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マフィアの花嫁
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次の日、朝一番で香港から兄の周風が汐留へと駆け付けてきた。
いかに弱体化しているとはいえ、庚兆らは現在も一応ファミリー直下に身を置く者たちだ。事態を聞いて飛んで来てくれたのだった。
周は自害した庚兆の亡骸とその手下たちの身柄を香港のファミリーに任せることにした。兄の周風もまた、弟の理解に心から謝罪を述べて、深く頭を下げた。
本来であれば冰や鐘崎らの命にかかわる一大事だったわけで、周自身の手で決着をつけたかっただろうことが痛いほど分かるからだ。
「焔、すまなかった――。冰と、遼二に紫月、それに尽力してくれた皆に心からの謝罪をし、そして礼を言う。本当にすまない――」
「兄貴――。いえ、庚兆のヤツは自分の身を処することでけじめをつけたんです。皆のお陰で冰も私共もこうして無事だったのですから」
庚兆のしたことは決して赦されることではない。だが、身を以て決着をつけた彼をこれ以上詰ったところで誰の心が晴れるわけではないということを周自身解っているのだ。この世界に生まれ、身を置いている以上、これからも似たようなことが起こり得るかもしれない。庚兆らのように逆恨みや身勝手な解釈などでファミリーに敵意を持っている者もいるだろう。香港の父や兄にはなかなか手が出せないとしても、表向きは堅気の商売で生きている自分のところにそれら持て余した感情をぶつけてくることも皆無とはいえない。
だが、それも自分の人生であり運命でもあるのだ。決して逃げることなく仲間を大切にして、時に頼り、また頼られる存在でありたいと思う。信じ合い頼り合える仲間がいるからこそ自分は生かされているのだ。そんな思いを決して忘れず、強く強く生きていきたい。そして愛する者を守れる自分でありたい。
今回、命をかけて自身と冰を救ってくれた鐘崎に紫月、そして自らの側近たちと鐘崎組の面々。心配してすぐに飛んで来てくれた兄と香港の地で心を痛めてくれている父や母に義姉たち。皆と共に精一杯歩んでいこう、周は固く心に誓うのだった。
◆ ◆ ◆
その夜、すっかりと嵐も過ぎ去った大都会の夜景を眺めながら、周は愛する冰と共に就寝前のひと時を過ごしていた。
「もう身体の方は落ち着いたか?」
熱い紹興酒を二つ、テーブルの上に並べて愛しい嫁の肩をそっと抱き寄せた。
「うん、お陰様でもうすっかりいいよ」
とは言うものの、まだ少しいつものような元気がないように感じられるのは致し方ないか。あれだけの目に遭った直後だ。そう簡単に傷は癒えてくれなくても当然だろう。周はすまなかったと思う気持ちを抱えながらも、ゆっくりでいい、この傷が癒えるようにと祈りを込めてただただ側に寄り添っていてやりたいと思うのだった。
ところが冰の元気がない原因は、周が考えているようなことではなかったようだ。
いかに弱体化しているとはいえ、庚兆らは現在も一応ファミリー直下に身を置く者たちだ。事態を聞いて飛んで来てくれたのだった。
周は自害した庚兆の亡骸とその手下たちの身柄を香港のファミリーに任せることにした。兄の周風もまた、弟の理解に心から謝罪を述べて、深く頭を下げた。
本来であれば冰や鐘崎らの命にかかわる一大事だったわけで、周自身の手で決着をつけたかっただろうことが痛いほど分かるからだ。
「焔、すまなかった――。冰と、遼二に紫月、それに尽力してくれた皆に心からの謝罪をし、そして礼を言う。本当にすまない――」
「兄貴――。いえ、庚兆のヤツは自分の身を処することでけじめをつけたんです。皆のお陰で冰も私共もこうして無事だったのですから」
庚兆のしたことは決して赦されることではない。だが、身を以て決着をつけた彼をこれ以上詰ったところで誰の心が晴れるわけではないということを周自身解っているのだ。この世界に生まれ、身を置いている以上、これからも似たようなことが起こり得るかもしれない。庚兆らのように逆恨みや身勝手な解釈などでファミリーに敵意を持っている者もいるだろう。香港の父や兄にはなかなか手が出せないとしても、表向きは堅気の商売で生きている自分のところにそれら持て余した感情をぶつけてくることも皆無とはいえない。
だが、それも自分の人生であり運命でもあるのだ。決して逃げることなく仲間を大切にして、時に頼り、また頼られる存在でありたいと思う。信じ合い頼り合える仲間がいるからこそ自分は生かされているのだ。そんな思いを決して忘れず、強く強く生きていきたい。そして愛する者を守れる自分でありたい。
今回、命をかけて自身と冰を救ってくれた鐘崎に紫月、そして自らの側近たちと鐘崎組の面々。心配してすぐに飛んで来てくれた兄と香港の地で心を痛めてくれている父や母に義姉たち。皆と共に精一杯歩んでいこう、周は固く心に誓うのだった。
◆ ◆ ◆
その夜、すっかりと嵐も過ぎ去った大都会の夜景を眺めながら、周は愛する冰と共に就寝前のひと時を過ごしていた。
「もう身体の方は落ち着いたか?」
熱い紹興酒を二つ、テーブルの上に並べて愛しい嫁の肩をそっと抱き寄せた。
「うん、お陰様でもうすっかりいいよ」
とは言うものの、まだ少しいつものような元気がないように感じられるのは致し方ないか。あれだけの目に遭った直後だ。そう簡単に傷は癒えてくれなくても当然だろう。周はすまなかったと思う気持ちを抱えながらも、ゆっくりでいい、この傷が癒えるようにと祈りを込めてただただ側に寄り添っていてやりたいと思うのだった。
ところが冰の元気がない原因は、周が考えているようなことではなかったようだ。
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