極道恋事情 another one

書き初め

２

　翌日、汐留の周ジォウ邸では新年の顔見せに訪れた鐘崎かねさきと紫月しづきから元旦の書き初めの様子を聞いた周焔ジォウ イェンが、腹を抱えて大笑いをさせられることとなった。
「おめえら、新年早々笑かすんじゃねえって！　″毎日″に″拾壱″って……」
　ああ、腹が痛いと言わんばかりに笑い転げている。傍では冰ひょうが昨日の若い衆らと同様、その意味するところが分からなくてポカンと目を丸めている。そんな冰ひょうに周ジォウが本当の意味を耳打ちしては、答えを明かしたのだった。
「つまりだな、カネは″毎日″やりてえ。一之宮いちのみやは″十日にいっぺん″くれえで勘弁してくれって意味だ」
「……毎日やりたい？　んと、……何を？」
　ここまで聞いても冰ひょうには響かないようだ。
　ところが三人の顔つきを窺う内に、何となく意味が分かってきたのか、みるみると頬を染め始めた。亭主の周ジォウは相変わらずに笑いが止まらないようだし、鐘崎かねさきは拗ねた子供のように口をへの字にして隣の嫁さんをジトーっと見つめている。その紫月しづきは少々頬染めながらも額に十文字の青筋を立てるようなコミカルな顔つき――と、くれば、夜の睦のことかと鈍い冰ひょうでも思い当たるというものだ。
「ああ……そ、そういう意味なんですね……。鐘崎かねさきさんは毎日……。紫月しづきさんは……あー分かりますー。そのくらいが体力的にもちょうど有り難いっていう意味ですよね」
　顔を真っ赤にしながらしどろもどろで視線を泳がせている。相変わらずに純粋なことだ。

「でも……毎日ってすごいですね」

　大真面目な冰ひょうのひと言でスイッチが入ったのか、周ジォウがひと言――。
「俺だっておめえ――毎日でも構わねえがな」
　さらりと恐ろしいことを口にする。その表情はニヤっと意味ありげで、しかも流し目が酷く色っぽい。もちろん半分は冰ひょうに対する揶揄からかいなのだが、真面目な彼は言葉通りに受け取ってしまったようだ。

「え……あの、白龍バイロン……？　こ、今年は……ま、毎日……するの？」

　頬を真っ赤に染めながらモジモジと上目遣いで可愛いことを言う。半ば嬉しいような困ったような、何とも言えない表情が堪らない。生真面目気質の冰ひょうにとってはそれこそ大真面目で出た台詞だが、周ジォウや鐘崎かねさきのような酸いも甘いもある程度知り尽くしたような強者つわものの男にとっては、その純朴さ加減が逆に心に刺さったわけだろう。つられたように頬に淡い朱を浮かべた周ジォウに、鐘崎かねさきと紫月しづきもみるみる茹蛸ゆでだこと化していく。四人で顔を突き合わせながらモジモジと照れ合う、そんな初々しい正月だった。
「あっはっは……参ったなぁ……冰ひょう君には形無かたなしだべ」
　紫月しづきが『ホントに可愛いなぁ』と頭を掻く傍らで、鐘崎かねさきはここぞとばかり都合のいい解釈に持っていこうと鼻息を荒げてよこす。
「な、な、紫月しづき。こいつらも″毎日″で合致したようだし、俺らも――」
　と言い掛けた瞬間に、ドカッと肘鉄を食らってションボリ。
「やっぱ拾壱といちかよ……。な、せいぜい週一……ってか三日にいっぺんくれえは――」
　未だ回数にかじりついている猛獣亭主を蚊帳の外にするべく、
「んじゃそろそろお詣り行くべか！」
　すっくとソファを立ち上がった紫月しづきに、「そうですね！」と冰ひょうも満面の笑みを見せる。すっかり気持ちは初詣へと移行している嫁たちに、旦那二人もやれやれと苦笑ながらも立ち上がった。