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マフィアの花嫁
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もうすぐ夜が明ける――。
一晩中、嬲るという言葉がそのままの如く激しく止めどなく抱かれ続けて、冰は無我の境地でぼんやりと空を見つめていた。
「辛いか――?」
激しかった一夜のことが夢か幻かというほどにやさしく穏やかな声が耳をくすぐる。そっと髪を撫でて梳く指先の感触に隣を見やれば、心配そうな瞳がぼんやりと視界に映る。
「白……龍」
「乱暴にし過ぎてしまったな」
すまなかった――。
身体は辛くないか、そう言いたげに苦しげな瞳がじっと見つめてくる。
「ううん、平気。俺……うれし……かった」
こんな俺――あんなことを言った俺を詰ることもなく、ましてやこんなに荒れ狂うと言えるほどに愛してくれた。
どんなに嬉しくて有り難くて幸せだったことか。
「ごめんね、白龍。ありがとう。俺……」
「俺の方だ。謝るのは――」
俺の方だ。
言葉は要らない。俺たちはこんなにも互いを必要とし、そのどちらかが欠ければ形を成さないほどに愛し合っている。共にいてこその己なのだということを――これからもずっと忘れずに、生きていこう。
「冰、少しそのままで待っていろ」
「白龍……?」
「湯とタオルを取ってくる。身体を拭いてやるから少し休もう」
「え……? あの……」
「風呂に入るのは辛かろう」
周は額に小さな口づけをくれると、バスルームへと向かった。
雄々しい背中には見慣れた見事なほどのうねる白龍――。ぼんやりと見つめながら、初めてそれを見た日のことが脳裏に蘇る。
「白……龍」
桶に湯を汲み、タオルを手にした彼が戻ってきては丁寧に身体を拭いてくれた。腹や背中に手脚などはもちろんのこと、足の裏や指先の間までをも丁寧に丁寧に拭ってくれる。温かいタオルが肌を清めていく感覚が心地好い。
「白龍……ありが……とう」
拭かれていくそばから眠りに落ちていく。
それは深くて穏やかで、心地の好い瞬間だった。
マフィアの伴侶――。
お前はこの俺の、周焔の伴侶だ。
眠りに落ちていく中でその声が幾度も幾度も繰り返してはこだまする。
そう――俺はあなたの――伴侶。
例え何があっても、ぶれることなくあなたの伴侶でいたい。
強くありたい。
いつまでもいつまでもあなたの隣にいて恥ずかしくないような自分になりたい。
無意識の中にもうっすらと滲み出た涙が頬を伝う。
その真珠のような雫にそっと口づけて、周は愛しき唯一人の人を見つめた。
(冰――。俺の方こそ過去のとばっちりでお前を気の毒な目に遭わせてしまったんだぞ。それなのに――お前は見事に敵を寝返らせたその話術と功績を悔いては、こんなにも心を痛めて――こうして涙まで流してくれる。謝るのは俺の方だというのにお前は……こんなにも純粋で、清らか過ぎるほどの気持ちを向けてくれる)
すまない。何度謝っても足りない。
こんな俺の側に居続けてくれようとするその気持ちを――俺は絶対に忘れない。
愛しいなどという言葉では到底言い表せないほどに、ギュッと心が鷲掴まれたように震える。安らかな寝顔を見つめながら、周もまた、込み上げた熱い雫をそっと拭ったのだった。
一晩中、嬲るという言葉がそのままの如く激しく止めどなく抱かれ続けて、冰は無我の境地でぼんやりと空を見つめていた。
「辛いか――?」
激しかった一夜のことが夢か幻かというほどにやさしく穏やかな声が耳をくすぐる。そっと髪を撫でて梳く指先の感触に隣を見やれば、心配そうな瞳がぼんやりと視界に映る。
「白……龍」
「乱暴にし過ぎてしまったな」
すまなかった――。
身体は辛くないか、そう言いたげに苦しげな瞳がじっと見つめてくる。
「ううん、平気。俺……うれし……かった」
こんな俺――あんなことを言った俺を詰ることもなく、ましてやこんなに荒れ狂うと言えるほどに愛してくれた。
どんなに嬉しくて有り難くて幸せだったことか。
「ごめんね、白龍。ありがとう。俺……」
「俺の方だ。謝るのは――」
俺の方だ。
言葉は要らない。俺たちはこんなにも互いを必要とし、そのどちらかが欠ければ形を成さないほどに愛し合っている。共にいてこその己なのだということを――これからもずっと忘れずに、生きていこう。
「冰、少しそのままで待っていろ」
「白龍……?」
「湯とタオルを取ってくる。身体を拭いてやるから少し休もう」
「え……? あの……」
「風呂に入るのは辛かろう」
周は額に小さな口づけをくれると、バスルームへと向かった。
雄々しい背中には見慣れた見事なほどのうねる白龍――。ぼんやりと見つめながら、初めてそれを見た日のことが脳裏に蘇る。
「白……龍」
桶に湯を汲み、タオルを手にした彼が戻ってきては丁寧に身体を拭いてくれた。腹や背中に手脚などはもちろんのこと、足の裏や指先の間までをも丁寧に丁寧に拭ってくれる。温かいタオルが肌を清めていく感覚が心地好い。
「白龍……ありが……とう」
拭かれていくそばから眠りに落ちていく。
それは深くて穏やかで、心地の好い瞬間だった。
マフィアの伴侶――。
お前はこの俺の、周焔の伴侶だ。
眠りに落ちていく中でその声が幾度も幾度も繰り返してはこだまする。
そう――俺はあなたの――伴侶。
例え何があっても、ぶれることなくあなたの伴侶でいたい。
強くありたい。
いつまでもいつまでもあなたの隣にいて恥ずかしくないような自分になりたい。
無意識の中にもうっすらと滲み出た涙が頬を伝う。
その真珠のような雫にそっと口づけて、周は愛しき唯一人の人を見つめた。
(冰――。俺の方こそ過去のとばっちりでお前を気の毒な目に遭わせてしまったんだぞ。それなのに――お前は見事に敵を寝返らせたその話術と功績を悔いては、こんなにも心を痛めて――こうして涙まで流してくれる。謝るのは俺の方だというのにお前は……こんなにも純粋で、清らか過ぎるほどの気持ちを向けてくれる)
すまない。何度謝っても足りない。
こんな俺の側に居続けてくれようとするその気持ちを――俺は絶対に忘れない。
愛しいなどという言葉では到底言い表せないほどに、ギュッと心が鷲掴まれたように震える。安らかな寝顔を見つめながら、周もまた、込み上げた熱い雫をそっと拭ったのだった。
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