極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
1,182 / 1,212
絞り椿となりて永遠に咲く

14

しおりを挟む
 三日後、渋谷――。

 指定されたバーに行くと三春谷が逸ったような顔つきで迎え出た。
「紫月さん、紫月さん! こっちです!」
「おう」
「よく来てくださいました! お忙しいところ時間割いてもらって恐縮っス!」
「いや。いいバーな?」
 いつも通り気さくな笑顔で席についた。陰からは橘と春日野、そしてまた別行動で源次郎と清水がそれぞれ客を装って店内に散らばる。鐘崎は源次郎らに持たせた通信機を通しながら、店の外の道路に車を停めて待機した。
 店内の様子は外から見えない造りになっているが、音は通信機を通して拾えている。紫月はごくありきたりの会話で三春谷と向き合っているようだ。
「礼だなんて、わざわざ良かったのに」
「いえ、この前はご亭主にご馳走になっちまったし――何かしないと自分が落ち着かないっスよ」
「そりゃご丁寧に。すまねえな」
 愛想を見せながら笑うも、『ご亭主』という言い方は気に掛かるところだ。男同士で結婚しているのだから旦那とか嫁とかと定義付ける言い回しには遠慮があるのだろうが、はっきり『ご亭主』というところから勘繰るに、鐘崎の方が『夫』で紫月の方が『妻』の立ち位置なんでしょう? と訊かれているような心持ちにさせられるからだ。
 だがまあ、そこのところは深く突っ込まずにたわいのない会話を心掛けた。
「会社、この近くなんだって? 建設会社だっけ」
「ええ、まあ」
「婚約者さんとは職場で知り合ったんだべ?」
「そうです」
 当たり障りのない会話を振るも、三春谷の方からは相槌を打つだけで積極的には会話が弾まない。
「どした? 元気ねえじゃん」
「……いえ、そんなことは」
「幸せの絶頂だってのにー」
「……そうスね」
「らしくねえぞー。なんか悩みでもあるん?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
 グズグズと煮え切らない空返事を繰り返していたが、突如三春谷が真面目な顔付きで姿勢を正した。
「実は……紫月さんにお願いがあって」
「お願い? 俺に?」
 何だよーと明るく笑ってみせる。まさかこの直後に想像だにしない言葉が返ってくるなど思いもよらなかった。
「あの……紫月さん。一度でいいんです。結婚しちまう前に……一度だけ……俺の頼み聞いていただけませんか?」
「頼みって?」
「一度だけ――俺と寝てくれませんか」

 は――?

「寝るって……お前。冗談言ってる暇あったら嫁さん大事にしなきゃダメだべ」
「冗談なんかじゃないス! 俺、俺……前からその、お、男にも興味あって……。紫月さんのこと高校の時から憧れてましたし……」
「憧れ? 俺にかー? や、そう言ってもらえんのは恐縮だけどさ。お前もうすぐ結婚するんだべ? 変なことに興味持つ暇があったら嫁さんのこと――」
「結婚するからです! 結婚したら……もう自由な時間なんて無くなる……。その前に一度でいいんです。男とも……その、経験してみたくてですね」
「経験って……」
 さすがの紫月も冗談と受け流すべきか、それともここは真剣に諭すべきか迷うところだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...