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4. Allure
Allure 3話
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「けどよ、お前強かったよな、野球拳。結局脱いだのってマントと蝶ネクタイくらいだっけ? 結構残念そうにしてる女の子いたもんな? ホントはもっと負け越してくれんの期待してたヤツ多いんじゃねえ?」
マイペース過ぎる龍を、少しの嫌味まじりに苛めてやりたい気分になって、そんなことを口走った。
イベント最大の見せどころである野球拳ゲームで、圧倒的に負けなしだったことについて、皮肉たっぷりに突っ込んでやる。客はもちろんのこと店のホスト連中も含めて、『皆がお前のハダカを見たがっていたんだぜ』と言わんばかりに不適に微笑んでやった。
だがもっと嫌味たっぷりに、ヘタをすれば詰ってやりたくなるくらいの出来事も他にあった。
実際、野球拳よりも期待度の高いのが”おねだりゲーム”といわれる催しだ。目当てのホストにボトルを注ぎ込む引き換えに何でも望みを叶えてもらえるという、ハロウィンイベントならではの目玉企画のことである。
そのおねだりゲームで、軽く”一本”は超えるほどのボトルを注んだ挙句に、その酒を口移しで飲ませて欲しいとねだったのが他でもない、この龍の常連客だった。”一本”というのは、いわば帯付きの札束のことだ。現金のまま龍の懐にそれを忍ばせながら、『今ここで――皆の見てる前でアタシにキスをして。それもとびっきり濃いヤツよ?』と言って、彼女は得意げに龍の胸板へと抱き付いた。
これには会場も大盛り上がりで、さすがに龍のそれには及ばないものの、次々と高価なボトルが入りまくって、結果イベントは大成功で幕を閉じた。かくいう波濤自身の客もバースデー並みのグラスタワーを注文してくれたりと大盛況だったのだが、この龍の客の”口移しおねだり”以上にインパクトの強いものはなかった。
何だか癪な気持ちになって、『てめえの客はスケベな奴ばっかりだ』と、嫌味を言ってやりたくなるのはホストとしてのライバル心からくるものなのか、あるいは別の意味なのか――。
それを考え始まると、身体中が掻きむしられるような奇妙な気分にさせられる。この男といると、些細なことでも平常心を奪われるようで気が滅入るのだ。
波濤はそんな自分に我ながら呆れるといった調子で、半ばふてくされ気味に行儀の悪く脚を投げ出した。だが龍の方はそんな態度が満足だとでも言わんばかりにクスッと鼻先で笑うと、
「そういうお前は結構脱がされてたな? お陰で眼福だったぜ」
チラリと悪戯そうな視線を投げ掛けられて、瞬時に頬が染まった。
「まあ……けど、実際お前が最後まで負け越さなくてホッとしてるってのが本音ではあるな」
と、今度は意味ありげな上目遣いに見つめられて、更に頬が熱を持った。
「何でよ? 普通はてめえ以外の奴が負けてくれた方がいいだろうよ」
「そりゃお前以外は――な? 誰が負けようがマッパになろうが知ったこっちゃねえが、お前の下着一丁の姿なんざ誰にも見せたくねえからな」
「――――ッ」
まったく、どうしてこの男はこういうことを恥ずかしげもなく言えるのか。これ以上赤面させられてはたまらないと思う反面、嬉しいのも本当のところで、波濤はどうにも戸惑わされてしまった。だが龍の方はそんなことは気にも止めずに、ますます饒舌だ。
「……ったく帝斗の野郎ったらホント、ロクな企画を考えやしねえ」
また一口、手元の水を含みながら呟かれたそのひと言に、波濤は奇妙な表情で龍を見やった。
「帝斗って、もしかオーナーのこと? お前、ミカドさんと親しいのかよ……?」
怪訝そうに訊いたのも当然だ。
店のオーナーが現役ホストだった時代には、その大物ぶりから帝という異名をとったことは有名な話だったが、だからこそそんな彼を呼び捨てにできる人間などは珍しい。しかも源氏名ではなく異名でもない、本名で呼び捨てるなど以ての外だと眉根を寄せた。
だが龍は言われていることがいまいち解らないといった調子で、不思議そうに首を傾げている。
「ミカドさんだ? ひょっとして帝斗のことか?」
飄々とした物言いに、驚きを通り越して唖然とさせられた。
そんな様子が可笑しかったのか、龍は満足そうに口角を上げると、
「なんだ。気になるのか? 俺と帝斗の関係。ひょっとして妬けたとか?」
突如ガバッと身を起こし、肩を抱かれて、波濤は引っくり返ったような声を上げた。
「バッ……! 誰が妬いてなんかっ……いっかよ! てめえがいかにも図々しい呼び方すっから驚いただけだっつのッ……!」
「なんだ――。そう、つまらねえな。妬いちゃくれねえのか」
「てめ……やっぱ相当酔ってんのな? 何で俺がてめえとミカドさんの仲なんか勘ぐらなきゃなんねーんだよ」
第一、妬くだの何だのという以前に、『俺たちの間柄はそんな特別のものじゃない、ただの同僚というだけだ』と言ってやりたい。そんな気持ちのままに、精一杯平静を装ってはみたものの、実のところ、気になるならないの問題どころではなかった。
含みたっぷりの龍は余裕の面持ちで嬉しげだ。毎度毎度、自分だけが振り回されているようでバツが悪い。既にまた、この男のペースに乗せられ掛けているのが癪に思えて、波濤はわざと落ち着き払ってみせた。
「ふ……ん、なら言ってみ? お前とミカドさんの関係。どんな仲だよ? 妬いてやっから話してみ?」
その言葉に龍はますますニヒルに微笑むと、機嫌のよさそうにニヤッと笑ってみせた。
「そうだな、案外深い関係っての?」
「え――――!?」
「お前との仲ほどじゃねえけどな」
そう言うなり、不意打ちのように抱き締められ、唇を重ね合わされて、波濤はビクリと肩をすくめた。
マイペース過ぎる龍を、少しの嫌味まじりに苛めてやりたい気分になって、そんなことを口走った。
イベント最大の見せどころである野球拳ゲームで、圧倒的に負けなしだったことについて、皮肉たっぷりに突っ込んでやる。客はもちろんのこと店のホスト連中も含めて、『皆がお前のハダカを見たがっていたんだぜ』と言わんばかりに不適に微笑んでやった。
だがもっと嫌味たっぷりに、ヘタをすれば詰ってやりたくなるくらいの出来事も他にあった。
実際、野球拳よりも期待度の高いのが”おねだりゲーム”といわれる催しだ。目当てのホストにボトルを注ぎ込む引き換えに何でも望みを叶えてもらえるという、ハロウィンイベントならではの目玉企画のことである。
そのおねだりゲームで、軽く”一本”は超えるほどのボトルを注んだ挙句に、その酒を口移しで飲ませて欲しいとねだったのが他でもない、この龍の常連客だった。”一本”というのは、いわば帯付きの札束のことだ。現金のまま龍の懐にそれを忍ばせながら、『今ここで――皆の見てる前でアタシにキスをして。それもとびっきり濃いヤツよ?』と言って、彼女は得意げに龍の胸板へと抱き付いた。
これには会場も大盛り上がりで、さすがに龍のそれには及ばないものの、次々と高価なボトルが入りまくって、結果イベントは大成功で幕を閉じた。かくいう波濤自身の客もバースデー並みのグラスタワーを注文してくれたりと大盛況だったのだが、この龍の客の”口移しおねだり”以上にインパクトの強いものはなかった。
何だか癪な気持ちになって、『てめえの客はスケベな奴ばっかりだ』と、嫌味を言ってやりたくなるのはホストとしてのライバル心からくるものなのか、あるいは別の意味なのか――。
それを考え始まると、身体中が掻きむしられるような奇妙な気分にさせられる。この男といると、些細なことでも平常心を奪われるようで気が滅入るのだ。
波濤はそんな自分に我ながら呆れるといった調子で、半ばふてくされ気味に行儀の悪く脚を投げ出した。だが龍の方はそんな態度が満足だとでも言わんばかりにクスッと鼻先で笑うと、
「そういうお前は結構脱がされてたな? お陰で眼福だったぜ」
チラリと悪戯そうな視線を投げ掛けられて、瞬時に頬が染まった。
「まあ……けど、実際お前が最後まで負け越さなくてホッとしてるってのが本音ではあるな」
と、今度は意味ありげな上目遣いに見つめられて、更に頬が熱を持った。
「何でよ? 普通はてめえ以外の奴が負けてくれた方がいいだろうよ」
「そりゃお前以外は――な? 誰が負けようがマッパになろうが知ったこっちゃねえが、お前の下着一丁の姿なんざ誰にも見せたくねえからな」
「――――ッ」
まったく、どうしてこの男はこういうことを恥ずかしげもなく言えるのか。これ以上赤面させられてはたまらないと思う反面、嬉しいのも本当のところで、波濤はどうにも戸惑わされてしまった。だが龍の方はそんなことは気にも止めずに、ますます饒舌だ。
「……ったく帝斗の野郎ったらホント、ロクな企画を考えやしねえ」
また一口、手元の水を含みながら呟かれたそのひと言に、波濤は奇妙な表情で龍を見やった。
「帝斗って、もしかオーナーのこと? お前、ミカドさんと親しいのかよ……?」
怪訝そうに訊いたのも当然だ。
店のオーナーが現役ホストだった時代には、その大物ぶりから帝という異名をとったことは有名な話だったが、だからこそそんな彼を呼び捨てにできる人間などは珍しい。しかも源氏名ではなく異名でもない、本名で呼び捨てるなど以ての外だと眉根を寄せた。
だが龍は言われていることがいまいち解らないといった調子で、不思議そうに首を傾げている。
「ミカドさんだ? ひょっとして帝斗のことか?」
飄々とした物言いに、驚きを通り越して唖然とさせられた。
そんな様子が可笑しかったのか、龍は満足そうに口角を上げると、
「なんだ。気になるのか? 俺と帝斗の関係。ひょっとして妬けたとか?」
突如ガバッと身を起こし、肩を抱かれて、波濤は引っくり返ったような声を上げた。
「バッ……! 誰が妬いてなんかっ……いっかよ! てめえがいかにも図々しい呼び方すっから驚いただけだっつのッ……!」
「なんだ――。そう、つまらねえな。妬いちゃくれねえのか」
「てめ……やっぱ相当酔ってんのな? 何で俺がてめえとミカドさんの仲なんか勘ぐらなきゃなんねーんだよ」
第一、妬くだの何だのという以前に、『俺たちの間柄はそんな特別のものじゃない、ただの同僚というだけだ』と言ってやりたい。そんな気持ちのままに、精一杯平静を装ってはみたものの、実のところ、気になるならないの問題どころではなかった。
含みたっぷりの龍は余裕の面持ちで嬉しげだ。毎度毎度、自分だけが振り回されているようでバツが悪い。既にまた、この男のペースに乗せられ掛けているのが癪に思えて、波濤はわざと落ち着き払ってみせた。
「ふ……ん、なら言ってみ? お前とミカドさんの関係。どんな仲だよ? 妬いてやっから話してみ?」
その言葉に龍はますますニヒルに微笑むと、機嫌のよさそうにニヤッと笑ってみせた。
「そうだな、案外深い関係っての?」
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