1,123 / 1,212
三千世界に極道の涙
23
しおりを挟む
占拠されていた当時から比べれば多少マシになったものの、やはりこの辺りは街の中心とは雰囲気が違う。空き家も多く、まだすべてが再建には至っていないようだ。一旦荒れてしまうと案外そんなものなのかも知れない。
「伊三郎の親父っさんもここまではなかなか手が回らねえってところなのか――」
少々怪しい雰囲気の中、周辺を散策していると、案の定か武器庫の辺りから人の話し声のようなものが聞こえた気がして、二人はそちらへと向かった。
◇ ◇ ◇
一方、代田の方では厠で汰一郎と鉢合わせた後、抜け穴を経て街の最奥にある蔵へと連れて来られていた。正に当時の武器庫である。そこには涼音が待っていて、代田は驚かされたようだ。
「なんでい、こんな所に連れ込んで。ヤクザから逃げるんじゃなかったのかよ」
ここは大門から一番遠くに位置する反対方向の街区である。
「こんな奥へ引っ込んじまっちゃ逃げるもクソもねえじゃねえか! 町永……てめえ、いったい何を考えてやがる……」
「まあそう焦らずに。今頃大門の辺りではさっきのヤクザたちが手ぐすね引いて僕たちを待っているでしょうし、しばらくはここでおとなしくしているのが得策ですよ。ほとぼりが冷めるのを待って密かにこの街を出ましょう」
「クソッ、とんだ災難だぜ! だいたい……! 何で今日に限ってあんな連中が居やがったんだ。俺が聞いた話じゃ涼音が風邪引いて座敷に出れねえっていうから! なのに当の涼音がここに居るって……ワケ分かんねえわ! 町永! どういうことか説明しろよ!」
代田は憤っていたが、汰一郎は存外落ち着いた様子で堂々としている。ともすればその口元に薄ら笑いまで浮かべているのに、さすがの代田も不気味に思ったようだ。
「ふ――、じゃあ説明しますよ。代田さん、僕はね。ずっとこの日を待っていたんですよ」
「は――?」
「あなたとゆっくり――誰にも邪魔されずに向き合えるこの時をね」
汰一郎は懐から短刀を出すと、それを代田に向けながら笑った。
「な……ッ! 何考えてやがる、てめえ! いったいどういうつもりだ!」
「さすがのあなたも怖いってわけですか? そりゃそうですよね。こんな刃物を向けられれば誰だって怖い。当たり前でしょう」
「町永……てめえ、気でも狂ったか……? 何で俺がこんな目に遭わされなきゃいけねんだ!」
「――そうですよね。何でこんな目に遭わされなきゃいけない、僕の父もきっとそう思ったことでしょう」
「は? てめえの親父が何だってんだ!」
「まだ分かりませんか? 本当に馬鹿なんですね、あなたって」
「んだとッ! 町永てめえ……調子コキやがって!」
「調子こいてるのはあなたでしょうが! 僕の父はね、あなた……いや、お前に刺されて死んだんだッ! 二十年前……お前らが調子こいて……イキがって乱闘騒ぎを起こしたあの事件でなッ!」
さすがの代田も当時のことを覚えていたようだ。
「は、はは……そうか……。てめえ、あん時のガキか……」
「やっと思い出したか! このクズ野郎がッ!」
汰一郎は刃物を握り締めると、ジリジリと代田に向かって刃を向けた。
「伊三郎の親父っさんもここまではなかなか手が回らねえってところなのか――」
少々怪しい雰囲気の中、周辺を散策していると、案の定か武器庫の辺りから人の話し声のようなものが聞こえた気がして、二人はそちらへと向かった。
◇ ◇ ◇
一方、代田の方では厠で汰一郎と鉢合わせた後、抜け穴を経て街の最奥にある蔵へと連れて来られていた。正に当時の武器庫である。そこには涼音が待っていて、代田は驚かされたようだ。
「なんでい、こんな所に連れ込んで。ヤクザから逃げるんじゃなかったのかよ」
ここは大門から一番遠くに位置する反対方向の街区である。
「こんな奥へ引っ込んじまっちゃ逃げるもクソもねえじゃねえか! 町永……てめえ、いったい何を考えてやがる……」
「まあそう焦らずに。今頃大門の辺りではさっきのヤクザたちが手ぐすね引いて僕たちを待っているでしょうし、しばらくはここでおとなしくしているのが得策ですよ。ほとぼりが冷めるのを待って密かにこの街を出ましょう」
「クソッ、とんだ災難だぜ! だいたい……! 何で今日に限ってあんな連中が居やがったんだ。俺が聞いた話じゃ涼音が風邪引いて座敷に出れねえっていうから! なのに当の涼音がここに居るって……ワケ分かんねえわ! 町永! どういうことか説明しろよ!」
代田は憤っていたが、汰一郎は存外落ち着いた様子で堂々としている。ともすればその口元に薄ら笑いまで浮かべているのに、さすがの代田も不気味に思ったようだ。
「ふ――、じゃあ説明しますよ。代田さん、僕はね。ずっとこの日を待っていたんですよ」
「は――?」
「あなたとゆっくり――誰にも邪魔されずに向き合えるこの時をね」
汰一郎は懐から短刀を出すと、それを代田に向けながら笑った。
「な……ッ! 何考えてやがる、てめえ! いったいどういうつもりだ!」
「さすがのあなたも怖いってわけですか? そりゃそうですよね。こんな刃物を向けられれば誰だって怖い。当たり前でしょう」
「町永……てめえ、気でも狂ったか……? 何で俺がこんな目に遭わされなきゃいけねんだ!」
「――そうですよね。何でこんな目に遭わされなきゃいけない、僕の父もきっとそう思ったことでしょう」
「は? てめえの親父が何だってんだ!」
「まだ分かりませんか? 本当に馬鹿なんですね、あなたって」
「んだとッ! 町永てめえ……調子コキやがって!」
「調子こいてるのはあなたでしょうが! 僕の父はね、あなた……いや、お前に刺されて死んだんだッ! 二十年前……お前らが調子こいて……イキがって乱闘騒ぎを起こしたあの事件でなッ!」
さすがの代田も当時のことを覚えていたようだ。
「は、はは……そうか……。てめえ、あん時のガキか……」
「やっと思い出したか! このクズ野郎がッ!」
汰一郎は刃物を握り締めると、ジリジリと代田に向かって刃を向けた。
19
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる