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三千世界に極道の涙
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『町永汰一郎と代田憲についてはお前からの報告通りだったが、問題は涼音という芸妓だ。彼女は汰一郎と将来を約束した仲だということだったな? だがな、どうもそれだけじゃないらしい。涼音の父親というのは以前汰一郎が担当する顧客だったようでな。ヤツに勧められた株で大損を被っていたことが判明した』
「株で大損だと?」
『当然だが涼音の父親は激怒した。損失分を保障しろと汰一郎に迫って、結局汰一郎は身銭を切って償ったそうだ。その額何と一千万だ』
「一千万? 汰一郎がそんな大金を自腹で捻出したってのか?」
『おそらくは源さんが毎月欠かさず振り込んでいた金だろう。二十年前の事件以来、汰一郎が成人して居処が分からなくなるまで源さんは年間二百万円を超える額を援助し続けてきた。それに手をつけずに貯め込んでいたとすれば、汰一郎の手元には五千万に達する現金があるはずだ。おそらくはそこから一千万円を涼音の父親に補填し、残りの金はその地下街で代田の飲み代に消えていったんじゃねえかと――俺はそう見ている』
「……なんてこった。つまり……汰一郎が涼音に近付いたのは好いた惚れたじゃなく、涼音の父親に補填させられた一千万の恨みってわけか?」
つまり、汰一郎がこの地下街に代田を引き入れた理由は、涼音の父親に対する報復の意味もあったということだろう。地上のバーやクラブでなく、この地下街でなければならなかった理由はそれだというわけか。
『まだそうとは断定できんが、何らかの思惑があって涼音に近付いたのは確かだろう。それより遼二。帰ってみたら源の字がいねえ。もしかしたらその地下街に向かったのやも知れん。俺もこれからそっちへ向かうが、念の為気をつけてやってくれ。源さんと代田が鉢合わせになればただでは済むまいからな』
僚一はそう言うと、すぐにこの地下街へ向かうと言って通話は切られた。その直後に今度は最上屋で代田の仲間たちを見張っていた組員から連絡が入る。それによると厠の個室からどこかへ通じている抜け穴を発見したとのことだ。
「抜け穴だと? クソ……なんてこった!」
鐘崎は一旦周や紫月らと合流し、今の僚一からの報告を伝えることにした。
「じゃあ……なんだ。汰一郎は代田だけじゃなく涼音にも恨みを抱いてるってわけか?」
捜索で動き回る為に紫月は花魁の衣装を脱いで大きな鬘も取っていたものの、白塗りの化粧はそのままだ。
「まだそうと決まったわけじゃねえが、汰一郎が二人を恨みに思っているという可能性は捨てきれん。もしかしたら代田が姿をくらましたのも汰一郎が手引きしたとも考えられる。あの厠を調べていた若い衆から連絡があって、抜け道を発見したとのことだ。源さんも組を出てこっちへ向かった可能性が高いという。グズグズしておれん、とにかくヤツらを捜そう!」
「分かった! んじゃ二手に分かれっか」
鐘崎と紫月、周と冰の方には綾乃木にも付いてもらって捜索を開始する。
「汰一郎は涼音を通してこの街の地理には詳しいはず――。例の抜け穴も涼音に教わったのかも知れん」
「とすれば、この街ン中で人目につかねえ場所に代田を連れ込んだ可能性もあるな」
「人目につかねえ場所か……。もしかしたら――」
鐘崎は紫月と共に以前この街を荒らしたテロリストたちが占拠していた武器庫があった辺りを調べてみることにした。
「株で大損だと?」
『当然だが涼音の父親は激怒した。損失分を保障しろと汰一郎に迫って、結局汰一郎は身銭を切って償ったそうだ。その額何と一千万だ』
「一千万? 汰一郎がそんな大金を自腹で捻出したってのか?」
『おそらくは源さんが毎月欠かさず振り込んでいた金だろう。二十年前の事件以来、汰一郎が成人して居処が分からなくなるまで源さんは年間二百万円を超える額を援助し続けてきた。それに手をつけずに貯め込んでいたとすれば、汰一郎の手元には五千万に達する現金があるはずだ。おそらくはそこから一千万円を涼音の父親に補填し、残りの金はその地下街で代田の飲み代に消えていったんじゃねえかと――俺はそう見ている』
「……なんてこった。つまり……汰一郎が涼音に近付いたのは好いた惚れたじゃなく、涼音の父親に補填させられた一千万の恨みってわけか?」
つまり、汰一郎がこの地下街に代田を引き入れた理由は、涼音の父親に対する報復の意味もあったということだろう。地上のバーやクラブでなく、この地下街でなければならなかった理由はそれだというわけか。
『まだそうとは断定できんが、何らかの思惑があって涼音に近付いたのは確かだろう。それより遼二。帰ってみたら源の字がいねえ。もしかしたらその地下街に向かったのやも知れん。俺もこれからそっちへ向かうが、念の為気をつけてやってくれ。源さんと代田が鉢合わせになればただでは済むまいからな』
僚一はそう言うと、すぐにこの地下街へ向かうと言って通話は切られた。その直後に今度は最上屋で代田の仲間たちを見張っていた組員から連絡が入る。それによると厠の個室からどこかへ通じている抜け穴を発見したとのことだ。
「抜け穴だと? クソ……なんてこった!」
鐘崎は一旦周や紫月らと合流し、今の僚一からの報告を伝えることにした。
「じゃあ……なんだ。汰一郎は代田だけじゃなく涼音にも恨みを抱いてるってわけか?」
捜索で動き回る為に紫月は花魁の衣装を脱いで大きな鬘も取っていたものの、白塗りの化粧はそのままだ。
「まだそうと決まったわけじゃねえが、汰一郎が二人を恨みに思っているという可能性は捨てきれん。もしかしたら代田が姿をくらましたのも汰一郎が手引きしたとも考えられる。あの厠を調べていた若い衆から連絡があって、抜け道を発見したとのことだ。源さんも組を出てこっちへ向かった可能性が高いという。グズグズしておれん、とにかくヤツらを捜そう!」
「分かった! んじゃ二手に分かれっか」
鐘崎と紫月、周と冰の方には綾乃木にも付いてもらって捜索を開始する。
「汰一郎は涼音を通してこの街の地理には詳しいはず――。例の抜け穴も涼音に教わったのかも知れん」
「とすれば、この街ン中で人目につかねえ場所に代田を連れ込んだ可能性もあるな」
「人目につかねえ場所か……。もしかしたら――」
鐘崎は紫月と共に以前この街を荒らしたテロリストたちが占拠していた武器庫があった辺りを調べてみることにした。
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