見習いサキュバス学院の転入生【R18】

悠々天使

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2章 粛清と祭

第25話 予想外のターゲット ※R18シーン無し

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『白い羽根なら、高確率で天使だろう』


 携帯から聞こえるケルビンの声はいたって冷静だった。


 ちゆはゆかの身体を心配して気遣っている。

「大丈夫?ゆかさん、痛いとこない?」

「だいじょうぶ、なんか肩重いけど、筋肉痛かな」

「ゆかさん、羽根生えてるの。後ろ、見てみて」

「え?え?何コレ、え?、うそ、白くない?白いよねこの羽根」

 僕がケルビンと話してる間に、ゆかが自分の身体の異変に気付きパニックになっている。

「うん、ちゆが見た感じだと、白いと思う」

「ね、ね、白いよね。白い羽根の悪魔っているの?」

「ちゆわかんない」

「もしかして、アルビノの悪魔とか、そう言うこと?」

「なに?アルビノって」

「色素が少ないと、白くなるのよ、髪の毛とか、肌とか」

「あ!ちゆわかった!アルビノだ!」

「ちゆちゃん落ち着いて、それ今私が教えたやつ」

「あ、そうだった、ごめんちゆ、分かんなくなっちゃって」

「分かんなくなり過ぎでしょ」

 パニック度では、むしろちゆの方が上かもしれない。ある意味で、いつも通りにも見えるので、ややこしいが。

 僕はケルビンに聞いてみる。

「色素が薄い悪魔っているんですか?」

『いるとも』

「羽根も白くなったりします?」

『悪魔の羽根の場合は、薄い紫色や桃色になることはあるが、真っ白になることはまず無いだろうね。ただ、羽根は生えていないが白い皮膚の悪魔は存在する。だが、それは単なる種族としての白であって、羽根に関しては今のところは聞いたことがない』

「……そうですか」

「ゆかさん、レモネード飲む?」
 ちゆが、あたふたしながらゆかに聞く。

「……うーん。ホットミルクがいいな」

「いいよ!温めてくる」

 バタバタしながら冷蔵庫に向かうちゆ。

 そういやキッチンは可愛く装飾されて、完全にちゆのテリトリーになりつつある。

『しかし、まさかサキュバスではなく、天使が羽化するとはね。驚きだ。こんなケースは私が知る限りでは初めてだ。キミは本当に数奇な運命に見舞われているね。この学院へ転入して数日だというのに、これだけ立て続けに環境の変化があったら身が持たないんじゃないかい』

「僕のことは心配いりません。確かに変化に関しては認めますが、ほとんどの事は、自分で蒔いた種だと思ってるので」

『それはダブルミーニングを狙っているのかな?』

「え?あ、タネって、そう言う……違います違います、もう、やめてくださいよ、ケルビンさんが言うと下品に聞こえます」

『ハッハッハ、これは失敬した。緊急事態には変わりないからね。場にそぐわないジョークだった』

「ほんとですよ。びっくりしました」

『それで、キミは、その白い羽根の少女のことを、どうしたいと思っている?』

「もし、本当に彼女が天使なら、僕はケルビンさん達に保護してもらいたいと思っています」

『ほほぉ、私に預けたい?』

「可能ですか?」

『もちろん可能だ。それがキミの要望であれば、こちらで預かろう』

「安心しました」

『差し支えなければ、理由を伺っても構わないかい?黙秘権もある。無理にとは言わないが』

「そうですね。やはり、巻き込みたくないと言うか、サキュバスだったならともかく、天使なら、天使といた方が良いと思いますし」

『なるほど。だが、彼女が天使だという確証はまだ無いのではないかい?』

「いや、さっき、天使だってケルビンさんが言って」

『言ってない。白い羽根なら、高確率で天使だろうと言っただけだ』

「そんな、無責任な」

『確信を得たいと思う事は誰にでもあることだ。キミの気持ちは分かる。だが、自分の解釈で他人に責任を取らせようというのは、大人ではなく、子供の考え方だ。キミは私達と契約を結ぶ関係にある。キミはキミの責任だけで判断をしなくてはならない。ならば、納得できるかはともかく、状況を理解して承認することにつとめる必要があるだろう。キミ自身、自分の言っている意味、本当は分かっているはずだ。違うかい?』

「そう、……ですね。すいません、ワガママを言いました」

『キミに関しては、公募ではなくスカウトで契約しているから、私としてもキミの要望を出来るだけ通したいと思っている。余計な心配は無用だ。天使だったとしても、特殊な悪魔だったとしても、出来得る限り、彼女は責任を持って保護するよ』

「はい、助かります」

『良いだろう。だが、キミは一つ、重大なことを忘れている』

「え?何ですか?忘れてることなんてないですよ」 





『本人への確認だ』




「セイシくん、私、保護してなんて頼んでないんだけど」

 隣でゆかが凄い剣幕でキレてきた。


『頑張って交渉してくれたまえ』


「ゆか、羽根見ただろ?それ、どう見ても天使の羽根じゃないか!?」

「それがどうしたってのよ!」


 チーン! 

 電子レンジの音が鳴る。

「わぁ!牛乳にまくができてる!!」
 ちゆが嬉しそうにしている。

「ゆかさーん、膜できてるよ、おいしいよ!ちゆも食べたいけど、特別に残しといてあげるね」

 ホットミルクを机の上に置いて、ちゆは途中で放っておいたスマホの落ち物ゲームを再開する。

 ゆかの剣幕には無関心だ。

「ありがとうちゆちゃん」
 一瞬顔が優しくなるが、すぐキレ顔に戻って僕の目を見る。

 恐い。

「セイシくん!私言ったよね、私達のために言うべきことを隠さないでって」

「それは、ゆか達が安全ならってことで、さすがに天使の羽根があるゆかに協力して貰うのは危険だよ」

「良いじゃん!むしろ天使がデーモンハントに協力するのって至極真っ当なことだと思うんだけど。保護する対象は、むしろちゆちゃんの方でしょ?」

「わーっ!ハイスコアきちゃーーー!」

 ちゆは気にせずハイスコアで喜んでいる。すぐに机の上のマグカップを手に取ってレモネードを飲もうとした。

「あーん……あれ?もうぜんぶ飲んじゃった、もっかい入れよ」

 レモネードをまた作りに電気ポットの方へ、てくてくと向かった。

「理屈はそうだけど、僕らはサキュバスや見習いサキュバスを相手にするんだ。もし彼女たちが、天使の仕業しわざだって気付いて攻撃してきたとしたら、狙われるのはゆかなんだぞ。僕が失敗して、羽化したサキュバスに恨まれでもしたらどうなる?天使のゆかが先に狙われると思わないか?」

「思わない!!」

「なんで!」

「それはセイシくんが負けたのが悪い」

「そういう話じゃなくてさ」

「なに?自信ないの?」

「まだ、何とも」

「あーあ、私の好きなセイシくんはどこ行ったんだろーなー」

 ゆかが呆れるような態度で僕を責めてくる。

 僕も言いたいことはあるが、ゆかが保護されたくないという本心は伝わった。

 性格を考えても、意思は変わらなさそうだ。

 なら、ここは折れるしかない。

 無理矢理ケルビンの方へ突き出したところで、素直に従わない可能性もある。

 それに、本当は、僕もゆかと一緒に居たいのだ。

「分かったよ!保護はとりあえず保留ってことにする」

「やったー!」

 普通に喜ぶゆか。急に元に戻った感じだ。

「一応、保留だからね、僕が危ないと思ったらすぐ保護して貰うから」

「いいよそれで。特別に許す!」

 許されなくてはいけないのか?

「やっぱり、天使のことが怖いの?」

「ん?違うよ、私は、守ってくれる人の側に居たいだけ」

「それ、僕のこと言ってる?」

「他に誰がいるの?」

「ケルビンさんのところに行けば強い天使がいっぱいいるじゃん」

「でも、その天使って、私のこと好きじゃないでしょ?」

「でもさ、強い方がいいでしょ」

「嫌よ、なんでそんな強いだけの人に守ってもらわないといけないのよ」

「どういうことだよ」

「私は!私のことが好きで好きで堪らない人に守って貰いたいの!そんな事も分かんないの?よもぎちゃんでもギリギリ分かってくれるよ?ねー、ちゆちゃん」

 ちゆが熱いお湯でレモネードの素をカップに溶かしながら反応する。

「うん?そーだね。ちゆも分かるよ。何かつまんなそうだもんね。ここの方が良いよ。お兄ちゃんレモネード入れてあげるね。ちゆのレモネードちょっと濃く作るのがコツなんだ。ふふふっ、おいしーよ」

「あ、あぁ、ありがとう」

 またよもぎが巻き込まれている。

 でも、言って貰えて納得した。

 そっか、僕は、ゆかが好きで好きで堪らないから、ケルビンに預けようとしたのだ。

 それなら、ゆかが怒るのも理解できる。

 ゆかが言いたいことは、たぶんこうだ。

 私のことがそんなに好きなら、私と一緒に居なさいよ、それで、あなたの力で、私を守りなさいよ。

 と、こういうことだ。

 ちゆに対して、守るって言っといて、ゆかに対しては他人に預けようなんて、ある意味では愛情を疑う行為だ。

 でも、実際は愛情はある。

 それは間違いない。僕は怖気付いていた。しかも、それをゆかは見抜いている。

 信じてくれるゆか、当たり前のように一緒にいてくれるちゆ。


 僕が守らないで誰が守るって言うんだ。



「ゆか!」



「なに?セイシくん」

 ゆかが振り向き、ちゆもチラッとこちらを見た。



「僕が、ゆかを守りゅあっ!」


 一歩踏み出した瞬間、なにか踏んで、すっ転んだ。

「セイシくん!」「お兄ちゃんっ!」

 ゆかとちゆが慌てる。

「痛ったー」

 ちょっと尻を打ったが、特に何もなかった。

 転んだ原因を見ると、悪魔測定器だった。

 心配で電源を付けたが、何とか問題なく起動した。


『ハッハッハ!』


 僕の右ポケットから笑い声がした。

 そうだ、携帯を切ってなかった。

 ケルビンだ。

『大事な場面で盛大にすっ転んだようだな。心配なら、医療班の天使を派遣するから、必要なら声を掛けてくれたまえ』

 僕は立ち上がると、携帯をポケットから出す。

「すいません、情けないところを見せて、じゃなくて、聞かせてしまいました」

『いやはや実に面白い話だった。観客として楽しませてもらったよ、結論としては、現在のところ保護は必要ないということで良かったかな?』

「はい、今のところは、この話は保留ということでお願いします」

『では、そろそろ本題に移ろう。君たちのターゲットになる見習いサキュバスの子についてだ』

 僕は背筋に冷や汗をかいた。

 これからが本番だ。本当に大丈夫だろうか。

「お願いします」

『今日、キミが化学準備室で話した子から、どうやってサキュバス化を抑制するかは聞いたね』

「はい、大丈夫です」

『キミには、まず、ターゲットを口説くところから始めて欲しいと思っている』

「口説く?説明して理解してもらうだけではダメなんですか?」

『ダメだ』

「何故ですか?自分のサキュバス化を止めたいと、皆んな本心では思っているんじゃ」

『思っていない。むしろ、見習いサキュバスはサキュバス化を望んでいる』

「そんなことありますか?自ら悪魔になりたいなんて」

『人は、持たざる者より持てる者へなりたがるものだ。自分にサキュバスとしての可能性があると感じたなら、それをみすみす手放そうとはしない。それが魅力的であればあるほど、ね』

「マイナスにしかならないことを、どうしてしたがるんです?」

『キミは、趣味嗜好品に関して、魅力を感じたことはないのかい?』

「そりゃ、ありますよ、お酒とか、タバコとか、そういうことですよね」

『サキュバスになる事によって失う物も多いが、得る物も多い。キミだって、鋼の肉体、高い知能を身に付けられるなら、多少のデメリットは受け入れられるだろう?例えば、寿命が20年縮まるとかね』

「それは、そうかもしれませんが」

『サキュバスになるに当たって、彼女たちは、大したデメリットを感じないんだよ。本能のままに、人間の男を搾精して命を奪ってしまうことや、感情的にコントロールが効かなくなってしまうことなんてね。得られる能力と引き換えに考えれば微々たるものなんだよ』

「そうなんですか?でも、人間社会を生きる上では、重要なことなのに」

『だからこそ、悪魔なのさ。私達が殲滅を掲げる理由を、今一度、考えてみて貰いたい』

「……そうですか、分かりました。では、説得すると言うのは無しで」

『不満そうだね、では、過去の一例を紹介しておこう。実際、説得して抑制を試みた例もある。ただ、コレに関しては悲惨な結末に終わった』

「試したことはあったんですね」

『むろんだ。キミの意見は昔からあった。実際に採用した結果がいくつも資料として残っている』

「なぜ、失敗したんですか?」

『まず前提として、見習いサキュバスというのは、サキュバスの要素を強く持っているから見習いサキュバスなのだよ。すでにサキュバスとして長く君臨している先輩から声が掛かれば、簡単になびいてしまう。これは理解できるね』

「何となくですが」

『何となくで結構だ。当然、サキュバスも知性はある。演技だってできるんだよ』

「ってことは、サキュバス化を止められたと思っていたら、騙されていたってことですか?」

『結局はそういうことだ。我々天使も、誠心誠意、説得を行った。社会正義、社会的意義、世界平和。まさに理想郷を作るための演説だ。実際に、天使界の権威が自ら現場に立ったこともある』

「凄いですね。壮大と言うかなんというか」

『だが、もちろん結果は全て失敗だ。説得は、出来る限り少数単位で行っていたのだが、結局は、彼女達に感動したフリをされて、ふたを開けてみれば全員サキュバス化していた。気付く者は居なかったそうだ。悪魔の羽根と尻尾は巧妙に隠され、みな話せば、天使様万歳と従う。成績優秀、完璧な礼節。その年は、天使側は勝利を確信していた』

「でも、全員が……」

『そうだ、全員、1人残らず、サキュバスになっていた。最も最悪の年だったというわけだ』

「完全に天使側が騙されていたということですね」

『その通りだ。私達も甘かった。後から調査すれば、おかしな点は多々見つかったからな。天使側が慢心した結果起こった地獄というわけだ。それによって当時の構成員は揃って失脚し、サブで小さく活動していた我々、デーモンハンターが後任として指揮を取る事になったと言う流れだ』

「そう、でしたか、理想が敗北したんですね」

『私はまだ敗北したとは思っていないがね、戦い方の問題だ。大事なのは集団ではない。個人なのだよ』

「難しい話ですね」

『そうでもないさ。キミがなぜターゲットを口説くのか、それは、そうしてみることで、いずれ真実が見えてくる。そして実際、この方法が最も高い実績を生んでいる。我々を信用したまえ』

「……そこまで言うんでしたら、信用することにします」

『いいだろう。では、ターゲットのプロフィールを与える。今、最もサキュバス化に近い生徒だ。悪魔測定器は、すでに赤になっている。つまり手遅れだ。しかし、指標のうち、一つがまだ黄色だ。希望はある。そこをグリーンにする事によって、羽化を抑制し、期間をかけて徐々に人間化させていきたい。対策はどうするにせよ、最優先で対応する必要がある。キミはまず、彼女を誘って、喫茶店で悩みを聞いてほしい。引き出せる情報は全てだ。すでに赤の対象だ。ダメ元で頑張ってみてくれ』

「初めから高難易度なんですね」

『そう感じるかも知れないが、実際のところ、放置できる黄色の対象を最初のターゲットにするのは得策ではない。失敗のリスクが高いうちは、赤を対象にさせて貰う。それに、緊急度が高い生徒からいかなくてはいずれにせよサキュバスになってしまう。そうなると、レオミュールの担当に投げるしかないからな』

 レオミュール、つまり、アカリの所属ってことか?

 サキュバスを捕まえるとアカリは言っていた。つまり、僕がミスしたらアカリが対応する可能性があるということか。

「分かりました。何とか、やってみます」

『ああ、気負い過ぎず、慎重にことを運んでくれ』

「あの、プロフィールは?」

『先ほどデータを送っておいた。その端末で確認できるはずだ。キミの協力者2名に見せるかどうかは、キミの判断に任せる』

「分かりました」

『すでに対象への質問リストは提示してある。喫茶店での聴取が完了したら、改めて私に報告してくれ。時間の指定はしないが、遅れるとどうなるかは想像はつくだろう。では、そろそろ私も別の仕事に戻る』

「はい、ありがとうございます」

「健闘を祈るよ」

 ブッ、電話が切れる。





 添付ファイルが1通届いてる。




 僕は、その写真を見て驚く。



 よりによってこの生徒がターゲットになるとは。



 僕は携帯を隠しながら、チラッと2人を見た。



 ちゆのスマホをゆかが持っていて、落ちゲーをちゆから教わっている。



「あー!ゆかさん、それくっ付かないよー。へたー!!」

「そう?でもスコア見てみ?」

「えっ!!?ヤバっ。ちゆの新記録まであとちょっとじゃん!なんでー!?」


 2人で盛り上がっている。

 やはりゆかはゲームでも優秀なようだ。



 今、ターゲットについて2人に話すかどうか悩んでいる。


 というのも、この対象は、2人にとっては、少しキツイというか、いやむしろ、僕にとってある意味、最大の天敵かもしれない。




 だが、しかし。





 赤、手遅れ。すでにサキュバス化まであと一歩。




 ならば、どうする?







 僕はもう一度、写真をこっそり見た。




 ヤバい……。







 

 西園寺さいおんじ 綺羅梨きらり



『今回のターゲットに関しての諸注意。対象者は 測定結果が 赤 のため、サキュバス化抑制は見送り、且つハンターは接触禁止とする。ただし例外として、担当より指定があった場合は、調査の為に接触を一時的に許可する。対応方法は、以下に記載。これ以外の行動を許可なく行なった場合、担当よりペナルティーを課し、一定期間の謹慎処分とする


 指定の喫茶店で、対象者の悩みを聞く』
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