1,183 / 1,212
絞り椿となりて永遠に咲く
15
しおりを挟む
「俺のこと嫌いスか? 紫月さん、あの鐘崎って人とヤってるんでしょ? だから俺にも手解きしてくれるだけでいいんです。独身時代のいい思い出にしたいんです。憧れてた紫月さんが相手なら俺、男でも抱けると思うし」
「つまり何? お前さん、単に野郎とヤってみたいって――そういう好奇心か?」
「野郎なら誰でもいいってんじゃないです! 紫月さんなら……」
「おいおい……」
紫月はもちろんのことながら、周りの席で様子を窺っていた源次郎や橘らも目を剥くほどに驚かされてしまった。
車中で店内の音を拾っていた鐘崎にとっては言うまでもない。額には青筋が浮かび上がり、集音器が壊れんばかりに握り締める。
(野郎……ふざけたことを――)
ただの懐かしさや先輩を敬う後輩というなら大目に見てやろうかとも思っていた。だが、相手がそういう魂胆ならば話は別だ。
鐘崎は無表情のまま車を降りると、店の入り口で紫月らが出てくるのを待った。おそらくは源次郎らの計らいですぐに三春谷が追い出されると分かっていたからだ。
集音器は未だ店内の音を拾っている――。
「冗談にしちゃ度が過ぎるぞ三春谷。聞かなかったことにしてやるから」
くだらねえことを言ってねえで嫁さんを大事にするんだ――普段気のいい彼が割合真面目な声音でそれだけ言うと、席を立ったのだろう。椅子の引かれる音を拾った。すぐに橘と春日野が紫月を連れて店を出るようだ。引き留めようと慌てた三春谷を源次郎と清水が静かに取り囲む様子が窺えた。
一分も待たない内に紫月が橘らと共に店から姿を現した。
「……! 遼! 来てたんか……」
鐘崎は無言のままうなずくと、先に車に行っていろと視線だけでそう云った。
またしばしの後、源次郎らに押されるようにして出てきた三春谷を待ち受ける鐘崎の瞳には冷たく燃える蒼白い焔が宿っているかのようだった。
驚いたのは三春谷だ。なぜ今ここにこの男がいるのかと驚き顔でいる。しかも、源次郎ら見知らぬ男たちに取り囲まれていることにも驚愕といった表情で、要は紫月の護衛として組員たちが付いてきたのだろうということが察せられたのか、冷や汗が滲む。三春谷にしてみれば密かに監視されていたような気分になり、やはりヤクザのやり口は汚い――と、そんなふうに感じているのだろう。
「まさか……見張ってたんスか……?」
たかだか先輩後輩の飲み会にまで監視をつけるとは小心者めと言いたげに睨みを効かせながら険を浮かべるも、当の鐘崎は当然だとばかりの無表情でいて、微塵の動揺すら感じさせない堂々ぶりだ。
「ツラを貸してもらう」
たった短いそのひと言は得体の知れない魔物が地を這う地鳴りのようだった。
「つまり何? お前さん、単に野郎とヤってみたいって――そういう好奇心か?」
「野郎なら誰でもいいってんじゃないです! 紫月さんなら……」
「おいおい……」
紫月はもちろんのことながら、周りの席で様子を窺っていた源次郎や橘らも目を剥くほどに驚かされてしまった。
車中で店内の音を拾っていた鐘崎にとっては言うまでもない。額には青筋が浮かび上がり、集音器が壊れんばかりに握り締める。
(野郎……ふざけたことを――)
ただの懐かしさや先輩を敬う後輩というなら大目に見てやろうかとも思っていた。だが、相手がそういう魂胆ならば話は別だ。
鐘崎は無表情のまま車を降りると、店の入り口で紫月らが出てくるのを待った。おそらくは源次郎らの計らいですぐに三春谷が追い出されると分かっていたからだ。
集音器は未だ店内の音を拾っている――。
「冗談にしちゃ度が過ぎるぞ三春谷。聞かなかったことにしてやるから」
くだらねえことを言ってねえで嫁さんを大事にするんだ――普段気のいい彼が割合真面目な声音でそれだけ言うと、席を立ったのだろう。椅子の引かれる音を拾った。すぐに橘と春日野が紫月を連れて店を出るようだ。引き留めようと慌てた三春谷を源次郎と清水が静かに取り囲む様子が窺えた。
一分も待たない内に紫月が橘らと共に店から姿を現した。
「……! 遼! 来てたんか……」
鐘崎は無言のままうなずくと、先に車に行っていろと視線だけでそう云った。
またしばしの後、源次郎らに押されるようにして出てきた三春谷を待ち受ける鐘崎の瞳には冷たく燃える蒼白い焔が宿っているかのようだった。
驚いたのは三春谷だ。なぜ今ここにこの男がいるのかと驚き顔でいる。しかも、源次郎ら見知らぬ男たちに取り囲まれていることにも驚愕といった表情で、要は紫月の護衛として組員たちが付いてきたのだろうということが察せられたのか、冷や汗が滲む。三春谷にしてみれば密かに監視されていたような気分になり、やはりヤクザのやり口は汚い――と、そんなふうに感じているのだろう。
「まさか……見張ってたんスか……?」
たかだか先輩後輩の飲み会にまで監視をつけるとは小心者めと言いたげに睨みを効かせながら険を浮かべるも、当の鐘崎は当然だとばかりの無表情でいて、微塵の動揺すら感じさせない堂々ぶりだ。
「ツラを貸してもらう」
たった短いそのひと言は得体の知れない魔物が地を這う地鳴りのようだった。
47
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる