極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
1,131 / 1,212
封印せし宝物

しおりを挟む
 川崎、鐘崎邸――。

「冰の様子がおかしいだと?」
 その日、平日の午後だというのに周が突然組を訪れたことに鐘崎も紫月も少々驚かされることとなった。彼と会うのは大抵週末の休日で、よほど緊急の用でもない限りはこうして平日に出向いて来るなど滅多にない。しかも李も一緒だ。本来ならば商社の業務に忙しく駆け回っている時間帯でもある。だが、その理由を聞いてなるほどと思わされた。ここ最近、冰の様子がどうにもおかしいというのだ。
「おかしいって――どんなふうにおかしいんだ」
 源次郎が淹れてきた茶を勧めながら鐘崎が訊く。紫月もまた心配そうに身を乗り出していた。
「特にどこがどうというんじゃねえが――何となく塞ぎ込んでいるというか……。元気がないように思えるんだが、理由を尋ねても『何でもない』と言って埒があかねえ」
 李もまた同じように感じるという。
「ふむ――塞ぎ込んでいるとな。何か悩み事でもあるんだろうか」
 鐘崎は腕組みをしながら首を傾げた。
 冰が汐留にやって来た当初ならともかく、今はそれこそ身も心も許し合った最愛の夫婦だ。数々の災難や事件に見舞われながらも一心同体という絆の強さで乗り切ってきた二人である。そんな周と冰の間で打ち明けられない悩みなど存在するのだろうかと思わされるわけだ。
「それで――冰の様子がおかしくなったのはいつからだ?」
 何かきっかけとなるようなことがあったのかと訊くも、ところが周にはこれといって思い当たらないようだった。――が、李には心当たりがあるようだ。
「これは私の思い込みかも知れませんが……冰さんのご様子が変わられたのは、あの日の直後くらいからだったかと」
「あの日というと?」
「実は先日、かれこれ十日ほど前になりますか。老板も覚えていらっしゃいませんか? クライアントとの打ち合わせの帰りに道端で十歳くらいの少年が転んだことがあったでしょう」
 それについては周も覚えがあるようだ。
「そういやそんなことがあったな。だがそれと冰とどう関係があるってんだ?」
 あの時の母子は全く見ず知らずの他人だったし、会釈を交わしたきりで互いの名も素性も知らない。母子が礼に訪ねて来たわけでもないし、それ以前に名も知らぬ者同士、彼らには周がどこの誰かも知り得ないはずである。李もまた、それは重々承知の上のようだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...