極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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 これまでは頭領である父の隼や兄の風の側近たちにも示しがつくようにとのお達しから、ファミリーの拠点である高楼に出向く時はもちろんのこと極力普段から固いイメージのスーツを纏うように躾けられてきた。それは幼少の頃からの決まり事というくらいの、ファミリー内での掟のようなものだった。買い物に行く時も然り、大学へ通う際にも比較的カジュアルながらも基本はスーツと決められていた。
 そんな周がラフなTシャツに流行りのジャンパーとジーンズなどの軽装で、しかも足元は生まれてこの方、体育の授業以外ではほぼ履いたことがないようなスニーカーなどのスタイルで邸を抜け出す姿を見れば、真田とて行き先が何処なのかは聞かずとも察しがつくというものだ。
 周は黄老人の歳の離れた兄弟の甥っ子で、冰にとっては従兄弟に当たる青年ということにして彼らの元を訪れていたのだった。アパートまで向かう際も送り迎えの車は使用せず、電車やバスを乗り継いで、お付きの一人もつけずに徒歩で通った。当然父や兄にも内緒だった。それは月に二度程度だったが、当時まだ黄老人はカジノの現役ディーラーをしていた為、帰りが遅くなることもしばしば。周は幼い冰を連れてレストランへ行き、食事をさせたり、老人が帰宅するまでアパートで共に待っていたりしながら過ごしたのだった。
 冰もまた周にはよく懐いていて、『漆黒のお兄さん』が訪ねて来る日を心待ちにしていたそうだ。



◇    ◇    ◇



「ボウズ、腹が減っただろう。そろそろメシにするか」
「はい、お兄さん!」
 よく晴れた暖かい陽気の中、周は朝からアパートへと冰を迎えに行き、二人で近所の公園を散歩しながらブラブラとウィンドーショッピングなどを楽しんでいた。
「何が食いたい。中華のレストランでもいいし、パスタやハンバーグなんぞでもいいぞ。ボウズの好きな物を食いに行こう」
「うんとね、何がいいかなぁ」
 冰は少し考え込みながらも、「お兄さんは何がいいですか?」と訊いた。
「何でもいいぞ。ボウズの好きなモンを俺も食ってみたいしな」
 そう言ってひとまず木陰にあったベンチに腰掛けると、すぐ目の前にテイクアウトもできる軽食の店が目に入った。
「あ! お饅頭のお店!」
 冰はパァっと瞳を輝かせて立ち上がった。
「饅頭か。あれが食いたいのか?」
 冰は心躍るような表情でコクコクとうなずいた。
「お兄さんと一緒にこのベンチでお饅頭食べたい!」
「じゃあそれにするか。買って来るからちょっとここで待ってろ」
「うん!」
 冰はベンチの上で足をブラブラとさせながら嬉しそうに待っていた。
 本当はもっと豪華なレストランで美味しそうな料理を腹一杯食べさせてやりたいと思っていたが、小さい子供にとってはああいった軽食を青空の下で食べるのもまた楽しいのだろう。周はやれやれと思いつつも目の前の店で饅頭と飲み物を仕入れてベンチに戻った。その姿を待ち侘びていたように満面の笑みで迎えながら、ベンチの端にちょこんと座り直しては周の為にスペースを空ける仕草が可愛らしい。
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