極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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 鐘崎は少し歩いた先の路地裏で静かに三春谷を振り返った。何気ないその一挙手一投足に三春谷の視線が泳ぐ。人の目の届かないこんな場所だ、まさかとは思うがいきなり殴られたり、はたまた刃物でも突き付けられたりしやしないかと焦る想像が心拍数を上げる。所詮はヤクザのすることだ、そういうことも有り得なくはないだろうと身構えながらも、三春谷は逃げ腰のまま声を裏返して叫んだ。
「……あんた……ッ、何でここへ……! 俺をどうするつもりだよ……ッ」
「モノを尋ねたいのは俺の方だな」
 落ち着いた感じの応答に、今すぐ殴られるとか刺されるとかいった雰囲気は感じられないことを悟ってホッと肩の力が抜ける。
「……尋ねるって……。俺に何を訊きたいんスか……?」
「三春谷――だったな。てめえが結婚前に誰と遊ぼうが婚約者を不幸にしようが、それ自体に節介する気はねえ。だが、その相手に紫月を巻き込もうというなら別だ」
「……ッ、巻き込むって……。まさか盗聴してたスか?」
 店内での会話がすべて筒抜けているような鐘崎の苦言に驚きを隠せない。
「人聞きが悪いことを言ってくれる」
「……ひ、人聞きが悪いのはアンタの方でしょ……。いくら紫月さんと結婚してるからって……俺たちの会話を盗み聞きするなんて……犯罪っスよ?」
「俺たち――だ?」
「は、はは……突っ込むところはそこですか! 俺と紫月さんが仲良くしてるからって妬いてるってわけ!」
 鐘崎からすればえらく理不尽な言い草だ。本来ならば今のひと言でぶちのめしてやってもいいくらいだが、あまりのバカさ加減に怒りよりも呆れが先に立って、軽い溜め息が漏れてしまった。
 こうまで言われても平静さを崩さない鐘崎に、三春谷の方ではすぐに殴られるなどの危険性がないと確信したのか、次第に横柄な感情が顔を出す。ヤクザとは名ばかりで、思っていたよりも案外大したことのない男なのかと舐めて掛かる上から目線で調子づいていった。
「そうでしょ? さっきの人ら……あれもアンタのところのヤクザなんでしょ? あの人らに盗聴器でも持たせてたっていうんスか? アンタ、そうやっていっつも紫月さんのこと縛り付けてるんスね? たかだか後輩と飲みに行くくらいで監視までつけるとか、異常っスよ!」
 思いつく限りの言葉を並べ立てて罵ったつもりだったが、目の前の鐘崎は依然怒るでもなければ顔色ひとつ変えない無表情そのものだ。普通ならば、「何をッ!?」とか、「もういっぺん言ってみろ!」などと憤慨して言い争いになるだろうシチュエーションのはずだ。そうなればなったでちょうどいい、三春谷としては子供の頃から剣道を嗜んでいて、腕にもそこそこ自信がある。この際、鐘崎を怒らせ、取っ組み合いにでも持ち込んで打ちまかしてやればいい気味だ――そんなふうに思ってもいた。
 ところが――だ。直後に鐘崎から飛び出した言葉に、驚きを通り越して硬直させられる羽目となった。
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