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絞り椿となりて永遠に咲く
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「三春谷から? あー、そう。やっぱ社交辞令じゃなかったってことか」
話を聞いて紫月もまた、やれやれと思いつつも後輩の結婚祝いとなれば無碍に断るのもどうかと思う。この際、地元の友人たちにも声を掛けて何人かで祝おうかと提案したものの、三春谷は二人だけで飲みに行きたいと希望した。鐘崎はこのところ依頼の仕事で出ずっ張りなので都合をつけるのは難しそうだ。だったら道場の師範で高校時代から幾度か顔を合わせてもいたしということで、父の飛燕と綾乃木も一緒でどうだとも訊いたのだが、それもあまり乗り気でない様子だった。仕方なく二人で会うことを承諾するしかなかった。
「場所は駅前の居酒屋にした。銀ちゃんの店。あそこだったらスタッフも皆んな顔見知りだしさ、要らぬ噂になることもねえべ?」
銀ちゃんの店というのは鐘崎組の古くからの知り合いで、夜の繁華街見回りなどでも貢献している相手だ。居酒屋の他にもゲイバーなども経営していて、オーナーの銀ちゃんは僚一の高校時代の後輩。信用のおける男だ。
「銀さんのところなら安心だろう。橘と春日野に言って、席は別にして護衛がてら一緒に行ってくれるよう頼んでおく」
鐘崎の理解と心遣いを有り難く思う紫月だった。
そうして飲み会の日がやってきた。
居酒屋には鐘崎からも事前に事情を話していてくれたので、銀ちゃんことオーナー自らが迎えてくれた。橘と春日野も紫月らとは背中合わせの席に陣取ってくれて、警護の準備は万端だ。むろん、彼らが組員で警護としてついて来ていることは当の三春谷には内緒である。
乾杯後、しばらくは高校時代の懐かしい話題などで適当に過ごした。
それから二時間も経った頃だ。酒も入ってきたし、夜も更けてきた。あと小一時間で切り上げようかと思い始めた時だった。三春谷が少々物言いたげな真顔で厄介なことを言い出したのだ。それは紫月の結婚相手についての話題だった。
「紫月さん、こんなこと言ったら失礼かも知れませんが」
そう前置きした上で三春谷は身を乗り出してきた。
「紫月さんが結婚された相手って……男なんですよね?」
そう振られて紫月は内心ついに来たかと苦笑。男同士で結婚と知れば、必ず持ち上がる話題だからだ。だが、もうバレているなら隠す必要もない。
「うん、そう。誰かに聞いたん?」
「ええ……。地元のヤツらから聞きました。相手の人、高校も同じだった鐘崎さん……でしたっけ。あの人が紫月さんの結婚相手だって」
「そそ! ここいら辺のヤツらは皆んな知ってっからなぁ」
「そういえばあの頃も……自分が紫月さんのクラスに顔出してる時、よくあの人に睨まれた記憶がありますよ」
「睨まれたぁ?」
まさかそんな――と、紫月は苦笑気味だ。
「マジですよ。あの人いつもおっかねえ顔して自分のこと見てました」
「はは……! まあな。あいつ愛想ある方じゃねえから誤解されやすいけど。でも別に睨んだわけじゃねえと思うぜー。ツラがな、元々仏頂面だから」
笑いながらそう言うも、三春谷にはそれが鐘崎を庇う言葉に聞こえたようだ。
話を聞いて紫月もまた、やれやれと思いつつも後輩の結婚祝いとなれば無碍に断るのもどうかと思う。この際、地元の友人たちにも声を掛けて何人かで祝おうかと提案したものの、三春谷は二人だけで飲みに行きたいと希望した。鐘崎はこのところ依頼の仕事で出ずっ張りなので都合をつけるのは難しそうだ。だったら道場の師範で高校時代から幾度か顔を合わせてもいたしということで、父の飛燕と綾乃木も一緒でどうだとも訊いたのだが、それもあまり乗り気でない様子だった。仕方なく二人で会うことを承諾するしかなかった。
「場所は駅前の居酒屋にした。銀ちゃんの店。あそこだったらスタッフも皆んな顔見知りだしさ、要らぬ噂になることもねえべ?」
銀ちゃんの店というのは鐘崎組の古くからの知り合いで、夜の繁華街見回りなどでも貢献している相手だ。居酒屋の他にもゲイバーなども経営していて、オーナーの銀ちゃんは僚一の高校時代の後輩。信用のおける男だ。
「銀さんのところなら安心だろう。橘と春日野に言って、席は別にして護衛がてら一緒に行ってくれるよう頼んでおく」
鐘崎の理解と心遣いを有り難く思う紫月だった。
そうして飲み会の日がやってきた。
居酒屋には鐘崎からも事前に事情を話していてくれたので、銀ちゃんことオーナー自らが迎えてくれた。橘と春日野も紫月らとは背中合わせの席に陣取ってくれて、警護の準備は万端だ。むろん、彼らが組員で警護としてついて来ていることは当の三春谷には内緒である。
乾杯後、しばらくは高校時代の懐かしい話題などで適当に過ごした。
それから二時間も経った頃だ。酒も入ってきたし、夜も更けてきた。あと小一時間で切り上げようかと思い始めた時だった。三春谷が少々物言いたげな真顔で厄介なことを言い出したのだ。それは紫月の結婚相手についての話題だった。
「紫月さん、こんなこと言ったら失礼かも知れませんが」
そう前置きした上で三春谷は身を乗り出してきた。
「紫月さんが結婚された相手って……男なんですよね?」
そう振られて紫月は内心ついに来たかと苦笑。男同士で結婚と知れば、必ず持ち上がる話題だからだ。だが、もうバレているなら隠す必要もない。
「うん、そう。誰かに聞いたん?」
「ええ……。地元のヤツらから聞きました。相手の人、高校も同じだった鐘崎さん……でしたっけ。あの人が紫月さんの結婚相手だって」
「そそ! ここいら辺のヤツらは皆んな知ってっからなぁ」
「そういえばあの頃も……自分が紫月さんのクラスに顔出してる時、よくあの人に睨まれた記憶がありますよ」
「睨まれたぁ?」
まさかそんな――と、紫月は苦笑気味だ。
「マジですよ。あの人いつもおっかねえ顔して自分のこと見てました」
「はは……! まあな。あいつ愛想ある方じゃねえから誤解されやすいけど。でも別に睨んだわけじゃねえと思うぜー。ツラがな、元々仏頂面だから」
笑いながらそう言うも、三春谷にはそれが鐘崎を庇う言葉に聞こえたようだ。
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