極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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「ん? ああ、これ? そうそ! お陰様でなぁ」
 紫月は照れたようにその薬指で頭を掻きながらも薄っすらと頬を染めてはにかんでいる。三春谷にとってはそんな反応も意外であった。はにかむ笑顔と染まった頬の朱が、その胸中を物語っているからだ。きっと彼はその結婚相手を大切に想っているのだろうことが窺えるからだった。
「……あの、じゃあ奥さんは?」
 もしかしたら今もこの邸内にいるのかも知れない、そう思って視線を部屋の奥へと泳がせる。
「ああ、いや……。あいつは今、仕事で出ててさ」
「……お仕事ですか。奥さん働いていらっしゃるんスか?」
「ま、まあな!」
 えへへと照れた頬は先程よりも濃い朱色に染まっている。
「結婚……されたばかりなんスか?」
 あまりにも初々しい様子にそう思っただけだった。
「いや、もう四、五年になっかなぁ」
「……そんなに前に? じゃあお子さんも……」
「あー、ううん。ガキはいねえけどさ」
「そうですか……」
「ま、ま、俺ンことよかおめえの祝いだべ! 結婚式、秋なら今いろいろ忙しいんじゃね?」
 そう振られて紫月の結婚相手についての話題を逃してしまったのが残念でならなかった。
「そうだ、紫月さん。良かったら……メシ――つか、飲みに行きませんか? 結婚祝い……させてください」
 咄嗟にそんなセリフが口をついて出ていた。
「結婚祝いってー。俺ン方はもう何年も前だしさ。それ言うなら俺が祝ってやる側だべ?」
「そうですよね。じゃあ祝ってくださいよー!」
 この際、理由などどうでもいい。一緒に飲みに行けるということこそが重要なのだ。三春谷はわざと明るいノリを装いながら、是非とも飲みに行きましょうと誘うことに必死だった。
 結婚祝いを理由にすれば嫌とは言いずらいだろう。とにかくは機会を作ることが何より先決だ。
 そんな三春谷に押されるようにして、紫月もまた『そうだな』と言って笑った。
「そんじゃまたお前さんが実家帰って来た時にでも――」
「約束っスよ?」
 三春谷にとって次に会う口実にありつけただけで大満足だった。

 夜、鐘崎にそのことを報告。当然か、鐘崎は大推奨という顔はしなかった。紫月もまた、亭主のその反応は予想できていた。
 変な話だが、例え男友達といえど二人きりで飲みに行くという自体が喜ばしい話ではないからだ。それは焼きもちやら、そういった些細な機会が浮気に発展する可能性云々の間違いを危惧するという以前の問題で、極道である自分たちがさほど親しい間柄でもない堅気の友人などと必要以上に懇意にすることの方に注意を払わなければならないからだ。
 今のご時世、どこで誰の目が光っているか知れない時代だ。自分たちと一緒にいる堅気の方に余計なとばっちりが行かないように気遣うのは鉄則だから――という方の理由であった。
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