【ノルンの剣士】助けた親友と一緒に転生したら親友がなぜか聖女で神様になっていた

悠々天使

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5章 ー 訓練 ー

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「コネクター!!!」



食堂のすぐ奥にある広間で、俺は右手の平を水平にしながら小さく叫んだ。

周囲が青くなり、人が影のように黒くなった。
右手の中で、丸い光の球体がボヤっと現れる。見方を変えれば人魂のように見えた。

その球体から、光の糸を出し、対象に飛ばす。
例えば、ベンチで涎を垂らしながら寝ているアゲパン。

飛距離が長いと、その分球体が減っていくので、慎重に飛ばしていく。

確実に狙い、相手を捕捉するためにはかなりの集中力が必要だ。

光の糸は、一度飛ばすと戻ってこないので、球体を作り直さなくてはならない。
しかし、一つの球体を生成するのに体力がごっそり持っていかれる。

精神力とは言ったが、ぶっちゃけスタミナが減っているような気がしてならない。

何か、自分の精神力以外で魔力を補充するための道具があるといいのだが。

そもそも魔法を使って倒れてしまうと、戦うことができない。

魔法剣士としては、スタミナの消費は抑えたいものだ。

まだ剣士っぽいことは何一つやっていないのだが。

そんなことはともかくとして、アゲパンに光の糸を接続し、コネクトする。

成功すると、アゲパンの知る周辺の位置情報が頭に流れ込んでくる。

だが、コネクトして手に入る位置情報というのは、かなり抽象的だ。

高い場所は白く、低い場所は黒くなり、熱くなると赤く、中間なら黄色、緑、そして低いと青くなる。

アゲパンが動くと、その周辺の情報が立て続けに表示される。

だが、どうも、その本人が知っている情報しか反映されないらしく、知らないものを認知することはできないようだ。

たとえば、金属で言うと、鉄と銅があったとして、鉄と銅が存在していることを本人が認識していれば表示されるのだが、本人が、鉄と銅を同じ石として認識していると、石としてしか表示されない。

つまり、コネクトできるのは、その本人が自覚している物体だけなのだ。

理屈で考えれば分かることだった。

自分が把握していても、コネクトしている相手がその存在を把握していなければ、ソレが存在することを伝達できない。

例えば、レモンがそこあったとしても、レモン自体の存在を、レモンとして認識していなければ、黄色い石があったとしか情報を受け取れないのだ。

「これは確かにコネクターだな」

俺は独り言を漏らした。

とりあえず、糸の長さを把握して、何人まで同時にコネクトできるかを知っておく必要がある。

さっきのように、完全にコネクトしてしまうと、情報が頭に流れるためにスタミナを消費するが、情報を受け取らずに、ただ光の糸を飛ばして引っ付けるだけであればスタミナは消費されない。

つまり、糸の飛距離を測り、何人まで繋ぐことができるのかを調べるのは簡単にできそうだった。

しかし、詳しいことは、戦闘訓練が終わってからだ。

そろそろ風の刻になる。

アゲパンも目が覚め、俺を一瞥いちべつすると、訓練校の方へ歩いて行った。ちょうど食堂と逆方向。

さて、どんな訓練が行われることやら。




◇ ◇ ◇




ディークは訓練内容を変更することにした。

本来なら、剣、槍、斧、棍棒、杖、を使ったかたの稽古をする予定だったのだが、急遽、教官の位置を特定し、隠された人形を見つけ出す訓練をすることにした。

これも、目的は一つ、風魔法を使える人間を探すためだ。

捜索には、魔法を使うことが一番の早道だ。

仮に、その時点で風魔法を使えなくとも、潜在的に扱える素質があればここで開眼する可能性も大いにある。

ディークは生徒が訓練校の森林の中で、最も見つかりにくいと思われる場所に5つ人形を置いた。

そして、ディーク本人は、『擬態』の土の術で、目視ではほとんど見つけることが不可能な姿で隠れることにした。

どう頑張っても、この訓練の全ての課題をクリアすることはできないように整えた。

逆に言えば、風魔法を使うことで、ある程度クリアすることはできるということだ。

このことを生徒たちに説明する。

だが、本来の裏の目的に関しては、分からないように説明した。

あくまで、こっそりと、バレることなく風魔法使いを見つけることが必要だった。

ディークの前に現れた25人の生徒は、これから、決して合格することはできない課題に挑戦することになる。

「さぁ、よく集まった未来の戦士! 今日も武器の訓練をする予定だったが、変更してテストを行う」

「えええええええええええ!!!!」

分かりやすいブーイングだった。
急な変更には、不満を持つものも数名は出てくるものだ。
だが、当然、この訓練によって命を守ることに繋がるのだ。


本来であれば納得のいく説明をするべきなのだが、そうできないことがもどかしいと感じた。


「いいか、戦士ども、我々は、これから戦場へ向かった時、敵から身を隠して戦わなくてはならない。そのためには、敵の位置を把握する必要が出てくる。と同時に、魔法による罠や地雷を避けて通らなくては、命はないだろう。この訓練校内部の各地に、5体の土人形と、30個の術罠を仕掛けておいた。捕らえられたら死ぬと思え。そして罠の解除で1ポイント。土人形1体につき3ポイント付与する。ポイントについては、上位の者は、3日間の座学免除、休日を2日与えてやろう。だが、逆に下位の何名かは、私の個人指導を受けてもらう。もし、私の個人指導を喜んで受けたいという殊勝な生徒がいるのであれば、開始すぐに罠へ飛び込むと良い。それもまた成長過程の一つだ。そして、私を捕えれば55ポイント付与してやろう。くれぐれも、足の引っ張り合いだけはするなよ。不正はあとで、訓練という形で還元してやるからな」


生徒たちの顔は緊張でこわばっていた。

無理もない、上位に入ることより、下位で個人指導を受けさせられることが嫌なのだろう。

ディークも苦笑した。

だが、一人、全く動じていない、むしろ楽しそうにこちらを見ている生徒がいた。

ナンバー『67』だ。

何が面白いのだろうか? もう諦めて、個人指導を受けるつもりでいるというのだろうか? 不気味だ。
だがそれも個性の一つだろう。

充分に指導してやろうじゃないか。楽しみにしているといい。




◇ ◇ ◇




俺はディーク教官から訓練の内容を聞いて嬉しさが溢れた。

これは、ほぼ間違いなく『圧勝』だ!

そして、コネクターのスキルを存分に試すことができる。

良い舞台を用意してくれたもんだ教官!

ここで、教官にコネクトして、初めから狙うのも乙なものだが、それでは面白くない。

不正をして勝利しても、ゲームは楽しめないというものだ。

あくまで、強いスキルによって攻略するから良いのであって、開始前に仕込んでおくのはフライングというものだ。

もちろん、実戦であれば、フライングはオッケーなのだが。

「なぁ、ハル、俺、マジで自信ないんだが。どうすればいい?」

アゲパンが震えながら俺を見る。

「どうするったって、慎重に動くしかないだろう。術罠が30もあったら、うかつなことはできないからな」

「マジで下位の仲間入りだよ」

俺はそんなアゲパンにアドバイスをする。

「ま、大丈夫だろ? 偶然、罠が発動しないってこともあるさ」

「そんなことがあるのか? 何万分の一の確率だよそりゃ」

「大丈夫だ。俺の近くにいれば、たぶん下位になることはないさ」

「ハル、お前のその自信はどこからくるんだよ」

「とにかく、運を味方につけたやつが、このゲームで勝利するんだよ」

すると、マリアが近づいてきた。

「ハル、アゲパン、何を楽しそうに話してるの? さっそく諦めたわけ?」

アゲパンが言葉に嚙みついた。

「諦めてねーよ! こんな訓練楽勝だ!」

「ねぇー、それ強がりじゃないの? アゲパン」

さて、マリアも近づいてきて高飛車な感じだが、俺は知っている。マリアもこの訓練を怖がっている。

わざわざ近づいてきて、一緒に行動しようとしているのが見え見えだった。

それに引き換えさすがはマイクロジャムだ。一人で成績を残す気が満々だ。俺のライバルは、やはりマイクロジャムだったか!

と、その時は思ったのだが、開始してからほぼ最後まで、マイクロジャムは開始位置から一歩も動かなかった。


ディーク教官が、開始の合図をし、走り始めた。

一応、ディークを捕捉すれば55ポイントだ。すべての罠を解除し、土人形を手にすれば100ポイントだが、罠が発動した時点で、100は不可能になる。

さっそく、ディークを追いかけた4人が術罠に掛かり、完全に拘束された。
マリアとアゲパンは恐れおののいている。さっきの一瞬の強がりはどこへ行ったんだ?

メンバーは、残 21 人
ポイントは、 96 p

では、まずコネクターを発動させる。

「コネクター!」

空間が青くなる。

右手の上に光の球体が現れる。

さてさて、まずは糸をバラバラに飛ばす。
10人。今の最高値だ。

生徒は、行動力がありそうな3人と、慎重そうな奴3人にコネクトさせた。
できる限り、四方八方に散ってほしい。そうしないと、訓練校全体をマッピングできない。

現時点で、訓練校の3分の1はマッピングできた。

6人中5人が術罠にハマり、すでにコネクトは切れている。

ただ、その5人の犠牲の前に、3つの土人形があった。

木の上、沼の中心、小さいほこらの中。

木近くに術罠、沼に入ると術罠、祠の内部に術罠だ。

罠の位置が特定出来たから、そこを避ければ何とかなりそうだ。

メンバーは、残 16 人
ポイントは、 91 p

6人中の一人、術罠を解除してズンズン進んでいく凄い奴がいた。
カレンという女子生徒だ。

くせ毛でぼさぼさの暗めの金髪。筋肉の付いたバランスの良い身体。まさに、戦士といった雰囲気だった。
年齢でいうと、15歳くらいに見える。とはいえ、もっと上でも不思議ではないような落ち着きようだ。

術罠を見つけ、解除を繰り返している。

一度発動した罠は解除できないが、一人で5つは解除している。
基本的に、罠の位置さえ把握できれば、解除の札で簡単に無効化できるのだが、いかんせん術罠はその場所に完全に擬態しているのでさっぱり分からない。

カレンという女は何者なのだろうか?

メンバーがまた4人、術罠に捕らえられた。

メンバーは、残 12 人
ポイントは 82 p

カレンが、土人形を見つけた。これはうかうかしていられないぞ!

「おい、ハル、まだ動かないのか? みんな行っちゃったぞ? 何やってんだ?」

アゲパンが、痺れを切らして話し始めた。

「今、全体のマップを把握しているんだ。もう92%は把握している。そろそろ動き出しても大丈夫だ」

「すごーい、どういう魔法使ってるの?」
マリアが珍しく感心している。

「企業秘密だ」

「なにそれ? きぎょう?」

とにかく、カレンに先を越されないように、3つの土人形は頂くとしよう。

マッピングによって、足跡が光の線で表示される。この上を歩けば、術罠に掛かることはない。

「マリア、アゲパン。俺の後ろを歩いて来い、安全を保障してやる」

「マジかよ! ぜんぜん意味が分からないが、かっこいいなハル」
アゲパンのテンションが上がる。

「ええー、術罠に引っかかっても、助けてあげないからねー」

マリアはそんなことを言っているが、術罠から助け出せるようなスキルを持っている奴は、たぶん生徒の中にはいないだろう。

木の上の人形は術罠さえ気を付ければ簡単に取れた。

祠に関しても、中さえ見なければ罠の発動はなかった。

それで言うと、一番、沼が困った。

まず、沼に入ることで術罠が発動してしまうために、中央の人形を取ることができない。

考えた末、木の棒を繋ぎ、物理的に手繰り寄せるという、アナログな方法で何とかなった。

発案はアゲパンである。

「な! おれの言った通りだろ? 別に人形が沼に落ちても、罠は発動しないってことだ」

「偉そうに!? すぐ調子に乗るから失敗するんでしょ?」

マリアが噛みついている。

「なんだよー、マリアは後ろで文句言ってるだけじゃんか、なー、ハル」

「俺に振るなよ」

二人とも楽しそうで何よりだ。

一応、コネクトし直したほかの生徒の動向も確認してみるが、見事に全滅していた。


俺らの土人形が3体 で9ポイント

カレンが土人形1体 で3ポイント+罠解除 10ポイント


さて、これは完全にカレンが独走しているといえるだろう。

術罠に20人が嵌っているから、カレンのおかげで罠がなくなったわけだ。

少し悔しいが、まぁ、不用意に俺が圧勝してしまっても目立つだけだから、これで良いのかもしれない。

アゲパンとマリアがいるので、俺が単独で何とかしたようにも見えないし、大丈夫だろう。

良い感じで課題をクリアできそうだと思った。



◇ 



『67番!! なんなんだ あの子は!?』


ディークは、ハルたちを監視していた。

というのも、どこか怪しいと思ったために、隠れて行動をチェックしていたのだ。

どう考えてもおかしかった。

全く調べることなく、不自然に罠の位置を把握しているし、土人形を軽々と3体手に入れている。

後ろの二人は、67番に着いて行っているだけだ。

風魔法だとしても、どこか不自然さを感じざるを得なかった。

捜索や、感知のスキルでは、罠や、土人形の位置までは特定できない。

もし、それを可能にするにしても、かなり高位の闇魔法で、人の記憶を読み取るというものがあるが、それに近いことをしているようにしか思えない。

67番は、何か、『得体の知れない魔法』を使っているように見えた。



「これは、リトルシャドウ以上の脅威かもしれない」



ディークは、今の、最悪の状況下を突破する方法が見つかるのではないかと、ハルを見ながら考えていた。










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