極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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 鐘崎に暴露されて、周はタジタジとバツの悪そうに苦笑してみせた。
「そりゃお前……冰に帰りたいなんざ言われたら困るからな。俺の側以外に居場所はねえって思わせておくに限ると思ったわけだ」
「こう見えて意外と小心者なんだ、氷川は」
「バカ言え……! それだけ愛情が深いってことだろうが」
 周と鐘崎がくだらないじゃれ合いをする傍らで、冰の頬には感激のあまりか滝のような涙がポロポロとこぼれて伝った。
「白龍……白龍! こんなにしてもらって……俺、俺……」
 まさに言葉にならない。両の手で顔を覆い、泣き崩れるほどの感動に身を震わせてしまった。
「実はね、冰君。去年の暮れにこのビルのオーナーが他界なされてね。オーナーにはご子息がいらしたんだが、もうここも古いし、いっそ手放してしまおうという話が持ち上がったんだ。それを聞いた焔君がね、ここを丸ごと買い取ってくれたのさ。お陰でアパートの住人たちも追い出されずに済んで、皆大喜びだったんだよ」
「白龍が……ここを?」
「キミと黄老人の思い出の住まいだからね。ただし確かにビルも老朽化しているのは事実だ。だから今夏から補修工事を行うことになったんだ」
 曹曰く部屋の内装などはこのままだが、耐震型の骨組みなどに補強して、壁なども塗り直し、ガス管や電気の配線などを新しく交換するとのことだった。
 そうまでして思い出の住処を残しておいてくれようとする周の気持ちに、涙は止まることなく冰はおいおいと声を上げて号泣してしまった。
「白龍、白龍……! ありがとう! ありがとう、ホントに……俺」
 どうしていいか分からないほど、礼の言葉さえ浮かばないほどの大いなる愛情に震えがとまらない。
「それなのに俺ったら……ヤキモチなんか焼いちゃって……ごめんなさい本当に」
 冰の中では未だ例の不安の正体がヤキモチだと勘違いしているようだ。周からその経緯を聞いた鐘崎らは、本当に可愛い発想だと言って、ゆるんでしまう表情をとめられずにいた。
 よくよく部屋を見渡せば、家具類の配置から食器棚の中にある物まですべてが当時のままだ。曹が時々事務所として使っているのは本当らしく、テーブルの上には見慣れない本や書類などが少し積み上げられていたものの、ベッドも香港を去った日のまま綺麗に整えられている。
 懐かしさに心震える中、ふとテーブルの上に置かれた曹の本を見て冰の脳裏に不思議な幻影が浮かんだ。

『ほら、ここの解き方はこうだ』
 誰かがサラサラとペンでノートに書きつけている。彼の隣には幼い一人の少年――。真剣な表情でその『解き方』を眺めている。

 あれは誰――?

 幼い少年はどう見ても自分だ。小学生頃の冰である。では隣で彼に勉強を教えているのはいったい誰だというのだろう。黄老人ではない。もっと若い青年だ。
 だが、その青年の顔は靄が掛かったように不鮮明な幻影でしかなく、彼が誰なのかが分からない。

 しばらくすると幻影は消えた。
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