って座敷を出て行ってしまった。
「畜生ッ……こうなったらカモに聞くしかねえ……」
立ち上がりざまに吐き捨てた言葉から察するに、どうやら金蔓にしている汰一郎へと連絡を入れるようである。つまりあとどれくらいなら賭け金が出せるのかということを確認するつもりでいるらしい。
如何に汰一郎をカモにしているといっても、さすがに積み上げられた現生の山を目にして心配になったのだろう。これまでも散々吸い上げてきたのは事実だ。万が一汰一郎が『もう金はすっからかんで残っていない』と言えば、自分が負わされる可能性もゼロとはいえない――如何な低脳でもその程度の頭は持っているのだろう。
代田が厠で汰一郎に電話するのだろうと思った鐘崎は、客として別の部屋に潜り込ませていた組員たちに至急見張るように通達を出した。
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