極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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「紫月は俺の伴侶だ。さっきのようなふざけたことをぬかしたり、指一本触れたらてめえのタマをもらう」

「……は?」

 怒鳴るわけでもなく、憤りすら感じさせない冷静そのものの平坦な声音だが、その内容は平坦ではない。
「タ……タマ……?」
 言われている意味が分からずに首を傾げるも、意思とは裏腹に身体中がガタガタと震え出すような恐怖が這い上がる。
「今後、万が一にも紫月に粉掛けるようなことをすれば後はねえという意味だ。二度と俺たちの前にそのツラを見せるな」
 目の前の鐘崎は至って静かな口ぶりだが、まるで金縛りにでも遭ったかのように三春谷は腕一本、足一歩動かすことができずにその場に固まってしまった。
 やはりこの鐘崎という男は恐ろしいヤクザだ。例えばだが、『ナメてんのか、てめえ!』とか、『ぶっ殺してやる!』などと口汚く怒鳴って威嚇したり、刃物などをチラつかせて脅したりすることはないものの、ごく静かな二言三言だけで瞬時に背筋が凍り付くような底知れぬ恐怖を植え付けてくる。一瞬でも舐めて掛かったことを心底後悔させられる気がしていた。

 マグマ溜まりの如く、まるで悪魔のようにどす黒い紅をたたえたような瞳が三春谷を射る。

 艶のある濡羽色ぬればいろの髪が夜の繁華街のネオンを受けて鈍色に光る。

「返事は?」
「……へ?」
「口のきき方すら忘れたか?」
「……え……いえ、はい……。分かり……まし……た」
「分かればいい。今の返事、二度とたがえるな」

 仮にもたがえたならば命はない――まるでそう言われているかのようだ。鋭い視線も艶のある黒髪も、恐ろしいほどに男前の顔立ちも堂々たる体格も、嫌味なほどに似合う高級そのもののスーツも、街灯を映し出して輝くばかりに磨き抜かれた漆黒の革靴も――何もかもが鋭い切先を思わせるような風貌にガタガタと全身が震えて総毛立つ。まるで今にもその背に真っ黒い烏の羽が生えて羽ばたくような錯覚にとらわれる。
 この世にもしも悪魔がいるというなら、今目の前にいるこの男こそがそうなのではと思わされるほどだ。
 三春谷は、生まれて初めて触れてはいけないものに手を出そうとした報いの恐ろしさを体感したかのような気分に陥った。
 鐘崎が踵を返していく様を瞬きひとつ儘ならないまま見つめていた三春谷の身体が、遠ざかる足音と共にヘナヘナと崩れ落ちた。



◇    ◇    ◇


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