58 / 69
マフィアの花嫁
33
しおりを挟む
その日の午後、香港へと帰る兄を見送る為、周は空港へと向かった。鐘崎と紫月も駆けつけてくれて、珍しくも周の運転でショートドライブと相成った。
後部座席には兄の風と紫月が肩を並べ、鐘崎は助手席に乗ってくれて男四人――。風はプライベートジェットでやって来たので、側近たちは庚兆の亡骸と共に、彼について来た者たちを連れてひと足先に空港へと向かったという。離陸時に合流だそうだ。
「冰君はまだ鄧先生の医療室か?」
あんなことがあった直後だ。身体の方は大丈夫だろうかと紫月が心配顔でいる。
「ああ。お陰様で昨夜からもう俺の寝床に帰って来てる。兄貴の見送りと聞けば一緒に来たがっただろうが、今はゆっくり休ませてやりたいと思ってな」
皆、それで当然だという顔つきでうなずいていたが、冰が起きられなかった原因がまさか抱き潰されたからだなどとは思ってもいないだろう。周は半ば苦笑ながらも、昨夜一晩己が獣になってしまったことを打ち明けた。
「はぁ!? おめ……ンなことしたんかよ」
「焔、いくらなんでも冰が気の毒ではないか? 少しは身体のことも考えてやらんと」
紫月と兄の風は「おいおい――」と呆れ顔を見せたが、唯一鐘崎だけは理解を示してくれたようだ。
「分かるぜ、おめえの気持ち! あんな事があった後だからこそ抑えがきかなくなっちまうよな」
うんうんと大袈裟なほどにうなずきながら真顔で理解を示す。そんな亭主に、紫月は「あちゃー」と額を抑えてはうなだれてしまった。
「おめえら……ほんっとに似たもの同士ってかさ。ちっとは風の兄貴みてえに紳士的にいけねえもんかねぇ」
自分に置き換えて想像したら、マジで背筋がちょっと寒くなったわとビビり顔でいる紫月に、ドッと笑いが巻き起こった。
「まあ焔や遼二の気持ちも分からんではないよ」
風はさりげなくフォローをしつつも、皆のお陰だと言って今一度丁寧に礼を述べてよこした。
「遼二と紫月、それに鐘崎組の皆さんには本当に助けられた。この通り礼を言うぞ」
そして、こんなことが再三あってはならないが、いつまたどんな災難に見舞われるかも知れない自分たち裏の世界に生きる者として、これからも弟夫婦をよろしく頼むと頭を下げた。
「いやぁ、俺たちの方こそ! 氷川と冰君には世話になりっ放しで」
これからも互いに支え合っていきますという頼もしい鐘崎と紫月の言葉を聞いて、兄・周風は安心して香港へと帰って行ったのだった。
秋晴れの空高く、白い雲をたなびかせて飛び立っていく航空機を見送りながら、三人はデッキで肩を並べていた。
「さて――と! 帰る頃には冰君も起きてっかな」
紫月が気持ちよさそうにノビをしながら笑む。
「おめえら、晩飯はウチで食ってかねえか? 冰も喜ぶだろうし」
「そうだな。そんじゃ遠慮なく呼ばれるとするか」
「な、な、だったらさ。冰君に何か甘いモンでも買ってくべ!」
何がいいかなとワクワク顔を見せる紫月に、
「とか何とか言って――おめえが食いてえんだろうが」
鐘崎が冷やかしつつもやさしい笑顔を見せる。
「あ、バレた?」
「バレバレだ」
あはははは――! 朗らかな笑顔に幸せが滲む。まるで学生時代に戻ったかのように互いの肩を突き合いながら友情と愛情を噛み締める。男三人、秋のつるべ落としの夕陽が作る互いの長い影を見つめては、誰からともなく肩を組む。
重なるその影に幸せを感じつつ、冰の待つ汐留へと帰路についた。
マフィアの花嫁 - FIN -
※次は後日談その1、鐘崎組に礼に訪れる周と冰の小話です。
後部座席には兄の風と紫月が肩を並べ、鐘崎は助手席に乗ってくれて男四人――。風はプライベートジェットでやって来たので、側近たちは庚兆の亡骸と共に、彼について来た者たちを連れてひと足先に空港へと向かったという。離陸時に合流だそうだ。
「冰君はまだ鄧先生の医療室か?」
あんなことがあった直後だ。身体の方は大丈夫だろうかと紫月が心配顔でいる。
「ああ。お陰様で昨夜からもう俺の寝床に帰って来てる。兄貴の見送りと聞けば一緒に来たがっただろうが、今はゆっくり休ませてやりたいと思ってな」
皆、それで当然だという顔つきでうなずいていたが、冰が起きられなかった原因がまさか抱き潰されたからだなどとは思ってもいないだろう。周は半ば苦笑ながらも、昨夜一晩己が獣になってしまったことを打ち明けた。
「はぁ!? おめ……ンなことしたんかよ」
「焔、いくらなんでも冰が気の毒ではないか? 少しは身体のことも考えてやらんと」
紫月と兄の風は「おいおい――」と呆れ顔を見せたが、唯一鐘崎だけは理解を示してくれたようだ。
「分かるぜ、おめえの気持ち! あんな事があった後だからこそ抑えがきかなくなっちまうよな」
うんうんと大袈裟なほどにうなずきながら真顔で理解を示す。そんな亭主に、紫月は「あちゃー」と額を抑えてはうなだれてしまった。
「おめえら……ほんっとに似たもの同士ってかさ。ちっとは風の兄貴みてえに紳士的にいけねえもんかねぇ」
自分に置き換えて想像したら、マジで背筋がちょっと寒くなったわとビビり顔でいる紫月に、ドッと笑いが巻き起こった。
「まあ焔や遼二の気持ちも分からんではないよ」
風はさりげなくフォローをしつつも、皆のお陰だと言って今一度丁寧に礼を述べてよこした。
「遼二と紫月、それに鐘崎組の皆さんには本当に助けられた。この通り礼を言うぞ」
そして、こんなことが再三あってはならないが、いつまたどんな災難に見舞われるかも知れない自分たち裏の世界に生きる者として、これからも弟夫婦をよろしく頼むと頭を下げた。
「いやぁ、俺たちの方こそ! 氷川と冰君には世話になりっ放しで」
これからも互いに支え合っていきますという頼もしい鐘崎と紫月の言葉を聞いて、兄・周風は安心して香港へと帰って行ったのだった。
秋晴れの空高く、白い雲をたなびかせて飛び立っていく航空機を見送りながら、三人はデッキで肩を並べていた。
「さて――と! 帰る頃には冰君も起きてっかな」
紫月が気持ちよさそうにノビをしながら笑む。
「おめえら、晩飯はウチで食ってかねえか? 冰も喜ぶだろうし」
「そうだな。そんじゃ遠慮なく呼ばれるとするか」
「な、な、だったらさ。冰君に何か甘いモンでも買ってくべ!」
何がいいかなとワクワク顔を見せる紫月に、
「とか何とか言って――おめえが食いてえんだろうが」
鐘崎が冷やかしつつもやさしい笑顔を見せる。
「あ、バレた?」
「バレバレだ」
あはははは――! 朗らかな笑顔に幸せが滲む。まるで学生時代に戻ったかのように互いの肩を突き合いながら友情と愛情を噛み締める。男三人、秋のつるべ落としの夕陽が作る互いの長い影を見つめては、誰からともなく肩を組む。
重なるその影に幸せを感じつつ、冰の待つ汐留へと帰路についた。
マフィアの花嫁 - FIN -
※次は後日談その1、鐘崎組に礼に訪れる周と冰の小話です。
23
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる