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封印せし宝物
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「お兄さん、大っきいねぇ! 僕も大人になったらお兄さんみたいに背が伸びるかな?」
「それにはたくさん食わなきゃな! ほら、何がいいんだ」
ウィンドーに並ぶ数々の飲茶を二人肩を並べて覗き込みながら選んだ。
冰は大きな瞳をクリクリと見開いては、
「んとね、シューマイでしょ。あ、これじいちゃんが好きな小籠包。あとこのお菓子も! じいちゃんすっごく好きなんだぁ」
黄老人が好物だという飲茶や菓子を小さな指で指しながら選んでいった。
「月餅か。食後に茶を飲みながら食うか!」
「うん!」
仲睦まじい二人に、店の主人は「ご兄弟かの? 楽しそうじゃな」と言って微笑む。
「ふふ、じゃあこれ。おじさんから坊やにオマケじゃよ!」
二人の会話からおそらくこの幼い子供が言う『じいちゃん』という人と三人で食べると思ったのだろう、月餅を三つ余分に入れてくれた。
「すみません。遠慮なくご馳走になります」
周が丁寧に頭を下げて受け取ると、冰もまたそれに倣うように頭を下げた。
「おじさん、ありがとうございます! お兄さんとじいちゃんと一緒に大事に食べます!」
「ほほ、偉いのぅ坊や」
礼儀正しい坊やだことと言って店の主人はにこやかに手を振ってくれた。
夕陽の中、二人肩を並べてアパートまで歩く見慣れた道のりも心躍るようで、街の雑踏も行き交う人の流れもすべてがキラキラと輝いて見えた。
「ボウズ! おい、ボウズ! そう急ぐな。走って転んだりしたらいけねえ」
「大丈夫だもーん! だってお兄さんが一緒なんだもん! もしも転んでもすぐにお兄さんが助けてくれるもん!」
「こいつぅ! じゃあ、そうだな。転ばぬ先の杖だ。こうして――」
周は小さな手を取ると、大きな掌の中にしっかりと握り込んだ。
「こうやって繋いでいれば危なくねえからな」
「えへへ、そうだね。お兄さん、手も大っきいねぇ。これなら安心だね!」
嬉しそうに顔をクシャクシャにして笑う様がまさに純真無垢だ。この幼子には満面の笑顔の裏にある腹黒さなど無縁――そんな少年と共にいることが驚くほど新鮮で、心休まるひと時であった。
出会ってから丸一年、周はそうして幼い少年の元に通い続け、まるで本当の兄弟のように過ごした。一緒に散歩に出掛け、買い物をしたり食事をしたりという何の変哲もない日常が本当に楽しかった。
時にはテーマパークで思う存分遊んだりもした。ピークトラムといわれる登山列車に乗って山頂まで行き、二人で香港の街並みを見下ろしたり、観光用のフェリーで湾を渡るのも楽しかった。生まれてこの方、マイフィアトップの息子として生きてきた周にとっては、一般人に混じって観光用の乗り物に乗る機会など皆無だった。いつ何時、どこから襲撃されるか分からないからだ。
素性を隠し、人々に混ざって街中を歩く――そんな当たり前のことが周にとってはひどく新鮮でもあったのだ。しかも連れ立っている相手は自分を頼りにし、汚れや思惑などとは縁のない純粋な子供。そんな幼子とのひと時は、生まれて初めて味わうあたたかな感覚だったのは確かだった。
出掛ける以外にも一日中アパートで宿題を見てやったこともあった。月に二、三度の限られた時間だったが、二人にとっては何ものにも変え難い充実した時間だったのだ。
「それにはたくさん食わなきゃな! ほら、何がいいんだ」
ウィンドーに並ぶ数々の飲茶を二人肩を並べて覗き込みながら選んだ。
冰は大きな瞳をクリクリと見開いては、
「んとね、シューマイでしょ。あ、これじいちゃんが好きな小籠包。あとこのお菓子も! じいちゃんすっごく好きなんだぁ」
黄老人が好物だという飲茶や菓子を小さな指で指しながら選んでいった。
「月餅か。食後に茶を飲みながら食うか!」
「うん!」
仲睦まじい二人に、店の主人は「ご兄弟かの? 楽しそうじゃな」と言って微笑む。
「ふふ、じゃあこれ。おじさんから坊やにオマケじゃよ!」
二人の会話からおそらくこの幼い子供が言う『じいちゃん』という人と三人で食べると思ったのだろう、月餅を三つ余分に入れてくれた。
「すみません。遠慮なくご馳走になります」
周が丁寧に頭を下げて受け取ると、冰もまたそれに倣うように頭を下げた。
「おじさん、ありがとうございます! お兄さんとじいちゃんと一緒に大事に食べます!」
「ほほ、偉いのぅ坊や」
礼儀正しい坊やだことと言って店の主人はにこやかに手を振ってくれた。
夕陽の中、二人肩を並べてアパートまで歩く見慣れた道のりも心躍るようで、街の雑踏も行き交う人の流れもすべてがキラキラと輝いて見えた。
「ボウズ! おい、ボウズ! そう急ぐな。走って転んだりしたらいけねえ」
「大丈夫だもーん! だってお兄さんが一緒なんだもん! もしも転んでもすぐにお兄さんが助けてくれるもん!」
「こいつぅ! じゃあ、そうだな。転ばぬ先の杖だ。こうして――」
周は小さな手を取ると、大きな掌の中にしっかりと握り込んだ。
「こうやって繋いでいれば危なくねえからな」
「えへへ、そうだね。お兄さん、手も大っきいねぇ。これなら安心だね!」
嬉しそうに顔をクシャクシャにして笑う様がまさに純真無垢だ。この幼子には満面の笑顔の裏にある腹黒さなど無縁――そんな少年と共にいることが驚くほど新鮮で、心休まるひと時であった。
出会ってから丸一年、周はそうして幼い少年の元に通い続け、まるで本当の兄弟のように過ごした。一緒に散歩に出掛け、買い物をしたり食事をしたりという何の変哲もない日常が本当に楽しかった。
時にはテーマパークで思う存分遊んだりもした。ピークトラムといわれる登山列車に乗って山頂まで行き、二人で香港の街並みを見下ろしたり、観光用のフェリーで湾を渡るのも楽しかった。生まれてこの方、マイフィアトップの息子として生きてきた周にとっては、一般人に混じって観光用の乗り物に乗る機会など皆無だった。いつ何時、どこから襲撃されるか分からないからだ。
素性を隠し、人々に混ざって街中を歩く――そんな当たり前のことが周にとってはひどく新鮮でもあったのだ。しかも連れ立っている相手は自分を頼りにし、汚れや思惑などとは縁のない純粋な子供。そんな幼子とのひと時は、生まれて初めて味わうあたたかな感覚だったのは確かだった。
出掛ける以外にも一日中アパートで宿題を見てやったこともあった。月に二、三度の限られた時間だったが、二人にとっては何ものにも変え難い充実した時間だったのだ。
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