極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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 そんなある日のことだ。
 この日は香港の街が見渡せる観光地のひとつ、ビクトリアピークにやって来ていた。ケーブルカーに乗って山頂まで行き、観光客らに混ざって景色を満喫していた。普段、ファミリーの拠点が置かれている高楼からの見慣れた景色とは違い、自然の空気の中で眺望する街全体も生き生きと輝いて見える。冰もまた、高台からの絶景に感激の声を上げていた。
 二人肩を並べて景色を堪能しながら、ここでも互いのドリンクを交換して楽しんだりして過ごした。
「ねえ、お兄さん! お兄さんは学校を卒業したらどんなお仕事をするの?」
 ふと、冰が可愛らしい笑顔でそんなことを訊いてきた。
「仕事?」
「うん! 昨日ね、学校で将来は何になりたいかっていう授業があったんだぁ」
 なるほど――。そういえば自分も小学生の頃にそんな授業があったなと思いながら、懐かしさに瞳を細める。
「ほう? それでボウズは何と答えたんだ?」
「うん、僕はね。じいちゃんと同じディーラーになりたいって言ったの!」
「ディーラーか!」
「毎日ちょっとずつじいちゃんに技を教えてもらってるんだよー。でもね、じいちゃんすっごく厳しいんだぁ」
「はは、そうか。頑張ってるんだな。偉いぞボウズ!」
 そう言って頭を撫でてやると、冰は嬉しそうに可愛らしい顔をくちゃくちゃにしながら頬を染めて笑った。
「ね、ね、お兄さんは? どんなお仕事したいか決まってる?」
「ああ、決まってるぞ。俺は商社の仕事をするつもりだ」
「商社?」
 それはなぁに? といったふうに小首を傾げる仕草が可愛いらしい。
「商社ってのはな、貿易だ。この香港にないものを外国から仕入れたり、逆に外国にない物を届けたりする仕事だ」
「へえ、すごいんだね! 外国の人とお仕事するの?」
「そうだな。もうあと二年もしねえ内に卒業だからな。実は今からちょっとずつ仕事の方にも手をつけているんだ」
「もうお仕事してるの? 学校に行きながら?」
「今はまだ勉強を兼ねてだからな。卒業して本格的に働くまでの間の予行演習のようなものだ」
 お前だってディーラーの技を練習しながら予行演習しているだろう? と微笑んでやると、冰はそうだねと言って笑った。
「僕が大きくなってじいちゃんのような立派なディーラーになれたら、お兄さん僕のお店に来てくれる?」「もちろんだ。楽しみにしているぞ」
「わぁい! 嬉しいな! お兄さんに来てもらえるように僕頑張る!」
「そうか。偉いぞボウズ!」
 将来の話をしながら、周はわずか後ろ髪を引かれるような思いに瞳を細めた。卒業したらこの香港を離れて起業する心づもりでいるからだった。

 妾の自分に心から良くしてくれた継母と兄への恩に報いる為、生まれ育ったこの街を出て実母の故国である日本へ移住することを決めたのは、周囲が危惧する後継争いから身を引く為である。表向きは堅気となって海を隔てた日本で一から起業し、少しでもファミリーの役に立てるよう励まんと決めていた。冰に出会うずっと以前からの決心だった。
 自分がこの世に生を受けた意味があるとするなら、それは家族の恩に報いる為。ただそれだけだと心に決めていた。だが今――この少年と知り合って思う。ただひとつ心残りがあるとすれば、幼いこの子供を置いて香港を離れなければならないということだった。
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