極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「な、だったらさ。氷川が当時のことを冰君に話して聞かせれば……案外思い出すんじゃねえか?」
 そうすれば冰も苦しむことなく思い出せるのではないかと紫月は言う。
「そうですね。有効かも知れませんが、そんなにも大事な思い出を忘れてしまっていたということに対して冰さんが新たな罪悪感を抱かないとも限りません。ご本人が自然と思い出してこそ、本当の意味で鍵が開くのだとも言えます」
 冰が当時のことを思い出し掛けているのはほぼ間違いないだろう。だとすれば直接話して聞かせるよりも、本人に自ら思い出せるきっかけを与えてやることこそが望ましい。遠い昔にこんなことがあったんだぞと教えるよりも、もしかしたら一緒に過ごしたことがあったように思うんだけど――と、冰自身に気付かせる方がいいのではないかと言うのだ。とにかく今は無理に思い出させることはせず、極力不安にさせないようしっかりと側で見守ってやることが一番だと鄧は言った。

 窓の外には宵闇が降り、街の灯りが大都会・東京を彩り始める。
「氷川、どうせ明日も休みだ。良かったら――今夜はここに泊めてもらっても構わんか?」
 鐘崎が訊く。
「ああ、もちろんだ。おめえらがいてくれれば冰も気持ちが和むだろう」
 四人でワイワイ過ごす間は思い出せない何かに怯えることもなく、気持ちも和らぐかも知れない。――と、ちょうど冰が目を覚ましたようで、寝室からリビングへとやって来た。
「白龍……」
 昼間紫月に連れられて帰って来てから睡眠薬によって休ませてしまったので、服は着たままだった。上着だけを脱がせてとにかく休ませたからだ。
「冰! 起きたか」
 周は普段と何ら変わりのない笑顔を向けながらソファを立って、扉口まで迎えに行った。
「よく眠っていたようだな」
「うん……あの、俺……」
「一之宮とメシから帰って来たらソファでうつらうつらし始めたんでな」
 だからベッドへ運んで寝かせたのだと微笑みながら頭を撫でる。
「そうだった……んだ。紫月さん、鐘崎さんも……すみません」
 皆さんがいらしているのに俺ったら――そう言って冰はペコリと頭を下げた。
「冰、今日はな。カネたちもここへ泊まっていくことになったんだ。皆んなでゲームでもして遊ぶか」
「ほんと? 紫月さんたちが?」
 鐘崎らが泊まることを知って、冰は嬉しそうに笑みを誘われたようだ。比較的元気な声で『うん!』と言ってはこれまでのようなやわらかい表情が戻ってきたようだった。
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