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21章 ー 錯綜 ー

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「黙っていては分かりません。何か気付いたことがあるなら仰ってください」



冷や汗をかき、そのまま硬直する俺にヨハンは声を掛ける。


しかし、俺としても何と言っていいか分からない。

【コネクター】でハッキリと、ヨハン・ヴァイセンベルクが魔族でリトルシャドウだと表示されている。

ここまで会話をしてきてヨハンがリトルシャドウだという疑いはほぼなかった。

だが、ロベルトに憑依したリトルシャドウは、彼の記憶を見ることができる。


とすれば、元のヨハン・ヴァイセンベルクの性格が分からない以上、このヨハンが本物のヨハンなのか判断が難しい。

しかし、騙しているとしても、何を狙っているのかが分からない。

だが、【アンヴェール】というスキル保持者であるカレンの目から、明確に嘘はないと判断されている。

【アンヴェール】保持者のカレンがスキルを使うことと、俺の【コネクター】を通して【アンヴェール】を行うのでは、精度が違うはずだ。

まずはカレンの【アンヴェール】の精度について問う必要がある。

明確にしておくべきことは3つ。

カレンの【アンヴェール】による嘘を見抜く精度。

俺の【コネクター】を通して見た『呼称 リトルシャドウ』の示す意味。

カレンの【アンヴェール】が正しく嘘を見抜いている場合、ヨハン自身に自覚があるのかどうか。


まずはヨハンに警戒されないように通常の会話を心がける。

「いや、中の様子が心配で、緊張しているんだ。ディークの偵察を待つとしても、そのディーク自身が身動きが取れなくなってしまったら意味がない、からな」

「なるほど、そうですね。ディークの帰りを待つとしても限度があります。本気で中の方を救うのでしたら、最悪、彼の指示を無視する勇気も必要かもしれません。彼と何か交信できるようなアイテムがあれば良かったのですが」

「そうだな、ディークの状況が分かればいいが、俺たちには中の状況を知るすべがない。しばらくは待とう。俺たちが全滅したらあとはないんだ」

「たしかに、我々が最後の砦となりそうですね。慎重に参りましょう」

カレンが明らかに俺へ疑いの目を向けている。

そう、カレンの言いたいことは分かっている。

なぜなら、俺には、【コネクター】で、ディークの状況もイベリスの状況も見えているからだ。

ディークはかなり慎重に校内の廊下を進んでいる。なかなか動かないが、見つかったら終わりということを自覚して動いているのだから、正解だ。

イベリスの視界は、これは多分、食堂奥の裏庭だろう。裏庭から、何か狙って行動しようとしている。一応無事だ。何をしようとしているかは分からないが、こちらも慎重に動いている。

突入するとしても、イベリスの行動の意図は知りたい。なんとかできないものか。

ちなみにスキルについてもう一度解説すると、【コネクター】単体では、周囲の状況を見ることはできるが、細部までは表示が荒くて確認できない。そこを、カレンの【アンヴェール】によって明確にしている。

正直、【アンヴェール】は相当役に立っている。カレンとのタッグで、かなり明確なサーチができるのだ。これによってマリアは助かった。

ディークと共有しながら進みたいところだったが、彼の場合は協力することが返ってあだになる可能性も考えられる。こちらはこちらで判断して動こうと思った。

カレンは、コネクターの詳細については知らないが、俺が内部を捜索できることは知っている。

今カレンが感じていることは、俺がなぜ、『ヨハンに嘘をついたのか』ということだろう。

当然だ。

ヨハンを信用しているなら、嘘をつく必要はない。

とはいえ、カレンの能力をプロテクトしている可能性もあるため、ヨハンに全てを晒すことは躊躇われる。

これは同時に、カレンの能力の完全性への疑いでもあるわけだから、これをどう質問していいか判断に困る。

とりあえず、聞いてみるしかない。

「カレン、聞きたいことがある」

「なに? 私も聞きたいことがあるんだけど、先に言っていいわよ」

「そうか? じゃあ、先に聞くが、カレンの能力の精度についてだ」

「私の【アンヴェール】のこと?」

「そうだ、今まで、その【アンヴェール】を何かでプロテクトされたことはあるか?」

「ないわよ」

「一度もか?」

「何よ、私を疑っているの?」

「疑ってはいない。思い当たるふしがあれば教えて欲しいんだ。今聞かれて、ないと思っても、自分の記憶を辿れば、何か上手くいかなかった過去を思い出せるかもしれないだろう」

「そうね、……うーん」

カレンは眉間にしわを寄せて考える。そう言えば、カレンの真面目に考えている顔は、本当に知的に見えて俺はけっこう好きなのだが、そんなことを口にすると変に調子に乗るので、言わないでおく。

カレンは思いついたように口にした。

「あ、失敗ってわけじゃないけど、本人が本音で喋っていると、このスキルは、嘘ではないと認識するの。だからその直後に、本人が忘れていたことを思い出したり、それを自覚すると、たいてい、自分の言ったことを撤回するじゃない? そうなると、その時点では嘘は言ってなかったことになるから、結果的に見抜けなかったことになったりするわね。でもま、これは私のスキルのせいじゃないからどうしようもないけどね」

「なるほど、精度に関して何かプロテクトが掛かったり、それを認識したりという経験はないってわけだ」

「一応ね。……でも確かに、もしプロテクトが掛かってて、私がそれを知ることができる機会って、ないかも。もし【アンヴェール】に欠陥があったとしても、私自身が自覚するためには、それを教えてくれる人が必要だから、何とも言えないわね」

カレンも少し自信がなくなってきている様子だ。

つまり、カレンのスキルが通っていると仮定した場合、ヨハンは、自覚なく自分がリトルシャドウになっているということになる。

憑依した状況で、リトルシャドウが操作できていない何かしらの理由があるとも考えられる。

ただ、さっきの【コネクター】と【アンヴェール】による情報によると、ヨハン自身が魔族でありデーモン亜種でありリトルシャドウという表示なのだ。

楽観的に見た場合、ヨハン自身はリトルシャドウなのだが、人を襲わないタイプの魔物、というか、魔族だということだ。ヨハンは魔族……。

そもそも『魔族』って何なんだ?

これはヨハンに聞いていいことなのか? 一応、リトルシャドウについて聞くくらいなら違和感はないはずだ。

俺が今警戒しておくべきことは、さっきの表示された情報についてヨハンに知らせないということだ。

カレンが俺に質問する。

「で、私の番なんだけど」

「え? 何かあったっけ」

「さっき先に言っていいって譲ってあげたでしょ質問、自分の質問したらそれで終わりだと思ったの?」

「あ、いや、ごめん」

「めっちゃムカってなったんだけど。ハルそういう自分のことが済んだら他はいいみたいなそういうところは直した方が良いと思うの。私もそういうところが昔はあったからあんまり人のことは言わないようにしてるんだけど、ハルみたいに自覚がないタイプの、特に男に対しては言っておかなきゃってずっと前から思ってたのよ。ぶっちゃけ他にも言いたいことあるんだけど」

「あーあー、もう分かったから早く質問してくれ。直す、直すから」

ヨハンが小さく笑った。

「あなた達はどこまで愚かなんですか。非常に興味深い会話ですが、今は控えていただきたいですね」

「は、はい」

カレンがしゅんとなる。ヨハンの方がカレンより年下な印象だが、カレンの優等生らしい性格が関係しているのか、こういうヨハンのような人間の正しい指摘にはとことん弱いんだろうと思った。

しかし、どうしてもヨハンが敵には見えない。どういうことなのだろう?

「で、カレン、俺に何の質問があったんだ」

カレンは一瞬考え、近づいてくると、俺に耳打ちした。

「ハル、なんで中が分からないって言ったの? ほんとは分かるんじゃないの?」

カレンは俺の嘘が分かる。ヨハンに言った、内部の状況が分からないということが嘘だと気づいているのだ。

ただ、理由について気になったのだろう。

彼女からすれば、俺がヨハンに協力していないように映ったはずだ。

協力していないというのは、同時に信用していないということだ。

ヨハンに対して俺が何かしらの疑いを持っている。

それが分かった以上、こうして耳打ちせざるを得ないというわけだ。

しかし、言うべきなのかどうか。

「ちょっと気になることがあって。そんな大したことじゃないんだけど、保険みたいなもんだ」

「まぁ、ハルがそうしたいなら、それでも良いんだけど」

一応納得したようだ。というか納得しようと努力している感じだが。

「なぁヨハン。ヨハンはリトルシャドウについて、どう思っているんだ?」

ヨハンが心なしか不機嫌そうにしていたが、質問には普通に応える。

「そう、ですね。リトルシャドウは、【吸収スクイズ】対象としては非常に有用な資源なのですよ」

「有用? どういう意味なんだ?」

「まぁ、そうですね、簡単に申し上げますと、僕のユニークスキルは、闇属性の魔力を体の内部に充填することができるというものですので、やはりスクイズ対象は、より魔力を持った魔物が良いんですよ」

「それで、リトルシャドウが良いって思ったんだな」

「ええ、リトルシャドウは、昔からよくスクイズしていました。かなり小さい頃から、強力なモンスターを吸収できたので、何とか生き延びることもできました」

「生き延びる? 出身はジグラット魔法都市って言ってたけど、物騒なところなのか?」

「いえ、ジグラットは世界三大都市と呼ばれるくらい栄えていますので、治安は良い方です。一度危険にさらされたことがあったので。話すと長いですが、僕には姉が一人おりまして、僕自身はとても慕っていたつもりでしたが、両親に対して、彼女があまりにも乱暴だったために、一度、外れの村へ預けられたのです。姉が12歳で、僕が8歳でした。僕は姉が乱暴であったことについては、それほど気にしておりませんでしたので、預けられたのが不思議だったのです」

「ヨハンは、品性のないお姉さんに対して何も思わなかったってことか」

「姉は、正直な人でしたからね。僕は『品性』を『仮面』と表現しておりました。僕は仮面によって利益を得ている両親を見て学んでおりましたので、そういうものだと思って仮面をかぶることを良しとしていたのです」

「受け入れていたんだな」

「そうですね。僕は正直な人間ではありませんでしたので、姉の方が素晴らしく映りました。僕への暴言も、納得いく内容でしたので」

「姉から暴言を受けていたのか、それでよく姉を嫌わなかったな」

「ええ、姉は正直であることの代償も同時に受けていましたからね。姉が、僕を信用できないのは仕方がないことです。姉は乱暴でしたが、非常に優秀でもありましたので、努力への報酬があまりにも少ないことへの怒りだったのかもしれません。姉は10歳ですでに闇魔法の高等魔術師ランクで、父のA+というランクを超え、Sランク入りを果たしました。大いに素晴らしいことです。しかし、それでも両親は厳しかったですからね。魔術師のランクと品性は関係がありませんから」

「すごい実力者だったんだな。そういったって、全てが報われるわけじゃないさ」

「はい。姉はそんな自分が嫌いだったのでしょうね。求めているレベルが高すぎたのか。当時魔術師Dランクだった僕を見下していました」

「それは、ダメだろ、成長速度は人によってまちまちだしな」

「そうですね。そう思います。しかし、僕のランクが高ければ、姉は家を出ていくことはなかったのではないかと思うんです」

「それは、どういうことなんだ? ヨハンのランクが低いことと、姉さんが家出することは関係なくないか?」

「あるんですよ。僕は田舎へ預けられた姉に会いに行った時、姉はお爺さんの護衛で、山の鉱石を採りに行っていました。魔法の研究で使える、魔鉱石です。お爺さんも高等魔術師でしたので、魔鉱石は喉から手が出るほど欲しいアイテムでした。山の遺跡跡から発掘できるのですが、そこにはダーク・スプリガンという鉱石を守護する妖精がいたのです。鉱石を持ち帰りたくば、スプリガンを倒せと、村の周辺では言われていました。ですが、スプリガンに襲われずとも、持ち帰った者が何人も出ていたのです。なので、お爺さんも、持ち帰れると思ったのでしょう」

「お姉さんが護衛になったのはどういう経緯だったんだ」

「お爺さんは、臆病なので、欲しいと思っても、ダーク・スプリガンを前にしては足もすくむでしょう。魔物としても、非常に危険なランクですからね。Aランクか、もしくはA+か、数も少ないので、報告数もそれほどありませんでしたので、ランクを下げるのも難しかったでしょう。僕は村のスプリガンの噂を知っていましたので、家に誰もいなかったのを見て察しました。一応、周辺にいた方々に、どこへ行ったかを尋ねましたが、案の定、姉がお爺さんを焚きつけて山を登ったということが分かりました」

「たしかにSランクの魔術師が付いてるなら倒せると思うよな。お姉さんが、自分から護衛になるって言ったのか?」

「後から聞きはしましたが、姉は何も言いませんでした。お爺さんは、自分のせいだと言ってましたが、たぶん、姉がそう言ったのでしょう」

「結局、スプリガンから逃げてきたってことでいいのか?」

「いえ、スプリガンと戦っている姉とお爺さんを発見して、僕が吸収スクイズを使ったのです」

「お姉さんは、負けそうだったのか?」

「ええ、間一髪と言ったところですね。姉は高等魔術師ですが、実戦経験を積んでいるわけではありません。筆記試験と、ハイレベルな魔術試験を全てパスしたというだけです。ランクは魔術の実力を示すものですが、戦いに慣れているかどうかとは無関係です。ですので、横から僕がスプリガンの魔力を吸収して倒しました」

「ヨハンは、当時、ランクDなんだろ? 魔物のランクがA+とかなのに、よく倒せたな」

「それは、ダーク・スプリガンの特性によるものです。ダーク・スプリガンの強さは、魔力に依存したものですので、魔力によって巨大化し、魔力によって攻撃します。つまり、魔力さえ吸収してしまえば、小柄な妖精でしかありません。宝を奪われて怒っている妖精です。そうなれば、倒すのも追い払うのも容易ですからね」

「とどめは刺さなかったってことか?」

「ええ、僕が止めました」

「お姉さんは殺そうとしたのか」

「実際に襲われたわけですからね」

「よく思いとどまったな」

「姉は初めから殺したくはなかったんですよ。でも、戦いは生きるか死ぬか。慣れていないこともあったのか、そうしなくてはいけないと思ったのでしょう。姉の気持ちは充分に分かっていました。僕はそれを察して、剣を突き刺そうとする姉の震える腕を掴んだんです」

「そうか。じゃあ、スプリガンは、そのまま逃げていったんだな」

「はい。姉としても、スプリガンから宝を奪ったということについて、思うところはあったのでしょうね。仕方ないことですが、多くの現存するレアメタルというのは得てして妖精によって守られていたりするものです。だからこそ手に入れる価値があるのですが」

「でもそうか、姉は、自分がバカにしていたDランクの弟に助けられてしまったということになるのか」

「ええまぁ、そういうことですね。実戦の恐ろしさを身をもって知らされ、しかも僕のように、魔術師ランクの低い身内に助けられる。……彼女の自尊心はボロボロです。姉にとっては、実力者であることが、自分が仮面を被らない理由の一つだったわけですからね。まさに、アイデンティティの崩壊です。その後は何日もふさぎ込んでいましたね」

「厳しいが、自業自得とも言える展開だなそりゃ」

「しばらくは田舎でお爺さんと共に過ごしましたが、結局、両親と僕が迎えに行っても、戻ってくることはありませんでした。それから3年経ち、15歳になった時、置き手紙を残して消えてしまいました。あれから1年経ちますが、今どこにいるのか分かりません」

ということはヨハンは12歳か。若いな。それでここまで達観しているとは。

「姉にとっては、いい経験になったんじゃないのか」

「そう願うばかりですよ。……しかし遅いですねディークは。中で全滅しているのではありませんか?」

「大丈夫だ。……あ、いや、さすがに……それは、ない、んじゃないか?」

「そうですか。ずいぶん自信があるようですね」

「なんとなくだよ、ディークもイベリスも、結構強いからな」

危ない。大丈夫って言うと、理由を説明しなくてはならなくなる。コネクトしている限り、ディークは状況を見ている。ダカン教官が一人食堂で周辺を見ているだけで、他にそれらしい人間はいなかった。

クローディアがどこに行ったのかは気になるが、イベリスは無事だ。今のところ大丈夫だろう。

カレンがさっきのヨハンの話に口を挟んだ。

「ヨハンって、お姉さんのことほんとに好きだったの?」

ヨハンは意外そうに答える。

「ええ、好きでしたよ。というより今も好きですが」

カレンはじっとヨハンの目を見つめる。カレンに嘘は通じない。スキル的にだが。

「嘘ではないようね。てか、ヨハンって、本当に魔術師なの?」

「魔術師かどうかを問うことに意味はあるのですか?」

「ううん。なんていうか、魔術師じゃないのかなってちょっと思っちゃって」

「魔術師の定義も曖昧ですからね。またいずれ話しましょう」

カレンの発言が引っ掛かり、もう一度ヨハンのコネクト情報を確認する。


おお! なるほど、そういうことなのか。


魔術師ランクの表示がないか調べると。以下の様に出ていた。


【魔術師ランク 無 測定対象外】


これは、……どういうことなんだろうか? 魔族だからか? 魔族については、カレンは知っているのか?


「魔族って」

俺がそう言った瞬間、ヨハンがビクっとして俺を見た。

「魔族が、どうかしましたか?」

迂闊だった。さっきの話で、ヨハンの人間味を感じ取れたため、何となく疑いが取れたような気がしていた。


まだだ。


まだ早かった。ヨハンが『魔族』に反応している。

しかも、【測定対象外】って?

よく考えたら意味が分からない。測定対象外というのは、もしかして人間ではないということではないのか?

ランクが無いのはまだ分かるとして、対象外になっているというのはちょっと変だろう。

やはり魔族が関係しているのか?

「ヨハンは、魔族については詳しいのか?」

とにかく誤魔化すしかない。

「魔族については、それほど研究しておりませんので、まだ」

ヨハンの言葉を受けてカレンが話す。

「ヨハンって、もしかして人間じゃなかったりする?」

なんて確信を突く質問をするんだカレンは。俺は心臓の音が聞こえそうになった。

「その質問の意図は何ですか?」

「意図って言われても、そのままなんだけど」

沈黙する二人。

ヨハンは正しい。カレンは嘘を見抜く。ならば、嘘を言わなければ良い。

質問に対し答えず、質問で返し、その上で曖昧な返答をする。

【アンヴェール】攻略としては悪くない戦法だが、しかし。

「カレンさん、あなたがその質問をする意味を聞きたいのです」

「もしかして人間じゃないのかもって思っただけよ。答えられないの?」

「僕のこの姿を見て、何も思いませんか?」

「人間にしか見えないから、聞いているんじゃない。明らかにモンスターだったら聞かないわよ。逆に、人間かどうかを聞くくらいだわ」

「あなたが欲しい答えは、僕が人間ですということか、人間ではないという答えなのか、どちらなんですか?」

「そんなの、どっちでもいいわよ。なに? 私に合わせて答える気?」

カレンの激しい追撃だ。これはヨハンも、自分が魔族だということを告白せざるを得ないな。

俺としても、ヨハンが魔族だと自白した上で、色んな質問をしたい。

「合わせるなんてことはしませんよ。あなたが何を意図して聞いているのかが知りたかったのですが、これでは平行線です。いいでしょう」

「魔族って、人間じゃないんでしょ? ヨハンが魔族だったら、魔術師じゃないってのが分かるのよ。魔術師は人間に対して与える称号だもん」

ヨハンは溜息をつく。ウンザリしているようだが、俺も興味がある。

さぁ、答えてくれ、僕は魔族ですと。


ヨハンは深呼吸する。これは答えるつもりだ。





「僕は、人間です」




なに!?





「……嘘はついてないようね」

カレンは呟く。




マジかよ!!!!!



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