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絞り椿となりて永遠に咲く
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「――こうは考えられねえだろうか。もしかしたら音声だけで誘き寄せられたのかも知れない……」
「音声だけといいますと……録音か何かで誰かが言い争う声を若たちに聞かせたということでしょうか?」
その想像に誰もが互いを見合わせて静まり返る。
「ふむ――案外この想像で当たりかも知れんな。上坂以外に別の実行役を雇うとなれば更に報酬が必要になってくる。その人数が増えれば金が掛かるのはむろんだが、口止めをする手間も増えるということだ。それなら三春谷本人が動いた方が確実だし利もいいだろうな」
「言い争う音声はドラマなどの乱闘シーンを録音すれば簡単ですな。若たちがビル付近を通り掛かった頃合いを見計らってその音声を流し、ビルに誘い込んだとすれば……」
「三春谷一人でも犯行は可能ということになるな……」
急ぎ、昨夜の三春谷のアリバイについて調べが進められることとなった。
そして昼過ぎ。
皆で手分けして三春谷の近辺を洗ったところ、昨夜は帰宅していなかったらしいことが浮かび上がってきた。
「三春谷の住むアパートの隣近所に聞き込んだところ、昨夜は帰宅した様子がなかったことが判明しました。いつもは夜の十時過ぎには大概帰宅しているそうですが、昨夜は部屋の灯りも点いていなかったようです。隣には一人暮らしの大学生が住んでいて、夜遅くまで起きているようですが、いつも夜中の十二時過ぎまで壁越しにテレビの物音などが聞こえていたそうです」
それが昨夜はまったく静かだったことから、今夜は留守なのだろうと思ったそうだ。
「また、アパートの管理人が宅配便を受け取っていて、夜に三春谷が帰って来たら渡そうとしていたようですが、昨夜は管理事務所でもヤツを見掛けなかったと言っています」
ということは、どこかに泊まって来たと考えられる。
「念の為、川崎の実家と婚約者のアパートの方にも探りを入れましたが、どちらにも立ち寄った形跡はありませんでした」
組員と側近たちからの報告を受けて、周と源次郎は三春谷の所在について思い巡らせていた。
「もしかしたら解体現場が目視できる場所から様子を窺っていた可能性も考えられるな……。本当にカネたちが爆破に巻き込まれたかどうかを確かめるつもりだったとすれば――」
「――! 急いであの辺りのホテルを当たってみます!」
解体現場の様子が見渡せるホテルといえば限られてくる。周と源次郎は至急ホテルに出向いて直接聞き込みに当たることにした。警視庁の丹羽に言って刑事を二人ばかり貸してもらい、ホテルを回ったものの、どのホテルでも三春谷という名の客が宿泊したという痕跡は見当たらなかった。
「クソッ! どこもハズレか」
まあ、実名で泊まったとは考えにくいものの、洗い出しには少々時間が必要だ。
「今、丹羽君のところの刑事さんらが各ホテルで防犯カメラを当たってくれています」
運良く三春谷が映っていればいいのだが、とにかくは待機しかない。
陽が傾き出し、夕刻を迎えようとしている。今ひとつ決定打となる証拠が掴めない中、医療室から鐘崎らの意識が戻ったとの朗報が届けられた。
「音声だけといいますと……録音か何かで誰かが言い争う声を若たちに聞かせたということでしょうか?」
その想像に誰もが互いを見合わせて静まり返る。
「ふむ――案外この想像で当たりかも知れんな。上坂以外に別の実行役を雇うとなれば更に報酬が必要になってくる。その人数が増えれば金が掛かるのはむろんだが、口止めをする手間も増えるということだ。それなら三春谷本人が動いた方が確実だし利もいいだろうな」
「言い争う音声はドラマなどの乱闘シーンを録音すれば簡単ですな。若たちがビル付近を通り掛かった頃合いを見計らってその音声を流し、ビルに誘い込んだとすれば……」
「三春谷一人でも犯行は可能ということになるな……」
急ぎ、昨夜の三春谷のアリバイについて調べが進められることとなった。
そして昼過ぎ。
皆で手分けして三春谷の近辺を洗ったところ、昨夜は帰宅していなかったらしいことが浮かび上がってきた。
「三春谷の住むアパートの隣近所に聞き込んだところ、昨夜は帰宅した様子がなかったことが判明しました。いつもは夜の十時過ぎには大概帰宅しているそうですが、昨夜は部屋の灯りも点いていなかったようです。隣には一人暮らしの大学生が住んでいて、夜遅くまで起きているようですが、いつも夜中の十二時過ぎまで壁越しにテレビの物音などが聞こえていたそうです」
それが昨夜はまったく静かだったことから、今夜は留守なのだろうと思ったそうだ。
「また、アパートの管理人が宅配便を受け取っていて、夜に三春谷が帰って来たら渡そうとしていたようですが、昨夜は管理事務所でもヤツを見掛けなかったと言っています」
ということは、どこかに泊まって来たと考えられる。
「念の為、川崎の実家と婚約者のアパートの方にも探りを入れましたが、どちらにも立ち寄った形跡はありませんでした」
組員と側近たちからの報告を受けて、周と源次郎は三春谷の所在について思い巡らせていた。
「もしかしたら解体現場が目視できる場所から様子を窺っていた可能性も考えられるな……。本当にカネたちが爆破に巻き込まれたかどうかを確かめるつもりだったとすれば――」
「――! 急いであの辺りのホテルを当たってみます!」
解体現場の様子が見渡せるホテルといえば限られてくる。周と源次郎は至急ホテルに出向いて直接聞き込みに当たることにした。警視庁の丹羽に言って刑事を二人ばかり貸してもらい、ホテルを回ったものの、どのホテルでも三春谷という名の客が宿泊したという痕跡は見当たらなかった。
「クソッ! どこもハズレか」
まあ、実名で泊まったとは考えにくいものの、洗い出しには少々時間が必要だ。
「今、丹羽君のところの刑事さんらが各ホテルで防犯カメラを当たってくれています」
運良く三春谷が映っていればいいのだが、とにかくは待機しかない。
陽が傾き出し、夕刻を迎えようとしている。今ひとつ決定打となる証拠が掴めない中、医療室から鐘崎らの意識が戻ったとの朗報が届けられた。
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