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マフィアの花嫁
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「あのね、白龍……。俺、実は白龍に申し訳ないことをしちゃったって思ってて……」
「――? 申し訳ないこと?」
周からすればまるで見当もつかないことである。だが、冰自身は気になって気になって、どうしても謝らなければと心を痛めているというのだ。
「実は……倉庫で捕まってた時なんだけど。俺……あの人たちを何とかしようと思ってとんでもないこと言っちゃったんだ」
「とんでもないこと?」
「うん……」
それは周の遺産を分けてやるよと言って彼らを寝返らせたことだったらしい。
「あの人たちに言ったんだ。どうせ白龍のことも殺すつもりなんでしょって。その際は遺産を分けてあげるから……俺と協力する気はないかって」
いくら寝返らせる策とはいえ、そんなことを口にしてしまった自分が情けなくて堪らなくて、周にも申し訳なくて顔向けできないくらい落ち込んでいるというのだ。意外な悩みを聞かされて、周はパチクリと瞳を見開いてしまった。
「なんだ、そんなことか」
周はすっかり憑き物を落とされたような顔で拍子抜けしている。
「そんなことって……! 俺、言っちゃった後で思ったんだ。いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるって。言霊って言葉があるじゃない? 例え理由がどうであれ、口に出すことでそれが現実になっちゃうこともあるかも知れない。なのに俺は平気であんなこと言っちゃって」
「だがそれも作戦の内だったんだろうが。結果的にヤツらはお前の口上に乗せられて、爆発物のついた腕輪を外したんだ。俺には良くやったとしか思えんがな」
鐘崎も紫月もそう言っていたぞと、周はうつむいている顔を覗き込んだ。
「結果としては……そうだったかも知れない。でも他にもっと言いようがあったはずだって思って。だから俺、二度目にあの人たちに捕まった時に思ったんだ。これは自業自得で、受けるべき罰なんだって。爆弾と一緒に吊り下げられて――もう時間がないって分かった時も当然の報いだって思った。鐘崎さんや紫月さんを危険な目に遭わせてまで助けてもらう価値なんかない。できることなら早く……皆さんが俺の所に助けに来てくれる前に爆発してしまえばいいって」
堪らずに周は愛しい嫁を抱き締めた。
「馬鹿なことを言うもんじゃねえ。お前は何ひとつ間違っちゃいねえ!」
「白……龍……」
冰は堪え切れなくなった涙をポロポロとこぼしながらも、逞しい腕の中に身を委ねようとはせずに泣き濡れた。自分にはこうして抱き締めてもらえる資格などない、彼の中ではそれほどに後悔が激しいのだろう。
「――? 申し訳ないこと?」
周からすればまるで見当もつかないことである。だが、冰自身は気になって気になって、どうしても謝らなければと心を痛めているというのだ。
「実は……倉庫で捕まってた時なんだけど。俺……あの人たちを何とかしようと思ってとんでもないこと言っちゃったんだ」
「とんでもないこと?」
「うん……」
それは周の遺産を分けてやるよと言って彼らを寝返らせたことだったらしい。
「あの人たちに言ったんだ。どうせ白龍のことも殺すつもりなんでしょって。その際は遺産を分けてあげるから……俺と協力する気はないかって」
いくら寝返らせる策とはいえ、そんなことを口にしてしまった自分が情けなくて堪らなくて、周にも申し訳なくて顔向けできないくらい落ち込んでいるというのだ。意外な悩みを聞かされて、周はパチクリと瞳を見開いてしまった。
「なんだ、そんなことか」
周はすっかり憑き物を落とされたような顔で拍子抜けしている。
「そんなことって……! 俺、言っちゃった後で思ったんだ。いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるって。言霊って言葉があるじゃない? 例え理由がどうであれ、口に出すことでそれが現実になっちゃうこともあるかも知れない。なのに俺は平気であんなこと言っちゃって」
「だがそれも作戦の内だったんだろうが。結果的にヤツらはお前の口上に乗せられて、爆発物のついた腕輪を外したんだ。俺には良くやったとしか思えんがな」
鐘崎も紫月もそう言っていたぞと、周はうつむいている顔を覗き込んだ。
「結果としては……そうだったかも知れない。でも他にもっと言いようがあったはずだって思って。だから俺、二度目にあの人たちに捕まった時に思ったんだ。これは自業自得で、受けるべき罰なんだって。爆弾と一緒に吊り下げられて――もう時間がないって分かった時も当然の報いだって思った。鐘崎さんや紫月さんを危険な目に遭わせてまで助けてもらう価値なんかない。できることなら早く……皆さんが俺の所に助けに来てくれる前に爆発してしまえばいいって」
堪らずに周は愛しい嫁を抱き締めた。
「馬鹿なことを言うもんじゃねえ。お前は何ひとつ間違っちゃいねえ!」
「白……龍……」
冰は堪え切れなくなった涙をポロポロとこぼしながらも、逞しい腕の中に身を委ねようとはせずに泣き濡れた。自分にはこうして抱き締めてもらえる資格などない、彼の中ではそれほどに後悔が激しいのだろう。
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