極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「ただ……あの直後だったと思います。車まで歩く短い間でしたが、冰さんは何だかお顔の色が優れないように見受けられて、私はご体調でも芳しくないのかと思ったのを覚えています。ですがその後は普通に老板にも笑顔を見せられていましたし、私の思い過ごしかと思っておりました」
 ところが次の日、また次の日と日を追うごとに段々元気がなくなっていくように思えたという。
「表面上は笑顔も見せてくださいますし、老板がおっしゃるように特に何がどうというわけではないのですが、やはりどことなくお元気がないように思えまして――」
 周や李のみならず劉もまた同様に感じているそうだ。
「ふむ、李さんや劉さんまでそう感じるってことは――真田さんはどうなんだ?」
 真田は年長者で人を見る目にも長けている。執事という立場で、仕える主人らの些細な変化でもすぐに気がつく完璧なまでのプロだ。だがその真田もやはり皆と同様、冰の様子を気に掛けているというのだ。周にはこっそりと「鄧先生に診せられては?」と囁いてきたらしい。
「なるほどな。皆がそう感じるならやはり何かが原因で元気をなくしているのやも知れんな」
 とはいえ当の本人が何でもないと言う以上、あまりしつこく問いただすのは逆効果だろう。
「だったら一度紫月と二人で食事にでも行かせてみるか。冰がお前に隠し事をするとも思えんが、亭主だからこそ言いづれえ悩みってのもあるのかも知れん」
 その点、同じ嫁同士という立場の紫月になら案外気負わずに話してくれるかも知れないと思うのだ。紫月もまた、喜んで力になりたいと言った。



◇    ◇    ◇



 そして週末――。鐘崎と周は仕事絡みの打ち合わせがあることにして、その間紫月と冰とでランチに向かわせることとなった。
 これまでも亭主たちがしのぎの件で出掛ける間に嫁同士で食事に行くことはよくあったので、特には怪しまれずに冰を連れ出すことができた。仮に何か悩みを抱えているならと思い、万が一体調の変化などが見られた際にはすぐに帰れるようにと汐留近くにある個室タイプの落ち着いたレストランをチョイス。紫月は持ち前の明るさを振り撒きながら、それとなく話を誘導せんと試みていた。
「どした、冰君? あんま食が進んでねえみてえけど、どっか具合でも悪いんか?」
 心配そうに顔を覗き込む。すると冰は「そうではない」と首を振りつつも、弱々しく微笑んでみせた。
「あの……紫月さん? 変なこと……聞いてもらってもいいですか?」
 やはり紫月には話しやすいのだろうか、冰の方からそう切り出してくれたのは有り難かった。
「ん? いいよ! 俺で良けりゃ何でも聞くぜ」
 そう言うと、冰は安心したように小さな溜め息をついてみせた。
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