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16章 ー 灯台 ー

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カレンは教官のクローディアから貰った地図を頼りに、西の岬にある灯台へ向かっていた。


三日月型の島であるこのクロムランドには、南西に灯台があり、そこに戦闘に使える魔法道具が保管されている。

カレンの目的は、灯台の管理人に、戦士の訓練校がリトルシャドウに襲われていることを伝え、保管されている魔法道具を一部譲り受けることだった。

『ハルがいれば簡単にたどり着けるのに』

カレンは地図で方向を確認しながら進んでいたが、深い森の奥に進むにつれ、まっすぐ進むことが困難になり、方向が本当に合っているのか分からなくなる。

できるだけ最短距離を通るつもりだったが、迷いそうになったので、海沿いへ移動して方向を確かめようと向きを変えた。

イベリスを残していきたことに多少の罪悪感はあったが、今の自分にできることはこれが限界だと彼女は思った。

訓練校がリトルシャドウに襲われたのは、カレンがハルを風魔法で吹き飛ばした後ほぼすぐのことだった。マリアの状況を報告するために食堂まで戻った時、すでにアゲパン達はシャドウに憑依された教官に魔法で拘束されていた。

擬態の魔法で身を隠していた、魔術教官のクローディアが、シャドウに見つかる前にカレンとイベリスへ声を掛けた。

クローディアは、ディークと同様に、魔術の基礎知識を教える教官だった。座学がメインだが、外で実践の授業を行うこともあった。年齢でいうと30代半ばで、落ち着いた聡明な女性だった。少し赤みがかった長い茶髪で、切れ長の目をしている。ここに赴任してきて10年は経つ。読書が好きで博識だったが、男性は苦手で未婚だった。

優しいため、ディークと違い、訓練生に人気のある静かな女性だ。

クローディアはマリアの状況を聞くと、暗い表情を浮かべた。助けにはいきたいが、訓練校の状況が最悪なためにどうにもならないということだ。

イベリスが、自分たちにも何かできないかとクローディアに問うと、カレンに地図を渡した。

「望みは薄いけど、ここの灯台へ行けば、あなた達だけでも身を隠すことができるわ」

「そんなことできません、私たちも戦います」
カレンはクローディアへ言ったが、彼女は伏し目がちに首を横に振った。

「ダメよ、できるだけ被害を抑えないといけない。私たちにできることは、人質になっているあの子たちを守ることよ。戦うよりも一人でも犠牲者を減らすことが先決だわ。あなた達を生かすことも私の使命なの。特にカレン、あなたは優秀なのだから、生きてフォースインゴットへ戻って欲しい。あなたが特別だと言いたいわけじゃないの、逃げる力があるのなら、逃げる選択をすることだって勇気よ。あなたが母国で成果を上げれば、クロムランドの未来も明るくなる。分かるわね」

「納得できません。私が優秀だって言うなら、ここでそれを証明します」

「そう、分かったわ。なら、灯台で、魔法道具を調達してきて頂戴。今ここで下手に戦うと、犠牲者を出してしまう。あなたは灯台の地下から、使えそうなアイテムを探し出して欲しい。管理人なら、何かいい方法を知っているかもしれないから」

「……わかりました」
カレンは反論したかったが、クローディアの必死に懇願するような目に逆らうことはできなかった。

「良い子よ。さぁ、あなたも、名前は?」

「イベリスです」

クローディアは驚いた表情になった。

「……イベリス。イベリス・マクエル。あなた、もしかしてブラックポンドから」

カレンはクローディアの動揺に事情の複雑さを理解した。彼女のことをなんと説明すればいいだろうか。

イベリスは続けた。
「私は、博士から実験をされて、気付いたら施設がボロボロになって外に出ました」

「そうなの、何か、身体に変化はない? 魔法が使えるようになったとか」

「えっと、身体を透明にしたり、死んだ動物を生き返らせることができます」

「……ネクロマンサー」

「は、はい、カレンもそう言ってました」

カレンと目を合わせるイベリス。

「そう、ネクロマンサーなのね。あなた、私に協力してくれる?」

「はい。わかりました」

カレンは少し不満があった。そんな場合ではないことは分かっているが、私よりもイベリスが必要だと言うのだろうか。

「イベリスちゃんが残るなら私も」

「いえ、あなたは灯台へ。ネクロマンサーの能力が役に立つの」

「そ、私もユニークスキルあるけど、要らないんだったらいいわ。灯台へ行ってあげる」

クローディアは少し申し訳なさそうな顔になる。だが、カレンの目をみながら微笑みかけた。

「あなたも必要に決まっているじゃない、大切だからこそ、安全なところにいて欲しいことだってあるのよ。愛しているわ、カレン」

クローディアの優しい表情にドキッとするカレン。

カレンは赤面する。


「わ、私もよ、愛してるわ。クローディア」


カレンは灯台のアイテムについて簡単に説明を聞くと、地図を握り締め、施設の窓口へ戻っていった。




◇ ◇ ◇




俺はカレンが近くまで来ていることを確認すると、ディーク達に気づかれないように移動する。


カレンは少し迷っているのか、同じ場所を行ったり来たりしている。訓練校の森と違って、この辺りは歩いたことがないからなのか、困っている様子だった。

だが、今の状況からすると幸運だった。

どんどん迷ってくれ。むしろ方向音痴であってくれたほうが、俺としては助かる。

まだ完全にとはいかないが、カレンのおかげでマリアを救うことができたのだ。まずはお礼を言わなくてはならない。しかし、その上で協力して貰わなくてはならないとなると、気が引ける。

そもそも、カレンを巻き込む必要があるのかさえ疑問だ。

彼女であれば、文句を言いながら手助けしてくれる。それを分かっているからこそ、逆に申し訳ない気持ちになる。

カレンは優等生であり、努力家であり、自分をしっかりと持っている。今まで努力してきたことの矜持きょうじもあるだろう。

だからこそ、敢えて危険から遠ざけておきたいという気にもなってしまう。

カレンは、どうしてこの島に送られてきたのだろう。

彼女の過去には、一体何があったのか? 俺のこの67番の過去も気になるが、カレンがどういう犯罪を犯してここへ入ったのか、そこには大いに興味があった。

何とかこの状況を切り抜け、無事に食卓を囲むことができるようになったら、それとなく聞いてみたいところだ。

もっとも、そう簡単に教えてくれるとは限らないのだが。

何か、彼女の力になれることがあればと、本気で思った。



徐々にカレンに近づいている。というか、カレンは立ち止まっていた。何か見つけたのだろうか?


少しゆっくり、草をかき分け、コネクト先のカレンを追う。



いた! カレンだ!


何やら紙を太陽に向けて目から近づけたり遠ざけたりしている。
アレはなんだろう? 地図だろうか? 魔導書だろうか? 何か埋めてあるモノを探しに来たのかもしれない。

周囲に魔物がいないかどうかを確認する。とはいっても、リトルシャドウ以外に魔物という魔物を知らないので、それがただの動物なのか魔物なのか判断はつかないのだが。

カレン自身が危険には敏感なので、そういう状況になったら紙を見てることはないだろう。

マリアが腕の中でゴソゴソ動いた。

そういえば、ずっとマリアをお姫様抱っこしているが、それほど重くなかった。華奢だからか、あまり気にならない。というよりも、火事場の馬鹿力というやつが続いている気もする。

音に気付いたのか、カレンがビクっとして瞬時にこちらを向いた。

しばらく俺を見つめながら固まるカレン。

俺が先に声を掛けた。
「よ、よッ! カレン! 何探してんだ」

「ハル! あなた間に合ったのね!」

カレンが近づいてくる。良かった、いつものカレンのようだ。

「ああ、ごめんな、さっきは取り乱して。俺も必死だったからさ、許してくれよな」

「当たり前よ! 事情は分からないけど、死にそうだったんでしょマリア」

「まぁ、そうなんだけどな。さすがにちょっと暴言だったかと思ってさ」

「いいわよ。私でもたぶん似たような感じになるわ。そんな非常事態だったら」

「そう言ってくれると助かるよ。実は、ちょうどカレンのスキルが必要な状況だったんだ。でも、これ以上、カレンに迷惑は――」

「ほんとに!? 私の力が必要なのね!!!」

カレンが食い気味に言ってくる。どうしたのだろう。

「……いや、できるなら、カレンには逃げて欲しいと思っているんだ。この戦いが終わるまで、安全なところに」

「ハルまでそういう事言うの!?」
なぜか怒るカレン。

「カレンを危険なことに巻き込みたくなくて」

「私はハルにとって必要じゃないの!?」

「必要だよ。何言ってるんだよ、さっきスキルが必要だって」

「そうでしょ? ハルに私は必要! 私がいて、ハルはやっと本気が出せるのよ」

「……いなくても本気は出せるけどな」

「勝つために私がいないとダメなんでしょ? だったら仕方ないわね」

「一緒に戦ってくれるのか?」

「そのためにここにいるんじゃない! 私を利用しなさい!」

どうもカレンはやる気なようだ。少々極端な気はするが、ここまで本人が言うなら協力して貰おう。

「そういえば、マリアは大丈夫なの?」

「一応、大丈夫だ。かなり精神的にやられてるけど、さっき俺と普通に会話できるくらいには回復していた。カレンは、探し物か?」

「探し物っていうか、南西にある灯台を目指してて。そこにリトルシャドウと戦うためのアイテムがあるそうよ」

俺は驚いた。

「ほんとか!? どういうアイテムなんだ?」

「『黒魔術の壺ブラックマジックポッド』って言って、クローディアの話だと、色んな闇魔法を弱体化できるアイテムらしくて、憑依を解くことができるみたいなの。ただ、完全に解くわけではなくて、憑依を掛けた相手がその呪文を維持できなくなって追い出されるって感じらしいわ」

なるほど、それは使えるかもしれないと俺は思った。

念のために、ロベルトへ聞いてみる。

「ロベルトさん、黒魔術の壺ブラックマジックポッドって、効くんですか?」

ロベルトから交信があった。

『効くよ。大いにね』

「やった! それ、持ってこれそうでしょうか?」

『ディーク次第だろうね。取りに行くのは危険な賭けかもしれない』

「そうか、そうだよな……」

カレンは、俺が急に変な独り言を言い出したので不審がった。

「え? なに? ハル何一人でぶつぶつ言ってるの?」

「交信しているんだ。協力者がいる」

「ハルって精神感応テレパシーも使えるの? アイテムなしで? 高等魔術よそれ? うそでしょ?」

「ああー、ちょっと待って、今ディークがヤバいんだ。その辺の説明はあとでするから」

「素でそんな高等魔術が使えるんだったらそりゃ訓練なんて簡単なはずだわ。私のこと偉そうな女だって思ってたんだ。どうせそうよ。私なんて大したことないわよ。イベリスちゃんみたいな凄いスキルもないし、私はどーせ」

「うるせーぞカレン! ちょっと待ってくれ、今、会話中だ」

カレンは小声になる。

「私なんて、成績ばっかりこだわって、実はそんな大した魔法使いじゃないし、魔力も微妙だし、剣も実際、そこまで大したこともないし、今は周りが子供だからいいけど、私くらいの大人なんて一杯いるし、どーせどーせ」

『そのアイテムに賭けてみる価値もあるが、正直、そこまで時間稼ぎができるかどうかは分からない』

「どうすればいいでしょう」

『僕としては、アイテムがあった方が助かる可能性は大幅に上がるが、時間が掛かると、ディークが死ぬ可能性も上がる。試す価値はあるが、推奨はできない。どうする? ハル少年』

アイテムは欲しいが、灯台へ向かう手段がない。

カレンの技で吹っ飛ばしてもらえば時間の短縮は可能だが、爆発音が凄すぎるためにリトルシャドウに気づかれる可能性が高い。

俺が囮になるのならともかく、マリアを抱えたカレンを狙われると厄介だ。

灯台から戻った時にすでに襲われていたなんてことになったら、俺は後悔で立ち直れないだろう。

他に案を考えるとしたら、カレンにそのまま灯台を目指してもらうということだが、そうなると、戻るまでディークが……。


「くっそ! どうすりゃいいんだ!!!」

カレンは心配そうにこちらを見ている。こんなにおどおどしたカレンの表情を見たのは初めてだ。

「……私に、何かできることある?」

気持ちは嬉しいが、どうするべきかまったく……。


すると、かかとに何か毛玉みたいなモノが当たる感触がした。

驚いて足元を見ると、なんと、ナッツだった。

「ナッツ!」

「ナッツ無事だったのね!」

マリアはチラッとナッツを見て驚いた表情だ。そういやマリアにとっては、アンデット・ナッツは初対面か。

そうだ。もし、可能なら。

「ロベルトさん、ナッツっていうリスのアンデットがいるんだが、主がいなくても言う事を聞かせることってできると思いますか?」

『え? アンデットかい? ネクロマンサーがいるのか?』

「いえ、ネクロマンサー本人は、ここにはいないんですが、眷属だけがここにおりまして。意思疎通ができないんですよ」

『そのリス? ナッツというのかい? その子に、何かしてもらうのかい?』

「代わりに、マジックポッドを貰ってきてもらうみたいなこと、できたりしませんか」

『なるほどね』

「でも、語り掛けることができないから、どうすればいいかと」

『語り掛ければいいじゃないか』

「へ? どういうことですか?」

『ネクロマンサーって、君の仲間なんだろう? 人間だよね』

「はい、人間です」

『だったら、言葉くらい通じるだろう』

どういうことだ? ナッツに言葉が通じる?

「リスですよ? リスに言葉が通じるわけないじゃないですか」

ロベルトは笑う。

「そうか、君はネクロマンサーの眷属に対して誤解しているようだね。ネクロマンサーは、動物や魔物を従者にした際に、強化した肉体や魔力と同時に言葉も与えるんだ。要するに、自分の分身をつくるんだ。だから、従者自身が言葉を話せなくても、こっちの言う言葉は全部分かっている。語彙に対する理解度は主人の知性に依存するがね」

「じゃあ、俺の言葉も通じるんですか?」

『通じるよ。君はそのナッツというアンデットとの信頼関係はどうなんだい?』

「わからない」

『そのネクロマンサーの人とは仲は良いかい?』

「イベリスとの仲が良いかどうかは、ちょっとわから――」

「仲いいでしょアンタら……、一緒に寝てたくせに」
カレンが横やりを入れる。なぜか怒気がこもっている。

「会話聞こえてたのか!?」

「アンタの声しか聞こえないわよ」

「そっか、びっくりした」

『なら、大丈夫だ』

「ナッツは移動が速い。頼みたいと思うんだけど、どうだろう。矢に括り付けて、途中まで飛ばしても良いと思いますか?」

ロベルトが笑った。

『鬼畜だな君は。だが、確かに有りかもしれない。アンデットは強化されている。プロテクトさえ掛けておけば問題はないだろう。あとは本人に説得してみ給え』

俺はナッツの目を見ながらしゃがんだ。

ナッツは小刻みに身体を動かしている。

「ナッツ、頼みがあるんだ」

ナッツはこちらを見ると首を縦に振った。なんとなく通じていそうだ。

「ナッツ、黒魔術の壺ブラックマジックポッドっていうアイテムを、西の岬にある灯台から貰ってきて欲しいんだ。分かるか? ブラックマジックポッドだ」

ナッツは首を縦に振る。

「それでだな、ナッツ、可能なら、俺のこの、弓矢に括り付けられてくれるか。強くは縛らないから、矢にしっかり捕まっていて欲しいんだが、強化されているお前なら、大丈夫だと思うんだ。どうだ?」

ナッツはその場で円を描くように2周回ってから、頷いた。

「良かった。お前は走るのがめちゃくちゃ早いから、矢で途中まで送って、そこから走ればけっこう早く着くと思うんだ。後は、しっぽに手紙を括り付けるから、それを灯台の管理をしている人に渡して欲しい、カレン!」

「なに? また私の力が必要?」

「あぁ、筆記の魔法ってあったりするか? なかったら、他の方法を考える」

「あるわよ。魔法の羽ペンでさらっと書いてあげるわ。でも紙は生成できないから、地図を使うしかないわね」

「ありがとう、さすがカレンだ」

カレンは嬉しそうにする。
「ま、これくらい余裕よ。私、日常で便利そうな魔法はだいたい覚えちゃったもん。ハルくらいの歳までにね!」

いちいち余計なことまで付け加えるカレン。いつもの調子だ。やっぱりカレンはこうでなくてはな。

「ありがとう。内容は、マジックポッドについて、それから、訓練校がリトルシャドウに襲われていること。急を要すること。このナッツがアンデットで、伝書鳩の役割をしていること。地図に、現在地の印。それから、できるだけ早くこっちへ帰すように書いてくれ。御礼はディークから、望むものを与えるとも付け加えておこう。書けたら、しっぽに結ぶ。先に、プロテクトをナッツに掛けてほしい」

「りょーかいっと。へぇー、ディークを使うなんて、考えるわね」

「それは保険だ。御礼がなくても協力してくれるかもしれないが、全員がそうとは限らないからな」

「私より年下とは思えない考え方だわ」

年上だからな。実際のところは。

「はい、書けたわよ、ハル」

「ありがとう」

抱えているマリアをカレンに預ける。マリアはカレンと目を合わせて微笑む。カレンはマリアをしばらく見つめると、我に返ったのか頬を染めて目をそらす。

マリアはカレンにギュッと抱きついた。カレンは満更でもなさそうだ。

意外と仲直りしそうな雰囲気だ。マリアが聖母なのか、カレンがちょろいだけなのか、どっちだろうか。

両方か。

手紙となった地図を受け取ると、ナッツの丸まったしっぽに括り付け、矢の中央にナッツ自身も括り付ける。

「大丈夫かナッツ? もう少し強く締めても痛くないか?」

ナッツは俺を見ると、コクコクと素早くうなずく。たしかに意思疎通ができている。本人公認だ。

そしてプロテクトで強化されたナッツ付き弓矢を構える。

ここから、マリアへのコネクトを強化する。

【エイミング】を使うためだ。

今は、マリアへ5本、カレンに1本、イベリスに1本、ディークに1本、ロベルトに1本、ナッツへ1本という状態だ。コネクトツリー(コネクターの刺し方)は、横に10本、縦に0本。
ドレイクや斧の戦士へのコネクトは外さざるを得ない。だが、マッピングはしてあるために、ある程度の地図はできている。

コネクト強化でエイミングをマリアの視点で使う。

すると、照準を合わせるための十字が目の前に現れる。右上に0.001という数値があり、左下に現在地と、今向けているエイムの対象との位置関係が表示されていた。マリアの視点なので数字が読めている。ラッキーだ。

「すげーな、マリア。こんなことになっていたんだ」

マリアが一瞬こちらを見たが、何のことかは分かっていないだろう。

近くの木に照準を合わせると、右上の数値が98.994まで上がった。

マッピングのおかげで、灯台の位置までエイムできるが、飛距離の関係で0.000になっている。

灯台の位置から順々に手前にずらしていくと、途中で数値が24.555まで上がった。この辺からは届く距離ということだ。

徐々に手前にずらしていくと、99.111まで上がった。

ここが限界値のようだ。左下の地図で確認すると、灯台まで49.2と出ている。さっき木までの距離が99.9になっていたので、これは目的対象との距離が100%中何パーセントなのかを示した数字なのだろう。


「よし、これなら完璧だ。ナッツ!」

ナッツが括り付けられたまま顔を少し俺に向けて反応する。

「今、現在地から目的地の灯台までで、飛ばせる限界の木に向けて矢を放つ。数値というと、49.2%のところだ。だいたい半分だ。ここから先は自力で向かってくれ。矢の刺さった先へまっすぐ進むと灯台だ」

ナッツは縦に何度も顔を振った。

「よし! ナッツ、お前が成功すれば、お前の主人も守られるかもしれない。任せたぞ!」

ナッツが矢の先を見る。大丈夫そうだ。

「いくぞナッツ!」


俺は矢を放った。




カレンに抱かれ、俺の様子を眺めるマリアがボソッとつぶやいた。


「ハル……、最低」





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