極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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「お兄様……! 曹先生と鄧先生のお兄様も」
 冰は驚いていたが、周は平然と笑顔を浮かべている。どうやらここで落ち合うことは承知だったようだ。
「兄貴! ライさんも海さんも朝早くからすみません」
「いやいや、俺たちも会えるのを楽しみにしていたぞ。冰も元気そうで何よりだ」
「お、お兄様……! 皆様も……お世話になっております」
 慌てて頭を下げた冰に、風はニッコリと微笑みながら言った。
「それじゃ早速行こうか。曹来、頼む」

 行こうかってどこへ? そう訊く間もなく風らはアパートの階段を登って行く。

「冰、来い」
 周もまた笑みながら手招きしてよこす。わけが分からないままついて行った冰が更に驚かされることとなったのは、懐かしい部屋の前に連れて来られた時だった。
「冰、昨夜渡した鍵は持って来たな?」
「う、うん……ここに」
「開けてみろ」

「え――?」

 開けてみろとはいったいどういうことだろう。まさかこの鍵がまだ生きているとでもいう意味なのか――。
 周も兄の風も、それに鐘崎らまでがすべてを知っているようにニコニコと微笑んでいる。
「あの……まさかこの部屋……」
 皆の視線にうながされるまま半信半疑で鍵を当てると、ガチャリ――住んでいた時のままの懐かしい音と共に鍵が回った。

「どうして――」

 呆然と突っ立ったままの冰の肩を抱きながら周がドアを開ければ、そこには以前とまったく変わらないままの部屋――。
「白龍……これって……」

「お前とじいさんの家だ」

「…………!」

 つまり周は三年前冰が部屋を後にしたその時から解約などはせずにずっと借り続けていてくれたのだった。



◇    ◇    ◇



 未だ呆然として声にもならないでいる冰に、曹来が事情を説明した。
「冰君、ここはね。焔君がずっと借り続けている部屋なんだ。キミが焔君を訪ねて日本に行った三年前の日からずっとね」

 やはりそうか――。

「焔君はキミと黄老人が住んでいた思い出の部屋をそのままにしておいてあげたいと言ってね。今は掃除がてら私が時々来て資料調べなどの事務所として管理しているんだ」
 曹に続いて今度は鐘崎が冷やかし文句を口にする。
「氷川が今日までこのことを内緒にしてたのにはワケがあるんだ。当時、その鍵をお前さんに渡すこともできたんだが、もしも冰がやっぱり香港に帰りたいなんて言い出したら困ると言ってな。時期が来るまで黙っておこうと思ったそうだぞ」
 時期が来るまでというのは、冰と自分の仲が確固たるものになって、ここの存在を明かしたとしても決して帰りたいとは言わなくなるその日までということだったらしい。
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