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22章 ー 突撃 ー

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クローディアは、土の術で人形を生成した。




3体。青・茶・赤の色が付き、それぞれ、獣、龍、鳥、の文様が刻まれている。

頭が大き目の人型をしていて、大人の手の平くらいの大きさだ。

イベリスは【パペッティア】を使い、土人形を操る。

これも一種のマリオネットだとイベリスは思った。

クローディアの作戦と、イベリスの作戦を合わせるとこうだ。

まず、一体はダカン教官の注意を引くために使い、もう一体はリトルシャドウを西の部屋、つまり、アゲパン達が捕まっている場所から離すために使う。ただ、人形をただ歩かせたところで簡単に扉を離れないだろうから、イベリスがリトルシャドウに直接近づく。

目的は憑依させるためだが、思惑通り憑依させることができるかどうかがイベリスは心配だった。

リトルシャドウは防御には特化しているが、攻撃魔法をほとんど持たない。ゆえに憑依し、その対象を魔術で強化して戦う。

ダカン教官で言えば、憑依した後で、教官の得意な技や術を強化し、普段肉体に負担が掛からないようにしているリミッターを外すようなイメージだ。

隠れた力を解放するため、本来なら痛みを伴うため出せない無茶な技も使う事ができる。

ダカンが普段のダカンであれば取り押さえることもできるかもしれないが、リトルシャドウによって強化されたダカンは抑制できない。

クローディアにとっては、結局のところ、ダカンをどう制御するかが課題だった。

リトルシャドウは敵の行動を抑制するために憑依するので、焦ればすぐ憑依しようとするはずだった。

イベリスが憑依されたところを見計らって、ダカンを押さえる。

クローディアが、どうダカンと戦うかが問題だった。

もし、イベリスが危険な状況になれば、彼女を連れて撤退することも考えなくてはならない。

逃げるとなると、正面を突っ切ったところの大きな扉の外、訓練校の裏庭だ。

裏庭は施設の入口と繋がっているので、そこから逃げれば何とかなるだろう。

もっとも、イベリスに憑依が効かないことを想定しての行動だ。

問題は、クローディア自身が憑依されないかどうかだった。

ダカンと戦うことはできるが、ダカンの身体を捨ててクローディアに憑依する可能性は充分にある。

細心の注意を払わなくてはならないだろう。

ダカンを生かすことができるかどうかはまだ分からない。だが、やるしかないとクローディアは思った。

「クローディア、私、そろそろ覚悟ができたから大丈夫」

イベリスはやる気だった。

やる気になってくれるのはありがたいが、無謀なことはして欲しくなかった。

もし、ハルという少年が迎えに来るのであれば、危機的状況からイベリスを逃がすことが先決だ。

勝つ見込みもイベリスだが、逃げ方を間違えれば死ぬのもイベリスだろう。

何とか注意しておかなくては。

「イベリス、一応、憑依が成功したら、その隙に私がダカン先生を捕える。ダカン先生さえ何とかなれば、リトルシャドウ一体だけなら私でも倒せるわ。問題はダカン先生の強さよ。正直、強化された先生に勝てる気はしないわ。あなたの『ネクロマンサー』の力で、訓練校の死霊たちを操ってほしいの」

「え? ここにアンデットがいるの?」

「ええ、生徒は誰も知らないけど、この訓練校は、墓地跡なの。ここで昔、たくさんの戦士たちが命を落としたわ。だから、知っている人間はここに足を踏み入れようとはしないのよ。牢獄と言われるのも、そういった負のエネルギーが集まっているからとも言えるわね」

イベリスは納得した。ブラックポンドから解放されて、この訓練校へ向かったのも、何か強い負の力を感じたからに他ならない。

自分がネクロマンサーだから、やはりそういった死霊たちの残存する魂に惹かれるのかもしれない。

「じゃあ、先にネクロマンサーの力で死霊を呼び出した方が早いんじゃないの?」

ゆっくり首を振るクローディア。

「ダメよ。ネクロマンサーの術は魔力が強すぎるの。もしそんな大きな力を感じたら、魔物であるリトルシャドウが気付かないわけはないわ。逆に【パペッティア】は人形を操ることに特化しているから、気配を感じ取られる心配はほとんどないわ。ネクロマンサーの力は、戦いになった時に初めて役に立つと思って」

イベリスは納得する。

「擬態の魔法も使えるけど、それで何とかならない?」

「擬態はリトルシャドウ相手だと気づかれるわ。魔力が強いもの。それに、あなたが擬態するより、土人形に行かせた方がもしもの時に逃げやすいわ。ところで、イベリスは、ネクロマンサーで、どれくらい死霊を呼び出せると思う?」

「えっと、規模によると思うんだけど、たぶん5体くらいなら呼び出せそう……、たぶん」

いまいち自信なく答えるイベリス。

そもそもイベリスはネクロマンサーの力を認識したのがつい先日のことだ。【パペッティア】と混同して考えていたために、自分でも死霊を本当に操れるのか見当がつかなかった。

ナッツを操ったのがほぼ初めてだったのだ。

ただ、そんなことをクローディアに告げるとこの作戦は中止になるだろう。

クローディアは、カレンと別れる時に、自分がネクロマンサーであることを知って、協力を申し出たのだ。

全てを告げないことは良くないが、イベリスにも意地があった。自分ならできるという自信もなくはなかった。

「クローディア、もし、だけど、ネクロマンサーが上手く発動できなかった時は、どうすればいい?」

「発動できない可能性があるなら中止よ」

やはりそうだ。焦って否定する。

「ううん、もしもの話よ。訓練校の死霊の魂が応じない可能性だって考えられるもの」

「そんなことあるの? ネクロマンサーって。私の知り合いの情報とちょっと違うわね」

「はい、ある、ん、です」

イベリスは、余計なことを言ってしまったように思った。だが、一応聞いておく必要は感じたのだ。

「そうなのね。もし上手く発動しなかったら、奥の扉から裏庭に出て退避よ。そのまま私のことは考えずに逃げて。これは命令よ」

「分かりました」

本当に死霊を操れるのか心配ではあったが、とにかくやるしかない。

問題は、死霊がちゃんと味方・・になってくれるのかということなのだが……。

「じゃあ、準備はいいわね。【パペッティア】は大丈夫?」

「大丈夫、です」

クローディアはイベリスを優しく抱きしめる。

イベリスはクローディアの胸に顔をうずめた。

「きっと神は私たちを守ってくださるわ」

イベリスは、クローディアの言葉よりも、胸の感触が柔らかいという印象を強く感じ、自分も大きくなればこれくらい成長してくれるのかなと、場違いな感想を持った。

胸から離れ、イベリスはまず、3体の人形、青、茶、赤のうち、一番目立ちにくい茶色、龍を動かした。

土人形は体操を始める。【パペッティア】成功だ。

まず、龍をダカンの近くへ移動させる。

土人形は、イベリスの動きを真似て移動するので、イベリスが小さい動作で気を付けて歩く動作をすると、その動きにシンクロして歩き始めた。

音は立てず、慎重にダカンへ近づく。

時々、ダカンが土人形の方向を見ようとするが、人形は大きくないので、机や椅子の裏に隠れればやり過ごせた。

イベリスが方向や軌道を考えながら進むので、実際にイベリス本人が移動しているようなものだ。

汗をかきながら、徐々にダカンへ近づいた。まずは、厨房へ移動させたいので、ダカンの近くにあるキッチンのところで小さい音を立て、充分に引き離したところで突入だ。

クローディアが厨房でダカンの動きを鈍らせ、同時にイベリスがリトルシャドウに憑依される。ここはそれぞれの技量が試される。

とにかく失敗したら裏庭へ走れということなので、ある意味失敗前提なのかもしれない。

おそらく、クローディアはイベリスが逃げ切るまでダカンを抑えようとするはずなので、イベリスが逃げ遅れればクローディアは殺される可能性もあった。

危険な賭けだ。イベリスは緊張した。

厨房に移動させた土人形はそのまま待機させ、今度は青、獣の土人形を動かし、西側の教室扉へ向かわせる。通常のリトルシャドウがいるところだ。

さっきと同様に、ダカンとリトルシャドウの視線を意識しつつ、ゆっくり移動させる。難易度はさっきよりも高い。厨房は東の端なので警戒心は薄いため、ダカンの視線も意識しやすいが、リトルシャドウの方は視線が分かりにくい上に、生徒の見張りがあるためかなり神経を使わないと見つかりやすい。

最終的には見つけてもらうのだが、近くまで寄せないとこちらの動きを知らせてしまうことになる。

慎重に慎重を重ね、動きはかなりローテンポだ。息をひそめ、集中する。

テーブルと椅子の間を器用に移動させながら向かう。

移動させるだけなら茶色の方が目立たないかと思ったが、一応、見つけやすい青の方がいいと思った。これなら2体とも茶色で良かったんじゃないかとイベリスは考え直した。しかし今更だ。

赤はさすがに目立つので使っていない。そもそも使う機会があるのだろうか?

なんとか扉の前まで移動させた。

クローディアが、隣で術の準備に取り掛かっている。

作戦としては、ダカンを捕えることは難しいが、足止めすることはできるので、その間にシャドウを憑依させ、ネクロマンサーの力で死霊と共にダカンを討つというシナリオだ。

ダカンを討つというと、ダカンが死んでしまうので、捕らえると言った方が良いかもしれない。ただ、ダカンを捕えるにはクローディア一人では厳しいということで、シャドウを憑依させただけでは勝機は薄いというわけだ。

イベリスの機転と、ネクロマンサーの力が勝敗を分ける鍵となる。

リトルシャドウの近くへ獣の土人形がたどり着いた。作戦の決行は可能だ。

クローディアの術はほぼ完成しているとのこと。

目線を合わせ、頷く。


では、作戦決行。


『突撃』だ。


イベリスは心臓が高鳴る。


イベリスは思った。

『ハル! 私を護って!』


食堂の、キッチンに立て掛けてある鍋を叩き、小さく音を立てる。


カンッ!


音の先を確認するダカン。

厨房だ。

西の扉前にいるリトルシャドウも移動しようとするが、ダカンが抑止するように手の平を向け、動きを止める。

もしここでシャドウも移動した場合は中止して退却する予定だったが、何とか単体で動いてくれそうだ。

厨房の中へ警戒しながら入るダカン。

土人形は死角となる机の下へ隠れるが、プルプルと震える。震えてるのは、イベリスが震えているからシンクロしているのだ。

音は立っていないのでなんとか隠れられてはいる。


ここまでは成功だ。

次は、青い人形を動かし、できるだけ厨房から離れさせる。逃げる動線も確保したいため、奥の裏庭からも遠ざける。

青い人形を手前で足踏みさせ、シャドウに音を気付かせる。

どこかから音がする。

シャドウの視線が厨房から外れ、音のする机の近くへ移動する。

扉からあまり離れていないので、そこまで警戒していないのだろう。

しかし読み通りだ。

その隙にクローディアが厨房へ移動する。

ダカンは音の確認をしているので、視線が音のする方へ動く。ちょうどクローディアと逆方向で再び土人形で音をさせる。

これでクローディアはダカンの背中を確認できた。

次は、青い人形の音に気を取られているシャドウの後ろを通り、イベリスが静かに移動する。

緊張感がものすごい。

鍵もないので、すぐさま教室を開けることはできない。それを分かりつつも、教室の扉を叩くのだ。

憑依を発動してくることに賭ける。


扉の近くまで来た。シャドウのコアが、音の場所を見つけ、土人形の存在を確認した。

その瞬間に、扉の前に移動する。

シャドウは何かに感づいたのか、こちらを見た。

コアはが素早く動き、机を吹っ飛ばした。


ダンッ! という大きな音がした。


音に気付いたダカンが、厨房から出ようと方向を変えた瞬間、クローディアは魔法を放った。


氷の鎖レグラスチェイン!!!」


クローディアの全身から冷気が上り、その冷気が網目状になったかと思うと、そのまま一筋の鎖の形に姿を変え、ダカンの身体に巻き付いた。

ダカンは筋肉質な体型をしており、術もその筋肉の力へ依存しているため、鎖をその肉体で断ち切ろうとする。

一陣の鎖が断ち切られ、更に追い打ちで、クローディアが連続で氷の鎖レグラスチェインを放った。

連続して巻き付く鎖に、さすがのダカンも身動きが取れないが、それでも、段階的に鎖が切られていく。

クローディアは思った。

不意打ちでの氷の鎖レグラスチェインは、A+の魔物も捕らえることができる。特に背後を狙った場合、断ち切られることなどほぼない。

大型ドラゴンを捕まえる際にも使われた万能な拘束魔法である。

だが、それが、B+の魔物であるリトルシャドウに断ち切られているのだ。

クローディアの実戦経験の中でも衝撃の出来事だった。

断ち切られることがあることは知っていたが、実際に断ち切られる現場を見たことがなかったためほとんど信じていなかった。

それが、ダカンという超有能な戦士に憑依したことによって可能になっている。

背筋が凍った。ありえない現場だ。

術者が自分一人というのも今までなかったが、憑依されたダカンに勝てる見込みは、この時点で5%もないだろうと確信した。

ダカンに連続でレグラスチェインを掛け、魔力が続く限り拘束する。

拘束するたびに断ち切られる鎖。


絶望的だった。


クローディアは、『足止め』だけで魔力が尽きることが今分かったので、イベリスのネクロマンサーの力に賭けるしかないと思った。

それが失敗したら、おそらく私は死ぬ。そうクローディアは思った。


一方、イベリスをシャドウが警戒しているのか、その場から動かない。



憑依してこない?



イベリスは焦る。今、クローディアはダカンを足止めすることに必死のはずだ。

ここで憑依されなければ、どうにもならない。

ただ、攻撃してくる様子もない。

何を考えているのだろう。


だが、イベリスはチャンスを感じた。今なら、『ネクロマンサー』が使える。

体中の神経を集中させ、死霊に問いかける。

『私はあなた達のあるじ、イベリス。今、あなた達は、私に尽くすしもべ。しゅを称えよ。そして敬え。助けよ。そうすることによって、アケロンの民は、あなた達の魂を救済するための舟を遣わすことだろう。さぁ、今こそ戦う時だ』


すると、時間が止まったように感じた。イベリスは疑問を持つ。なんだこれは? 今まで感じたことのない感覚だった。

急に辺りが暗くなったように感じた。と共に、老齢の男性のような声が聞こえる。渋く貫禄のある声だった。

イベリスは会話する。


『だれだ? 私を呼んだものは』


あなたは? 私に語り掛けているの?


『ほほう、ネクロマンサーか。珍しい。この場所にネクロマンサーが来るとは』

だれなの?

『カロンを呼んでくれるのだろう? だが、私はまだ動くつもりはなかったがね』

どういう意味ですか?

『私はここから出るつもりはないということだ』

あの、あなたの他に死霊はいないのですか? 困っているんです。

『死霊なんていくらでもいるだろう。ここは元戦場なのだからな』

でしたら、その方達を呼んでくれませんか? 今、大変なのです。友達が死んじゃうかもしれなくて。

『ほう、そうだったか。確かに、自らの死よりも、自分と親しい人間の死に恐怖を覚えるというのはよくあることだ。たとえ肉体を失っても、魂はいずれ救済される、私はそう信じてここに眠ってきた。自然に身を任せることも必要だと思うがね』

何を、仰っているんですか? 死霊はいないのですか?

『死霊はいるが、みな、君の言葉に従おうとしていないのだよ』

私の、ネクロマンサーとしての力が足りないということですね。

『それもあるだろう。しかし、ここに居る者は皆、救済を望んでいない』

どういうことですか?

『従っても無駄だと諦めているんだ。昔、戦場でそういう経験をしたのだろう』

そう、でしたか、でも、あなたは出てきてくれました。あなたは救済を望んでいるのですか?

『ああ、だが、時が来るのを待っている。救済は運命の女神によって授けられるのだからね』

運命の女神って、いったいどのような方なのでしょうか。

『聖女ノルン様だ』

ノルン……様?

『ああ、偉大なる我らの神だ』

あなたは、何者なんですか? 本当は死霊ではないのですか?

『死霊だとも』

助けてもらうことはできるでしょうか?

『君に何ができるのか、それ次第だ』

えっと、魂の一部を与える、とかですかね?

『私は死神ではなく死霊だ。魂の救済を望む者だ。では提案しよう』

どんな提案ですか?

『君に救済を望むことは酷なことだろう。ならば、ノルン様にお会いしたい』

ノルン様って、実在しているんですか?

『しているとも』

私が会うことができる人物なのですか?

『会えるとも』

どこにいるんでしょうか? その、聖女ノルン様は。

『都の名前なら分かる』

それを教えてください。必ず行って探しますので。

『聖ジグラット魔法都市だ』

聖ジグラット魔法都市……。わかりました。お約束します。

『よし、いいだろう。何を助けて欲しい』

私の目の前にいるリトルシャドウと、キッチンにいるリトルシャドウを倒してほしいんです。

『そうか。心得た。しかし少し眠り過ぎた。力がコントロールできないかもしれない。まぁ、お前さんを避けるくらいならできるだろう』

あの、西の教室に生徒がいっぱい捕まっているので、そこだけは気を付けてください。

『ほう、たしかに魂が集中している。あれだけの魂を一度に喰らうことができたら、さぞ美味だろうな』

や、やめてください。そんな怖いことを言うの。

『お前たちも鳥を食べることはあるだろう。死霊が魂を喰らって何が悪いというのだ』

それだと、あの、ノルン様に会わせません。

『そうか、強気だな。いいだろう、気に入った。すぐに終わらせてやろう』

あの、あなた、名前は、なんて言うんですか?


『名前? 固有の名前は持っていないが、種族としての呼び名はスカルドラゴンだ。生前は、古龍と呼ばれていた。好きに呼ぶがいい』


ふと、我に返ると、辺りが明るくなり、元の空間に戻ったことが分かった。シャドウが目の前にいる。

警戒して下がる。

さっきの会話は何だったんだろう。本当にスカルドラゴンと会話していたのか? というか会話していたのは人じゃなかったのか。


すると、シャドウが物理的に飛び掛かろうとしたのが分かった。


なんとか防衛しようと術を試みようとした瞬間。


シャドウが立っている下から黒い煙のような魔力が噴き出し、巨大な龍の口になり、一瞬でシャドウを飲み込んだ。


煙はシャドウを飲み込んだ後も残像のように天高く舞い上がり、渦を巻いて消えた。


スカルドラゴンだ! 本当にいたのだ。すさまじい魔力量だった。これなら勝てる。確信した。


イベリスはクローディアたちの状況を確認するために、厨房へ近づく。

そこには、氷の鎖を今にも断ち切りそうなダカンがいた。

クローディアはダカンへ必死で魔力を放っている。

見るからに、もう限界だった。


これは危機一髪だ。


スカルドラゴンが、シャドウを喰らってくれる。クローディアは助かる。ギリギリだ。


初めの予想とは大きく違った結果になったが、何とかどちらも欠けることなく戦いは終わりそうだった。


厨房の床に黒い煙が蔓延する。

だが、少し様子が変だ。



煙は床にあるが、大きすぎる。


というか、厨房全体が黒くなっている。


魔力はさっきよりも大きく、何倍ものレベルで感じた。

ダカンが、氷の鎖の最後の一本を断ち切った。


危ない。ダカンは、瀕死になって床に突っ伏しているクローディアに向かって殴りかかろうとした。


その瞬間。大きな煙が龍になり、さっきより3倍はあるような大きさの黒煙龍が口を開いた。



イベリスは嫌な予感がした。




「クローディア!!!!」




イベリスは叫んだが、一瞬クローディアがこちらを見ただけで、そのままドラゴンの黒煙に、殴りかかろうとしているダカンと共に飲まれた。


イベリスは全く視界の見えない状態の厨房を見つめ、呆然としてそこに立ち尽くした。



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