見習いサキュバス学院の転入生【R18】

悠々天使

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1章 欲望の宴

第8話 寮の自室で Aパート

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 ちゆとクレープ屋でバナナクレープを買い、束の間のデート気分を味わった僕は、ちゆと別れ、バスで寮へ向かっていた。



 今日一日で色んな事があり過ぎて大変だった。

 結局まともに授業を受けたのは一時間目の数学くらいだ。それも、よもぎにずっと大事なところを握られていたので、実質ほとんど聞けていない。

 明日もよもぎが隣の席ということを考えると、まともに授業が受けられるのか心配だった。

 もうクラスの子に、僕がえっちなことをしているところを見られているので、誤魔化しきれない。

 変態だと思われてるんだろうなと思うと、少し気恥ずかしい。

 見習いサキュバスたちの学校なので、みんな性欲は強いはずなのだが、中にはあやかのように、一般入試で入っている子もいるようだ。

 普通の子がいる。というのは、これからの生活を送る上で安心すると同時に心配でもある。

 サキュバスの香りなのか、教室は甘酸っぱい香りで満たされていて、何も考えなくとも勃起してきてしまう。

 あやかのような子が他にもいて、何か不審に思われてしまうと、僕もこの先どうなるか分からない。ちゆくらい分かりやすく好意を示してくれると心配はいらないのだが、そういう子ばかりでもないだろう。

 不用意な射精も控えなくてはならない。学院長にも言われているのだ。

 今日はちゆに中出ししてしまった。

 もし彼女がサキュバスだったとしても、妊娠しないとは限らないのだ。もし子どもができれば、僕はちゆと結婚することになる。ちゆが望まなくても、そのつもりだ。

 そういう意味では、サキュバスの価値観を知っておく必要がある。

 僕はまだ、サキュバスの生態を知らない。今分かるのは、性欲が強いということだけだ。

 彼女たちのことをもっと学ぶ必要がある。

 ちゆのことを考えると、まだ中出しはしない方が良かったような気がした。

 ちゆが、サキュバスについての知識が不十分だとしたら、知識を入れれば入れるほど、人間の僕への対応も変わってくるだろう。

 もし、妊娠のことまで考えずにちゆが僕に中へ出すことを許可したのだとしたら、不用意なのは僕の方なのだ。

 明日、ちゆに結婚の話をしてみよう。喜んでくれるのかな?


 ……むしろ笑われそうだけど。


 ちゆも寮生なのだが、方向が違うので、別のバスに乗って帰っていった。


 寮に着くと、僕は自分の部屋へ向かった。


 部屋に向かう途中で、壁にもたれかかっているゆかと会った。偶然? 待っていたのだろうか?


「え? ゆかちゃん?」


「セイシくん?」

 ゆかは前髪ぱっつんのボブヘアをふわっと揺らしながら、切れ長の目で僕を見た。

 やっぱり美少女だなと思った。

「どうしたの? こんなところで」

「うん、えっと、ちょっと通りすがって」

 ほんとかな?

「そうなんだ。ちょうど、僕の部屋がそこなんだ。偶然だね」

「……そうだね、偶然だね」

 耳に髪を掛け、俯くゆか。

 僕は部屋の鍵を開け、中に入る。

 カバンを廊下に置き、ドアを閉めた。

 少し間をおいて、もう一度ドアを開ける。ゆかがいる。

 何をしているんだろう? 純粋に気になった。自分を待っていたと考えるのは自意識過剰な気もする。

 しかし、全然動いていない。

 一応聞いてみる。

「ゆかちゃん、だれか、待ってるの?」

 目が合う。おどおどしているゆか。

「ご、ごめんなさい、なんでもないです」

 階段へ急ごうとしてたので、上る前に声を掛けた。

「ゆかちゃん!」

「は、はい!」

 振り向くゆか。

「今、時間ある?」

「……少しだけ」

「じゃあ、コーヒーでも飲んでく?」

「セイシくんは、時間あるの?」

「一応、っていうか、何にもないよ、だから誘ってるんだけど」

「ごご、ごめんなさい! 変なこと聞いちゃって!」

 慌てふためくゆか。この様子だと、本当に僕を待っていた可能性もある。よもぎを待っていた可能性もあるが。

 ゆかはたぶん、本心を話さないタイプなのだろうと思った。

「じゃあ、えっと、入るってことで良いのかな?」

「セイシくんさえ、嫌じゃなかったら、……いいよ」

 ややこしい子だなと思った。見た目や雰囲気は可愛いのだが。

「う、うん、嫌じゃない……」

「じゃあ、ほんの少しだけ、お邪魔します」

 ゆかを部屋に招き入れる。ゆかは、寮の廊下の周りをキョロキョロしながら、スッと入ってきた。周りへの警戒が凄い。だれかにバレるとまずいことでもあるのだろうか。

 ゆかを入れて、ドアを閉める。

「ちょっと引っ越しの段ボールが残ってるけど、気にしないでね」

「ここが、男の子の部屋」

「ごめん、散らかってて」

「え? ぜんぜんだよ。何にもないって思ったくらい」

「そっか。ベッドに座ってて、今コーヒー入れるから。ってか、コーヒー飲める?」

「飲める、けど、べつのがいいかも」

「そう? じゃあ、紅茶にする? レモンティーとミルクティーがあるけど」

「じゃあ、ミルクティーが良い」

「わかった。ミルクティーね、適当に待ってて」

 電気ポットに水を入れる。なんとなく自分もミルクティーにしようと思った。

 ゆかは僕の部屋を見まわしている。寮の間取りはほぼ同じなので、珍しくはないはずだが、気になるのだろうか。

 引っ越したばかりなので、特に変なものはない。寮の6畳ワンルーム。ドアを開けて、キッチンが右手、左手にトイレ。風呂は共同なのでその分だけ少し広い。グレーのラグマットに、ベッドと同じくらいの高さの木製テーブルが置いてあり、窓際にPCデスクとオフィスチェア。あとは、服を入れるための収納ボックスが二つあるだけだ。

「セイシくんの香りがする」

「そう? 変なニオイだったらごめんね」

「ううん、いい匂い。胸が熱くなる感じ」

「そっか、なら良かった」

 僕がゆかの香りでドキドキするように、ゆかも僕の香りでドキドキしているのだろうか? だとしたら嬉しいのだが。

「ゆかちゃんって、ずっとよもぎちゃんと仲良いの?」

「え? うん。よもぎちゃんは、小さいときに一緒に遊んでて、学校が別々になってから遊んでなかったんだけど、ここに入学して一緒になったの」

「そうなんだ。それであんなに仲が良かったんだね」

 ゆかは不思議そうな顔で僕を見る。

「よもぎちゃんと仲いいの何で知ってるの? よもぎちゃんが話したのかもしれないけど、そもそも私たちが一緒にいるとこ見てたっけ?」

 ヤバい、お風呂で仲良さそうにしてたから言ったのだが、そのことは言ってなかった。

「あ、えっと、今日バス降りた時に、よもぎちゃんと一緒に楽しそうに話してたから、ちょっとね」

「そうなんだ。セイシくんって、勘が良いっていうか、目ざといって言うか、よく見てるよね。私のこともすぐ分かったし」

 基本的に誤解なのだが、よく見てるという意味では間違ってはいない。しかし言い方からすると褒めてはないだろう。

「あはは、興味あることはすぐ覚えちゃうんだよね」

「やっぱり興味あるんだ」

 あ、これは直接ゆかに興味があると言っているようなものなのか。

「セイシくんって、よもぎちゃんのこと好きだよねー、まー、可愛いもんね、よもぎちゃん」

 アレ? 思ったのと違う反応だ。

「えっと、なんでそう思ったの?」

「見れば分かるよ。セイシくんよもぎちゃんにベタベタだったじゃん。授業中ずっと引っ付いてるし、秒も離れなかったし、何か、こっそりもぞもぞえっちなことしてたでしょ? 見てたんだからね! セイシくんって分かりやすいから、よもぎちゃんの手とか腕とか触って、顔真っ赤でデレデレしててさ! いくら私が鈍感でも分かるよあんなの」

 そう見えていたのか。確かにそう言われると引っ付いてデレデレしていた。

 だが、男なら、よもぎみたいな可愛い女の子に、あれだけ接近されて手コキされたら誰でもそうなるだろう。

 よもぎが特別って言う意味だと少々誤解はある。もちろん充分に恋愛対象ではあるのだが。

「そうかな? 恥ずかしかったけど、よもぎちゃんが特別ってわけではないよ」

「嘘じゃん! 絶対好きじゃん! 私にはぜんぶ分かるんだからね! 顔も可愛いし、手足が綺麗でモデルさんみたいだし、よもぎちゃん、女の子から何人告白されたか知ってる?」

 いきなり怒り出すゆか。

「知りません」

「60人だよ! この一年で!」

 毎週1人には告白されているな。休みがあるから、2、3人くらいかな。たしかにモテモテだ。

「モテモテじゃん」

「すごいでしょ?」

 得意げだ。よもぎちゃんのこと好きなのはゆかの方なんじゃないかと思った。

「実際に付き合った人はいるのかい?」

「いるよ、一応。2人くらいだけど」

「そーなんだ、女の子同士も付き合うんだねー」

 ミルクティーを二つ持って隣に座る。ゆかが場所を開けるために少し横にズレる。

「そうなの。まー、そんなかわいい子じゃなかったけどね」

 わざわざ非難するようなことを。付き合った子に嫉妬してたのかな。女の子にはよくあるって聞いたことあるけど、親友もある意味恋人に近い存在になるのかもしれない。ミルクティーのマグカップをゆかに渡した。両手で受け取り、飲む彼女。止める僕。

「ちょ、熱いから気を付けて」

「あっつ!」

 身体をびくんっとさせて口から離すゆか。遅かったか。

「渡した瞬間に飲むと思わないからさ」

「熱かったー。あ、今あたしのことバカにしたでしょ」

「してないよ」

「したもん」

「ほら、話しながらだと判断力鈍るって言うじゃん」

「それ私が鈍感だって言いたいの?」

「なんでだよ、そういうこともあるっていう話だよ」

「話してなくても飲んでたと思うから、その説は意味ないよ」

「……それは自虐のつもり?」

「ちがう、セイシくんの言い訳が見苦しいって言いたいの」

「バカにはしてないよ、本当に」

「セイシくんってすぐ嘘つきそうだもん」

「心外だなー、嘘をつかないとは言わないけどさ。とりあえず、ゆかちゃんがよもぎちゃんのこと好きなのは分かったよ」

「よもぎちゃんのこと好きなのはセイシくんの方でしょ。認めなさいよ。足で弄られて喜んでたくせに」

 ここでその話を持ち出されるとつらい。足はどっちかというとよもぎの趣味って感じだけどな。とはいえ、そんなこと言っても説得力持たせられる自信はない。実際、アレのせいで足フェチになりかけてるし。逆に目覚めさせられたというか。

「それは見なかったことにしてよ、なんか盛り上がっちゃったんだよ」

「おちんちんが?」

 ミルクティーを吹き出しそうになってむせた。冷静な口調で、なんて返しをするんだこの子は。

「どうしてそんなに確認したがるのさ」

「前によもぎちゃんが付き合った子もそんな感じだったから」

 なるほど、少し合点がいった。僕がよもぎちゃんを取ってしまう気がしているのだろうか?

「でもさ、よもぎちゃんに告白して付き合った子なんだろ? 初めから好きバレしてるでしょ、それだったら」

「一人はね。だけど、もう一人の子は、よもぎちゃんが自分で告白したのよ」

「そうなの? 凄いね、あのよもぎちゃんを惚れさせたんだ」

「ほんと、あんな女の何が良いんだか」

 けっこう本気で嫉妬しているようだ。

「よもぎちゃんの方がデレデレだったの?」

「うん。かなり大人しい子。だけど、掴みどころがなくてミステリアスな感じっていうのかな。初めは仲いい友達って話してたんだけど、徐々によもぎちゃんが好きになっていったって感じ」

「ガチ恋じゃん。魅力的な子なんだろうね」

 ムッとするゆか。

「ぜんぜん魅力的じゃないし!」

「ごめんごめん。ぜんぜん可愛くない子だもんね」

「可愛くないって言うのは、言い過ぎじゃないかな。けっこうレベル高いと思うよ」

 あなたがさっき言ったんですが! そんな可愛くないって!!

「……そうなんだ。じゃあ、そこそこのレベルなんだね」

「うん」

「でも結局続かなかったんだ」

「そうねー、よもぎちゃんって言いたいことがあったら何でもハッキリ言っちゃうタイプで、物怖じしないって言うのかな。正義感が強いの。それに世話焼きなところあるでしょ? 素が友達思いなのよね。相談したらどんな些細な内容でも、すごい真剣に乗ってくれるし、絶対裏切らないっていう安心感もあるの。その子にとっては、そういうところが面倒くさかったのかもね。少し共感する部分もないこともないかな」

 どこがどう面倒くさいのか、ゆかの説明では全く見えてこなかった。最高の友達としか思えない。アレかな、ダークな部分がないってのが、逆に面倒くさいってことだろうか。

 ゆかの方が性格的にはかなり面倒くさいタイプだとは思うが、そこは触れないでおこう。

「へー、よもぎちゃんって世話焼きなんだな。確かに、良い人過ぎると、逆に気を遣っちゃったりするもんね」

 無理やり共感してみる。

「だよねー、頼りになり過ぎるのもなんかね。よもぎちゃんって、安心できるから、私も言いたいこと全部言っちゃうんだけど、後で後悔しないって言うか。何か言い過ぎて、謝っても。なにが? って感じで流してくれるし。そういう部分が、人によっては心地良すぎて困るっていうか。私はそういうところもよもぎちゃんの長所だと思ってるけどね。私はね!」

 心地良過ぎて困るってなんだ? 話を聞いているだけでよもぎのことを本気で好きになりそうになる。なるほどな。

 ゆかが、自分だけは良さを知っているって感じで話しているが、たぶん告白している60人の女の子も思ってると思うぞ。

「そっかー、じゃあ、その子とは合わなかったんだね、珍しいね、よもぎちゃんにしては」

「そうなのよね。よもぎちゃんが付き合う相手としては、レベルが低すぎたのよ。私くらいだよ、よもぎちゃんのレベルに合う人は」

 さりげなく自己評価の高さを垣間見せるゆか。

 もしかしてゆかって、性格が悪いのだろうか。天然って感じでもなさそうだし。

「ゆかちゃん……くらい、だよね、レベルが合うのは」

「でしょー! どうしてよもぎちゃんって、私に告白してこないのかな。遠慮してるのかな」

「さ、さぁ……、何でなのかなー、やっぱりさ、レベルの高い女の子って、高嶺の花っていうじゃない。それだよ、たぶん」

 かなり適当に共感したつもりだったが、どストライクの返答だったらしく、ゆかは喜んだ。

「やっぱりー!? セイシくんもそう思うんだ。あたしも薄々そんな気がしてたのよねー。私と友達になった時も、よもぎちゃんの方から声掛けてきたし、セイシくんも、私の写真見てオーラあるって言ってたし、そういう感じなのかも」

 よもぎちゃんから声を掛けてきたんだ。どういう状況だったんだろう?

「ゆかちゃん、よもぎちゃんに声掛けられたのって、何してて声掛けられたの?」

「えっとねー。小学生の低学年の時かな。私、その時、クラスの子全員嫌いだったから、休み時間に砂場で磁石使って砂鉄取ってたの。そしたら、ゆかちゃん、一人なの? 私たちと一緒に縄跳びしよーって言ってきたのよ」

 めちゃくちゃ良い子じゃないかよもぎちゃん! 仲間に入れてくれようとしたんだ。

 てか何で砂鉄取ってるんだ? トンネル掘るとかじゃないんだ! 砂鉄なんだ!

「そうなんだ、良かったじゃんみんなと縄跳びできて」

「縄跳びなんてするわけないじゃん。そんな危ない遊び」

「断ったの!!?」

「当たり前でしょ、砂鉄取ってるんだよ? 邪魔じゃん」

「そ、そうか、そうだよね、砂鉄に集中してるもんね、ごめんごめん。よもぎちゃんは、どんな反応だったの?」

「すっごい悲しそうな顔でとぼとぼ歩いて戻っていったよ」

「可哀相に」

 ほんっとに可哀相だな、よもぎ。まさか一人で砂鉄取ってる方が面白いとは思わなかったんだろうな。中には普通に研究体質なヤツもいるんだろうけど、それでもレアな部類だろう。

「その時は、私もよもぎちゃんのこと何にも知らなかったから興味なかったのよね」

「それで、どうやって仲良くなったの?」

「次の日に、よもぎちゃんが、私も砂鉄取る!って言って磁石持ってきたの」

 予想外過ぎる。コミュ力お化けかよ、よもぎちゃん!

「そうなんだ! 良かったじゃん、砂鉄仲間ができて」

「うん。二倍で砂鉄が集まったからね」

 ただの砂鉄収集要員っ!!!?

「仲良くなったきっかけは、その砂鉄集めだったんだ」

「んんー、その時はあんまり仲良くならなかったよ。私、厳しかったから」

「砂鉄取るのに厳しいとかあるんだ」

「よもぎちゃんってお喋りだから、砂鉄が集まる度にいちいち報告してくるのよ。あ! ゆかちゃん、黒いの付いてる! これ、砂鉄かなー! って。見れば分かるでしょそんなの、黙って集めなさいよ! って怒ったら、しゅんってなってた」

 そりゃしゅんってなるだろうな。仲良くなる難易度が高いタイプの子だなゆかは。てかなんでそんな厳しいのか理解が追い付かない。

「取り終わって、どうしたの? 仲良くはなれたのかい?」

「次の日に、砂鉄スライムを作って一緒に遊んだよ。その時は凄い楽しかったな。でも、よもぎちゃん、何か、私に話しかけるたびに、話しかけて良い? って聞いてきてちょっとウザかったかも。遊んでるんだから、話しかけて良いに決まってるじゃんね」

 それはゆかが悪い。

「そうだったんだ。今の話聞いて、よもぎちゃんのこと好きになったよ」

「そう? なんで? あ、よもぎちゃんって身長高くて足綺麗だもんね。あれ? 足の話してたっけあたし」

「いや、内面の話ね。内面」

「今の話のどこに内面があったのか分からないけど、よもぎちゃんが私の魅力に気付いたのは分かったでしょ?」

「確かに、ある意味ではゆかの魅力に気付いた唯一の子が、よもぎちゃんだったのかもね」

「そうなのよね。私って昔からレベル高かったもん。……あ、だから処女なのかも」

 レベル高過ぎだよ。カンストしてるよ。そりゃ処女だよ。Iカップなのに。

「そもそもゆかって、よもぎちゃんに告白されたら付き合うのかい?」

 そもそもの質問をする。話を聞く限り、よもぎがゆかに告白することはなさそうだが、外野としては、返事は気になるところだ。

「うーん、どうかな。付き合ってあげてもいいけど、あたしって意外と面倒くさいところもあるからね」

 意外ではないけどね。そのままだけどね。

「どの辺が面倒くさいの?」

「軽く嫉妬とか?」

「そうなんだ。嫉妬とかするんだねゆか」

「そうなの、意外でしょ? 何にも考えてないように見えるってよく言われるんだけどね」

 何も考えていないように見えるというのは、僕も思った。だけど、話を聞くと印象が変わる。

「そっか、じゃあ、ゆかと付き合ったら浮気は絶対ダメってわけだね」

「そうそう、ダメだよ! 私だけを見てね! セイシくん!」

「なんで僕に言うんだよ、よもぎちゃんでしょ?」

「あ、……そう、だったね。忘れてた」

「忘れるとかある? でも、よもぎちゃんモテるからなぁ」

「だねー、付き合ったら大変そうだよねー」

「じゃあ、振るんだ」

「振っちゃうかもねー、よもぎちゃんもカッコいいけど、私、男の子のほうが好きだもん」

 ゆかはノーマルなんだな。でもよもぎちゃんが告白してくれると嬉しいのか。女の親友ってややこしいな。

 それにしても、ゆかは本当に胸が大きい。柔らかそうだ。

 そういや、バスの中で抱きしめた時も、胸がむにゅっとして気持ちよかった。ドキドキして、どうにかなるんじゃないかと思った。

 ややこしい性格はしているが、女の子としての魅力は凄く感じる。

 処女とはいえ、サキュバスの卵なのだ。これから男を迎え入れて、徐々に変化していくのかもしれない。

 だけど、サキュバスの処女なんて、なんだか凄くステータスを感じてしまう。

 ギャップというか、矛盾を感じるからなのだろう。

 女の子はみんな初めは処女なのだし、当たり前だ。だけど、それが、サキュバスの、となると少し疑問符が浮かぶ。処女のサキュバスってなんだ? と違和感を覚えるからだ。

 そう考えると、妙に気持ちが高ぶってしまう。

「そっか。そういや、ゆかって、見習いサキュバスなんでしょ? そっちの方はどうなの?」

「そっち? なに? そっちって」

「えっと、……えっちなことに興味があるのかどうかなんだけど」

「あるよ。なんで?」

「なんでって、……いや、何でもない。もうそろそろ部屋に戻りなよ、少しって言ってたでしょ」

 なんだか、自分の性欲が露出した気分になって、急に気持ちが萎えてしまった。

 とりあえず、今日は帰ってもらおう。

「え? え? 早くない? 忙しいの?」

「いいからいいから」

 僕はゆかにカバンを持たせると、玄関へ背中を押す。

「あの、セイシくん、私まだミルクティーぜんぶ飲んでないよ」

「ミルクティーとか何でもいいでしょ。自販機に売ってるよ。じゃーね、また明日」

「ちょっと! セイシくん!」

 ゆかを追い出すと、ドアを閉めて鍵を掛けた。

「セイシくん! もうちょっと話そうよ! ねぇ!」

 しばらくドアの前にいる様子だったが、しばらくして諦めたのか、足音が聞こえ、遠ざかっていく。

 行ったみたいだ。

 僕は脱力し、ドアを目の前にして座り込んだ。


「……なにを期待しているんだ、僕は」


 学院長の言葉を思い出し、ちゆへの中出しのことも思い出し、自己嫌悪になった。


 色んな事を思い出すが、整理が追い付かない。

 サキュバスって、結局まだ何のことか、よく分かっていない。

 教えて欲しかった。学院長が、僕に隠している真実。たぶん、何か重要なことがこの学院には隠されているはずだ。

 僕はそれを探らなくてはならないと思った。

 ベッドに戻る僕。少しだけ飲んだ、ゆかのミルクティー。


 ゆかの飲みかけたマグカップを手に取る。

 この辺りかな、と、口を付けたと思われる位置を見た。少し湿って、泡が付いている。

 ゆかの香りを少し感じる。いい匂いだ。

「捨てるのは、もったいないよな……」

 独り言を口にする。

 マグカップへ口を付けようとした瞬間。


 ピンポーン!


 とインターホンのベルが鳴った。

 誰だろう? 学校から宅配かな?

 そう思って、ドアを開ける。


「はーい」


「セイシくん!」

 ゆかだった。帰ってなかったのか。いや、でも足音聞こえたし。


「ごめん、また今度」

 閉めようとすると、別の女性の声が聞こえて止まった。

「セイシ!」

 よもぎが現れた。

「よもぎ! どうしたの? 用事?」

「用事ってか、私じゃなくてゆかなんだけど」

「ゆかちゃんとは、さっき話したから」

「それは知ってる」

「じゃあ何で」

「いやさ、ゆかがセイシともっとお喋りしたいって、泣きそうな感じで言ってたから」

「泣いてないでしょ!! 何言ってんの!」

「悪い悪い、だから泣きそうな、って言ったじゃん。そんな怒んなよ」

 よもぎにキレるゆか。仲いいな本当。

「とにかくセイシ、いったん中に入れてくれよ」

「分かった」

 よもぎとゆかを玄関に招き入れる。

「で、何の話?」

 よもぎに聞くと、よもぎは天井を見て、悩む素振りをすると、僕とゆかを交互に見る。

「セイシ、ゆかの話を聞いてやってくれよ」

「さっき話したよ」

「あぁ、それは知ってるけど、ゆかさ、セイシとさ、他のことも話したいみたいなんだよ」

「他のこと?」

 ゆかを見る。

 ゆかは下を向いてもじもじしている。さっきと雰囲気が違う。よもぎがいるからかな。

「とりあえず、上がってよ」

 よもぎもいるし、ちょっと学院についての情報とか聞いてみようかなと思った。

 歩いてきて、再びベッドに座るゆか。

 よもぎはなぜかそわそわしている。僕の部屋が珍しいのだろうか。


 そう思ったら、よもぎが予想外のことを言った。


「あ、じゃあ、私は約束があるから、戻るわ。セイシ、ゆかのこと頼む。また、夜になったら迎えに来るから」

「え? 迎えに来るってどういうこと? あ、ちょっと待ってよもぎ!」

 よもぎはそのまま玄関を出て行ってしまった。

 これはよもぎに嵌められた、といった感じだ。

 玄関から振り返ると、さっきのミルクティーを飲もうとしているゆかが目に入った。


「ぬるい。電子レンジであっためてよ」


 ゆかがマグカップを僕に突き付ける。少し怒り気味だ。そりゃそうだろうな。追い出したもんな。


「あ、うん、わかった」


 マグカップを受け取ると、電子レンジに入れた。



「セイシくん、さっき、あたしのおっぱい見てたよね」


 バレてたのか。でも、一応誤魔化しておく。


「えっと、見てたかな? 覚えてないな」


「男の子ってほんと、おっぱい好きだよね」


 たいていの男はそうだよね。


「そ、そうかな。色んな人がいるよね」


「セイシくんも、おっぱい好きなの?」


「そりゃあ、人並みにはね。みんなおっぱいを吸って大きくなるんだし。そこは男女問わず人類皆共通だ」

「へー、人並みって?」

「人並みは人並みだよ。ふつうに好きって感じ」

「ふーん。ちょっと座ってよ」

「ミルクティー、もうすぐ温まるよ」

「ミルクティーとかどうでもいいから」

 どうでもいいのか。

「わかった。座るよ」

 ゆかの左隣に座る僕。何となく気まずい気持ちになる。やっぱり強引過ぎたかな。

 すると、ゆかが僕の右腕に抱きついてきた。


 ゆかの大きな胸がむにゅっとした。


「ゆか、当たってるよ」


「何が?」


「おっぱい」


「気になるの? 人並みなんでしょ?」


「そうそう、だから、気になるよ」

 何を言ってるんだろう僕は。

 更に胸を押し付けてくるゆか。

 僕の股間が大きくなってくる。これはまずいかもしれないと思った。

「セイシくん、コレなに?」

 大きくなったところを見つめながら問いかける。


「えっと、なんだろうね。しわかな?」


「しわ? へー、じゃあ、伸ばしてあげるね」


「あぅっ」


 変な声が出た。ゆかが右手で僕のテントの先端を握った。


「あれれ? もしかして、しわじゃなくって、おちんちん? セイシくん、しわって言ったよね? もしかして、私におちんちん握らせたかったの?」


 ゆかの柔らかい手の感触。抗えない気持ちよさだった。

 よもぎとは別の意味で強引さを感じるゆか。

 僕は、ここでゆかにイかされるわけにはいかないと思い、出さないと心の中で宣言した。


 その宣言に意味があるかどうかはともかく。



 電子レンジから、ピー、ピー、と終わりの音が鳴る。




 ミルクティーが温まった。



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