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2章 粛清と祭
第24話 愛情の体現者
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「ゆかっ!!!」
僕が叫んで勢いよく『バンっ!』と音を立ててドアを開けると、アカリがゆかの腕を締め上げ、椅子の上に上半身を押し付けていた。
ちょうど、胸が椅子の座る所に押さえつけられている状態で顔が見えた。
悔しそうな表情で押さえつけられ、反抗しようにも反抗できない様子だった。
「ゆかさん!」
後ろから遅れて入ってきたちゆも焦って叫ぶ。
僕はアカリの、ゆかを押さえている腕を掴む。
「アカリ!やめろ!ゆかに何してるんだ」
アカリは表情を変えずに、そのままの体勢で答える。
「べつに、この子が暴れたから押さえつけただけよ。自己防衛。分かる?素人さん?」
明らかに威圧的な態度だった。
ゆかが苦しそうに呻く。
腕を掴んだまでは良かったが、力が異常に強かった。
普通、人の体であれば、どんなに力が強くても多少は動くが、完全に微動だにしない。
これは、たぶん、人外の力だ。
さっきまでのアカリとは全く違った雰囲気だ。
目の色が微かに青く光っている。
見たことがあると思ったら、ちゆちゃんの目に似ている。ちゆちゃんも目が青みがかっている。彼女は成体のサキュバスになる前からそうだったが、もしかしてアカリも。
「アカリ、落ち着いてくれ」
「落ち着いてるよ」
「いいから、力を抜いて」
「だって、この子も抵抗するし」
腕の力が強くなったのか、掴まれたゆかが鈍く唸るような声を上げる。
苦しいのだ。
当たり前だ。こんなの痛いに決まっている。
僕は叫んだ。
「だから!力の差を考えてくれ!死ぬぞ!」
ハッ、と我に返ったのか、アカリの目が、いつもの黒色に戻る。
「ごめん!」
スッと離れると、ゆかが咳き込む。
ぐたっとして、その場にうずくまるゆか。
アカリは、両手の平を、手を洗った後のような動作でヒラヒラ振っていた。
力が制御できないってやつなのだろうか。
まさかリアルで力が制御できない人外の姿を見られるとは夢にも思わなかった。最も、本来ならサキュバスは夢魔なのだから、ある意味、これも夢を見ているような状況なのかもしれない。
アカリが弁解を始めた。
「そりゃ、私も悪かったとは思うけど、今回のは正当防衛。私からあなたに何かしようっていう気はなかったの」
少しは反省しているようで、語尾が下がっている。
僕も、とっさのことで叫んだが、加害者にも加害者なりの言い分はあるだろう。
それに、ゆかの方が間違っている可能性もあるのだ。
慎重にならなければ……。
「いいよ。何があったか知らないけど、僕としても、ゆかを全面的に擁護するつもりはないから。……だけど、一つ言わせてもらうと、ゆかにとってみれば、アカリは絶対的な後ろ盾のある権力者なんだ。バックに天使がいるサキュバスなんて、恐怖でしかないと思う。取り乱しても仕方ないよ」
アカリが少し敵意のこもった目で僕を見る。
今喧嘩したら1秒で負けそうだ。
デーモンをハントする前に、ヒューマンの僕が先にハントされてしまう。
……ほんとに笑えない冗談だ。
「一方的に私を権力者扱いしないでくれる?」
「でも、天使の後ろ盾はあるんだろ?」
「欲しくて貰った後ろ盾じゃないのよ。無ければ殺されるかもしれないって思ったから、乗るしかなかった。分かる?あなたに。まぁ、アドニスからすれば、人間さえ無事ならそれで良いんだもんね。高みの見物で、我関せずなんて、虫の良い話よ」
「何でそんなこと言うんだよ。ちゃんとこうして関わろうとしているじゃないか、僕にできることなら、やろうって、そう思ったからこの話に乗ったんだ」
「よく言うわよ。あなたみたいな意志の弱い男の善意なんて、信じられない」
「唐突に暴言吐くじゃんか。だいたい、善意とは言ってないだろ?僕には僕の考えがあるんだ」
「そっ、立派なんだね。羨ましい」
「なんでこんな事をしたんだ」
「だから、正当防え」
僕は言葉を被せる
「何故ゆかが怒ったのかを聞いているんだよ」
「……知らないわよ」
「何を話したんだ」
「本人に聞けば?」
「誤解しているかもしれない」
「あなたの方がでしょ?」
「僕が誤解してたなら謝っても良い。だから、訳を聞かせてくれ、このままじゃ帰ってケルビンに何て話せば良いのか分からない」
「そ、仕方ないね、私の評価にも響くし、もうちょっと弁解してあげる」
「あぁ、期待して聞かせてもらうよ」
アカリは心底面倒そうにして頭を掻く。
「ったく、要するに、私は、この子の本当の目的が知りたかったの。桃正院家は、昔から、由緒正しい家系で、伝統を重んじるのよ。だから、この子にも、そういう一本スジの通った何かがあるって、そう思ったわけ」
「天使なんか許さないって、どういう文脈で言ったんだ」
「単純な話よ。セイシ、あなたみたいな普通の人間を、デーモンハンターにしようなんて、馬鹿げてるって。でも、別にセイシだって、強制されたわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、拒否ができないってほどではなかったのは事実だけど」
「ね?そうでしょ。レオミュールだって、私に強制したわけじゃないもん。天使はそんなに身勝手じゃないから」
「意外に肩入れするんだな。そもそもレオミュールと初めて話したのは、つい最近だろ?なんでそんなに信用できるんだ?」
「ちょっと勘違いがあるみたいね。私、成体になったのはつい最近だけど、デーモンハンターになってからは1年経つのよ」
「1年?羽化する前から、やってたのか」
「そうよ」
「でもなんで?自分だってサキュバスなのに、悪魔殲滅に加担しようなんて、特殊な状況じゃないと思わないでしょ」
「ええ、そうよ。何で好き好んで同族を襲わないといけないのよ。そんなの、私にだって理解できないわ」
「なら、なんで」
「……人間に、憧れてたから」
「憧れ?」
「そう」
「サキュバスが?」
「おかしい?」
「いや、そういう事じゃなくて、人間の何に憧れていたの?」
「人間そのものよ、正確には、人間の作る社会の規範、と言った方が正しいかも」
社会の規範?
「余計に分からなくなってきた」
「まぁ、そうでしょうね」
アカリの顔に陰りが見える。夕暮れの日の光が、美少女の憂いを際立たせた。
オレンジ色に照らされるアカリの姿がとても美しく見える。
「アカリは、何者なんだ?過去に何があったんだ」
僕は彼女を問い詰める。
答えない。
だが、僕は決して目を逸らさなかった。
ただ誠実な気持ちで、彼女の解答を待つ。
そうしないと、アカリの本心には辿り着かないだろうと思った。
アカリがふと覚悟を決めたように、僕の目をじっと見つめた。
綺麗な瞳だった。
話してくれるようだ。
「……私は、母親がサキュバスだったの」
「母親が、……てことは、父親は」
「……人間」
「そっか。そうなんだ……」
アカリは人間とサキュバスのハーフだったのだ。
サキュバスは人間との子どもを産めるんだと初めて知った。
種族が違うからもしかして無理なんじゃないかと勝手に想像していた。
「私、お母さんのことは嫌いじゃなかったんだけど、サキュバスの生態自体は、嫌いだった」
「それは、どういうこと?」
「私のお父さんは、真面目で堅実で、女遊びなんてする人じゃなかったの」
「それは、お母さんに会う前からってこと?」
「聞きたいの?」
「うん、それがアカリが戦う本当の理由なんだろ?なら、教えてほしい。僕はアカリを理解したい」
「そ、なら、教えてあげる。少し長い話になるけど良い?」
「構わない」
アカリは、息を大きく吸って、ゆっくり吐き、何かを思い出すように遠くを見つける。
彼女は語る。
自分の過去を。辛く、噛み締めるように。
「私のお母さんは、10代の頃から欲望に忠実で、好き放題してたみたいなの。私は母さんの10代を見たことはないけど、今の母さんを見ると納得がいったわ。話を聞く限り、ほんとにメチャクチャだった。そりゃね、悪魔なんだから、当然っちゃ当然なんだけど、暴力も盗みも、性に関しても乱れまくってて、本当にどうしようもない人だったの。ちょうど、二十歳の時に羽化して、身も心もサキュバスになったわ。当時、母さんは自分がサキュバスだって知っても、焦りも心配もしなかったそうなの。すぐに受け入れたんだって。私とは正反対よ。ぶっちゃけあり得ないと思う。でも母さんはそういう人だった。人?いえ、そういう悪魔だったって言ったらいいかな」
「それがアカリのお母さんにとって普通だったんだ」
アカリが思いついたように、ポンっと左手の平に拳を載せた
「そういや、セイシって、夢精とかしたことある?」
「むせいって、夢を見て、実際に射精するってやつ?」
「そうよ」
「たぶんあったかも知れないけど、あんまり覚えてないな」
「夢の中でえっちした事は?」
「それはあるよ」
「何度も?」
「まぁ……って、恥ずかしいな」
「夢魔との経験はないわけね」
「そうだね、夢の中でやって、実際に出したってのはまだ経験ないかな」
僕はふと、ちゆを見る。
ちゆは目が合うと、嬉しそうに微笑む。
「ふふっ、なーに?」
「……いや、何でもない」
アカリに視線を戻す。
「で、母さんは、初めは物珍しい気分で、夢魔として、色んな男と夢の中で交わったの。もちろん肉体を持っているサキュバスなんだから、リアルでもね。それで、多くの人間の男の、魂ごと吸っていったわ。で、欲望のままに生きる母の元へ、お父さんが現れたの。当時、母さんは夜の店で働いてて、父さんは、取引先の社長さんの接待をしていたらしいの。たまたま接待先に、母さんのいた店が選ばれたみたい。でも、初対面で、明らかに純粋なお客さんじゃないことが分かったんだって。……初め、父さんは、母さんに全く興味がなかったの。恥ずかしがってるんだと思ったそうなんだけど、後で聞いたら違ったんだって。母さんは、本当に美人だし、完璧なスタイルも持ってたから、昔、てか子供の頃からモテモテだったの。サキュバスって、魅了できるから、そんな美人でなくてもモテる事はできるんだけど、母さんは元が完成されてたのよ。まー、私のこの容姿を見れば、納得いくよね?」
両手を広げて僕を見るアカリ。
「……なんて言うか、はい」
「歯切れが悪いんだけど」
「美人です!」
「でしょ?」
チラッとちゆを見ると、目が合って微笑む。いつも嬉しそうだなちゆは、と思った。
アカリはそのまま続ける。
「そんな母さんだから、どこにでもいるようなサラリーマンの男なんて、簡単に落とせると思ってたの。でも父さんは違った。本当に性欲を感じなかったようで、母さんに欲情するなんてことは無かったみたい。今思うと、めちゃめちゃ仕事人間だったのか、当時から枯れ果ててたのか、よく分かんないわ。でも、母さんとってはとても新鮮だったの。母さんって自由人だから、店の中でも好き勝手にやってたそうなんだけど、お父さん、そんな母さんのハチャメチャな身の上話にでも、同意して共感して、慰めてくれたの。私からしたらもうそれだけで充分変な人なんだけど、母さんは嬉しくなって、ひたすら自虐的な発言ばかりしていたらしいわ、私なんてゴミなんだとか言って。そしたら、その社長さんが話に乗って、母さんを馬鹿にし始めて、酷いことをたくさん言ってきたそうなの。そういう雰囲気を作ったの母さんの方だけど、父さんは庇ってくれた。彼女の生き方は、彼女が決めて良いんだって、擁護してくれたのよ。母さんは、それが嬉しかったって言ってた。否定も肯定もせず、ただ、共感して、生き方を認めてくれた。母さんを、『女』ではなく、ただの1人の『人間』として扱ったの、お父さんはね。その時に、母さんは、初めて、人間の男に恋をしたの」
「ロマンチックー!!」
ちゆが楽しそうに反応した。
確かにロマンチックではある。
それにしてもちゆは明るいなと思った。
アカリは気にせず続ける。
「それから母さんは、父さんに猛アタックして、結婚したの」
「どうやってアタックしたの!?サキュバスでも結婚できるんだね!」
ちゆがハイテンションだ。
「ふつうよ。連絡先を聞いて、休みにデートで、遊びに行ったりご飯食べたり、……って、そんなのどうでも良いでしょ」
「なんで!どうでも良くないよ!ちゆはクレープ好きなんだけど、アカリちゃんのお父さんは、何クレープが好きなの!?ちゆはバナナクレープ!!」
「マジでどうでも良いし、知らない、お父さんの好きなクレープとか」
「ええー!」
ちゆが残念がっている。それにしてもクレープ好き過ぎだろ。
「でもまぁ、母さんとスイーツ食べに行った時は、チョコパフェだったそうだから、チョコのクレープとかは食べてたんじゃない?知らないけど」
「チョコ!ちゆもチョコ好きだよ!!」
「話戻してもいい?」
「いいよ!!!」
ちゆがサキュバスのしっぽをパタパタ振っている。興奮している。なぜ。
アカリは話に戻る。
「けど、もちろん、父さんは普通の人間。結婚したのは、母さんの独占欲がそうさせたのね。だけど、母さんは、子供は産まないつもりだったそうなの。何故なら、子供を求めることで、愛する父さんを殺してしまうから……。立派な決意だったけど、結局はダメだった。ダメだったのは父さんの性欲ではなくて、母さんの性欲の方ね。私が産まれて、私が10歳の頃に父は他界したの。理由は、母さんが父さんの生命力を吸い取り過ぎたから。……でも、仕方ないよね。だって、サキュバスと人間なんだから。むしろ母さんはよく我慢した方よ。そこを責めるつもりはない。だけど、父さんが居なくなって、母さんは昔の頃と同じように自虐的になって、元のひどい日常に戻っていったわ。それは、母さんに淡い期待を寄せていた、幼かった私の心を傷付けた。本当につらかった。そこだけは、お父さんとの約束を守り抜いて欲しかった。人の社会で生きることは、秩序を守ることなんだっていう、お父さんの自分へのルール。母さんが目指した理想。まぁ、そんなの、幻想だって思っていたんだけど、少しくらいは期待しても良いじゃない?愛していたなら、少しは、ね。私もサキュバスの血が流れているから、子どもなりに母さんの気持ちは分かったの。だけど、私は母さんの子であると同時に、父さんの子どもでもある。当然よね。だから幻想だと思い切ることができなかった。そもそも私は、人間の血を半分引いているから、正直羽化しないと思ってた。だけど、結局はこうなっちゃった。私は自分の運命を呪った。これは大袈裟ではなく、この運命を受け入れたくなかったの。だって、私は、子供の頃、お父さんのことが本当に世界で1番好きだったから……。申し訳ないけど、母さんよりも、私は『お父さん』が好きだった。だから、母さんには諦めて欲しかったの。これ以上交わるのは。お父さんが望んでいたのなら、私も一歩譲れたんだけど、母さんは自分の欲に正直だったの。そこから、私は自分の血を憎むようになった。母さん自体は、別にどうも思ってない。ただ、大好きなお父さんを殺したこのサキュバスの血が憎い。だから、サキュバスなんて、いなくなれば良いと思ったの。私は今まで、1日もお父さんのことを忘れたことなんてなかった。母さんがどんなに酷い状況でも、私の血の中に父さんはいる。母さんの中には父さんはいないけど、私の中には、いるの。そう思うことで、何とか立ち直ることができた。私が産まれたことが運命だったなら、父さんが居なくなるのも必然だった。そう思うしかなかった。母さんを責めたくはなかったから。そんな風に考えてたのに、呑気なものよね。他人になら何とでも言えるのに、私は結局、自分の性欲のコントロールはほとんど出来てないんだから」
アカリは、まるで独白のように語った。その語り口調には、自分への戒めや、諦めを含んでいるような気がした。
彼女がこうして苦しむことは、それがそのまま父親への懺悔なのかもしれない。
でも、まだ、デーモンハンターになるには動機が薄いと感じるのは何故だろうか。
「それが、デーモンハンターになった理由なの?」
僕はアカリに問う。
おそらく、他に理由があるはずだと思いながら。
「納得できない?」
「いや、理屈は分かるよ。アカリのお父さんを想う気持ちは伝わった。だけど、僕には、お父さんが、アカリにデーモンハンターになることを許すと思えなくて」
「お父さんが生きていたら、私を説教する。そう、あなたは思うわけね」
「うん。アカリなら、想像つくんじゃないかって思うんだ。もちろん、僕はアカリのお父さんと会ったことがないから、僕の認識がズレているだけなのかもしれないけどね」
アカリはため息を吐く。
今日このアカリのため息を見るのは何度目だろう。
「ズレてないよ。セイシ、あなたが正しい。さすがアドニス、……って言いたいところだけど、こんなの、人間の男なら皆んな理解できちゃうのかな。そうよ、お察しの通り、私は結局は自己保身でデーモンハンターになることを選んだ。自分でも、ほんとにつまんない理由だと思うし、恥ずかしくて友達にも言いたくない。まー、言える人なんていないんだけどね」
「聞いても良いの?」
「ま、ある意味で、立場を共有してるんだから、1番の友達候補があなたってことは確かかもね」
「じゃ、同じデーモンハンターとして、仲間の悩みは解決しとかないとね」
「偉そうに」
「僕じゃ不満?」
「不満に決まってるでしょ」
「だけど、アカリを理解してやれるのは、世界で僕だけかもよ」
「カッコつけないでくれる?どんどん安っぽくなって話す気も失せるから」
「それは面目無い」
「……お金よ」
「え?お金って、マネー?」
「馬鹿なの?」
「いや、だって、なんで」
「生活費よ」
正直、予想外の解答だった。
デーモンハンターで謝礼がどうのとはケルビンも言ってたような気はするが、てっきり、何か、ストレス解消というか、単なる個人的な恨みか、そういうハントに対して快楽を感じるとか、そういうやつだと思っていた。
「え、だってお金だなんて思うわけないじゃん」
「はぁー?セイシ、あなた本当に私の話ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたよ。もちろん」
「なら、どう考えても、うちってど貧乏でしょ?」
「まぁそりゃ、たしかにそうだろうけど」
「私は人間の社会的な規範に憧れてるって、最初に言ったでしょ、覚えてる?」
「覚えてる、けど」
「母さんは浪費家で、稼いだら稼いだ量よりお金を使っちゃうの。だから借金しまくり。私の生活費なんて払えるわけないでしょ?お父さんが私の為にコツコツと貯めていた貯金も、母さんが遊んだら1ヶ月で溶けて消えたわ。母さんって、そういう人なの。人って言うか、悪魔。ほんとに悪魔でしょ?」
「それは、さすがに擁護できないな」
「ね?かと言って、私は母さんみたいな稼ぎ方はできないし、やりたいとも思わない。だから、普通のアルバイトとかしてたんだけど、貯めてても母さん勝手に使っちゃうから」
「子どものバイト代を?」
「そう」
「そんな母親いるんだ」
「べつに珍しくないでしょ」
「まぁ、話に聞くことは無くはないけど。てことは、デーモンハンターは、報酬が高いんだ」
「そりゃそうよ。悪魔退治なんだから、レアな仕事でしょ」
「まーね。そんな風に考えた事なかったけど」
「特にセイシ、あなたの方がたぶん私より過酷になると思う」
「どういうこと?」
「私はサキュバスを捕まえるのが仕事だけど、セイシはサキュバス化の抑制が仕事。しかも失敗したらサキュバスが増えるし、天使にも狙われかねない。凄く厄介な難易度よ。分かってる?」
「そう言われるとリスクもあるのか」
「まぁ、結局、あなたの相棒は私じゃなくて、そこの小柄な可愛い女の子になったからほとんど関係ないけどね」
それを聞いてちゆが喜ぶ。
「それちゆ?ちゆのこと可愛いって言った?」
嬉しそうで何よりだ。
「とにかく、私の話はこれでおしまい。早く眠り姫を連れて部屋に戻りなさい」
僕はゆかを見ると、なるほど、確かに眠り姫だ。
椅子にもたれるようにして眠っているゆかがいた。
僕は彼女をおぶってやる。
ゆかは軽いから、バス停まで歩くくらい余裕だ。
もう下校時間はとっくに過ぎていて暗くなっている。人もまばらだから、バスは空いているだろう。
むにゅっと、ゆかの胸が背中に当たり、温かい体温と、甘い香りと柔らかい吐息を耳元で感じる。
僕の心臓の鼓動が速くなった。
さっきまでの緊張感が、おんぶするだけで一気に緩む。これだからゆかは油断ならない。
ちゆに目配せして、化学準備室を出ようとすると、アカリが何か投げてよこした。
「待って、コレ!」
弧を描いて飛んで来た小さい立方体を掴む。
グレーの体温計みたいだった。
「それ、悪魔測定器」
「あー、そう言えば。コレがそうなんだ」
「そ、目盛りがあるでしょ?あと、色で測定できるから、覚えといて、赤が手遅れ、黄色が注意、緑は問題なし。3つ指標があるから、オールグリーンにすればほぼ人間に戻ってると思っていいわ。細かいことは担当に聞いて」
「うん、ありがとう。助かったよ」
アカリが気力無さげに微笑む。
「どういたしまして」
僕が出ようとすると、ちゆがアカリに手を振った。
「またね!アカリちゃん。こんどクレープ一緒に食べよーね!」
「ええ、楽しみにしてる」
⭐︎
部屋にたどり着いた僕は、ベッドにゆかを寝かせる。
ゆかは背中でおぶっている時にちょくちょく目を覚ましていたが、バスの中でまた熟睡していた。
疲れていたんだろう。
僕も疲労感が凄かった。
ベッドの端に寝転がると、そのまま自分も眠ってしまいそうになった。
ちゆはレモネードが飲みたいと言って、電気ポットでお湯を沸かしている。
「レモネード♪ レモネード♬」
楽しそうだ。さっきの緊張が嘘みたいだ。
悪魔測定器の目盛りを眺めながら、さっきのアカリの話を思い出す。
そうか、彼女も苦労してデーモンハンターをやってるんだな。
僕の想像もつかないような苦しみを、アカリは乗り越えてきたのかもしれない。
そう思うと、彼女をただの性欲が強い可愛い女子としか認識して無かったことを恥じた。
話を聞くまでその人は分からないものだ。悪魔だが。
ケルビンに電話しないといけないと思ったが、疲れ過ぎて仮眠したくなった。
僕はちゆに声を掛ける。
「ちゆちゃん、僕、ちょっと眠るから、1時間くらいしたら起こして」
「えー?寝るのー?お兄ちゃんレモネード要らないー?」
「起きたら飲むよー」
「そっか、じゃあ、1人分だけにしとくねー、おやすみー」
僕はちゆの高い声を聞き、眠りに落ちた。
夢の中で、派手な金髪の女性と、少しくたびれた印象がある細身の男性が、ベッドの上で交わっているのが微かに見える。
女性の方は、少しアカリに似ている。
すごく妖艶で、楽しそうだ。
男性の方は、なんだか寂しそうな表情だった。
愛し合っている。……ように見える。
女性が上に跨り、男性は下から彼女を支えている。
女性が、気持ちいい、と連呼していた。
なんだか必死というか、獣じみた性欲を感じた。これは、きっとサキュバスの本来の搾精というやつだろう。
男性はあまり逞しい印象はなく、優しげで、誠実そうで、慈愛に溢れている人といった雰囲気がある。
まさか。
いや、こんなに分かりやすく夢の中に現れるなんてことはあり得ないだろう。
だけど、その行為を夢中になって見てしまった。
こんなに惹かれる交わりを見ることは今までなかったような気がする。
たぶん、この男女の関係性や、シチュエーションが、あまりに理想的過ぎるからだ。
作られたものではない、本来の愛の形がある。
そんな風に見えないこともない。
気づいてなかったが、僕も裸でその場に立っている。
背中にむにゅっとした肌の感触。
誰かをおぶっている。
横を見ると、ゆかの顔があった。
「セイシくん、ありがとう、助けてくれて」
ゆかが僕にお礼を言う。
「いや、当たり前のことをしただけだよ、ゆかが無事で良かった」
「ふふっ、セイシくん、また愛し合おうね」
ゆかが優しい笑みを浮かべて僕を見た。
「ったく、ゆか、そんなこと言うと、僕はまた」
「起きて!!お兄ちゃんっ!!!」
急にゆかの顔がちゆの顔に変わったかと思うと、さっきの空間がいつの間にか僕の部屋の天井になっていた。
「え!? ちゆちゃん! どーしたの?」
ちゆが僕を揺り動かして起こしていたようだ。
時間を見ると、21時。眠った時間が18時くらいだったから、もう3時間くらい経っていた。
1時間くらいのつもりがかなり寝てしまっていたらしい。
それにしても、何だかちゆが焦っている。
今まで見たことがないような焦りようだった。
その表情を見て、何か重大な事件があったのかと察する。
「ゆかさんが!」
「ゆかが? なに?」
僕はちゆの焦りに血の気が引いた。
ゆかに何が!?
「ん、……なに?ちゆちゃん?セイシくん??」
ゆかの眠そうな声が聞こえて安心した。
だが、ちゆの顔を見ると、焦りは消えていない。
ブンブン首を振って否定しているように見える。
「ちがう!さっき、ビリって!びりりって!」
ちゆがゆかを指差す。
ゆかが寝転がってうとうとしているだけだ。
「え?ちゆちゃん、なに?電撃でも走ったの?」
僕はちゆの指差す方向を凝視する。
「ん?」
「は?」
「嘘だろ??」
僕は自然と声を漏らしていた。
だって、まさか……。
頭の中で、ケルビンが、僕に合言葉を教えた時の声が鮮明に流れた。
『良いかいタマモトくん。まず、その人物に会ったらこれを伝えてくれ。
アフロディーテは選択を間違わない。
黒き翼 の問いには、色欲と答えよ。
そして、
白き翼は、愛情だ。』
眠そうなゆかの背中から、白い羽根が生えていた。
僕が叫んで勢いよく『バンっ!』と音を立ててドアを開けると、アカリがゆかの腕を締め上げ、椅子の上に上半身を押し付けていた。
ちょうど、胸が椅子の座る所に押さえつけられている状態で顔が見えた。
悔しそうな表情で押さえつけられ、反抗しようにも反抗できない様子だった。
「ゆかさん!」
後ろから遅れて入ってきたちゆも焦って叫ぶ。
僕はアカリの、ゆかを押さえている腕を掴む。
「アカリ!やめろ!ゆかに何してるんだ」
アカリは表情を変えずに、そのままの体勢で答える。
「べつに、この子が暴れたから押さえつけただけよ。自己防衛。分かる?素人さん?」
明らかに威圧的な態度だった。
ゆかが苦しそうに呻く。
腕を掴んだまでは良かったが、力が異常に強かった。
普通、人の体であれば、どんなに力が強くても多少は動くが、完全に微動だにしない。
これは、たぶん、人外の力だ。
さっきまでのアカリとは全く違った雰囲気だ。
目の色が微かに青く光っている。
見たことがあると思ったら、ちゆちゃんの目に似ている。ちゆちゃんも目が青みがかっている。彼女は成体のサキュバスになる前からそうだったが、もしかしてアカリも。
「アカリ、落ち着いてくれ」
「落ち着いてるよ」
「いいから、力を抜いて」
「だって、この子も抵抗するし」
腕の力が強くなったのか、掴まれたゆかが鈍く唸るような声を上げる。
苦しいのだ。
当たり前だ。こんなの痛いに決まっている。
僕は叫んだ。
「だから!力の差を考えてくれ!死ぬぞ!」
ハッ、と我に返ったのか、アカリの目が、いつもの黒色に戻る。
「ごめん!」
スッと離れると、ゆかが咳き込む。
ぐたっとして、その場にうずくまるゆか。
アカリは、両手の平を、手を洗った後のような動作でヒラヒラ振っていた。
力が制御できないってやつなのだろうか。
まさかリアルで力が制御できない人外の姿を見られるとは夢にも思わなかった。最も、本来ならサキュバスは夢魔なのだから、ある意味、これも夢を見ているような状況なのかもしれない。
アカリが弁解を始めた。
「そりゃ、私も悪かったとは思うけど、今回のは正当防衛。私からあなたに何かしようっていう気はなかったの」
少しは反省しているようで、語尾が下がっている。
僕も、とっさのことで叫んだが、加害者にも加害者なりの言い分はあるだろう。
それに、ゆかの方が間違っている可能性もあるのだ。
慎重にならなければ……。
「いいよ。何があったか知らないけど、僕としても、ゆかを全面的に擁護するつもりはないから。……だけど、一つ言わせてもらうと、ゆかにとってみれば、アカリは絶対的な後ろ盾のある権力者なんだ。バックに天使がいるサキュバスなんて、恐怖でしかないと思う。取り乱しても仕方ないよ」
アカリが少し敵意のこもった目で僕を見る。
今喧嘩したら1秒で負けそうだ。
デーモンをハントする前に、ヒューマンの僕が先にハントされてしまう。
……ほんとに笑えない冗談だ。
「一方的に私を権力者扱いしないでくれる?」
「でも、天使の後ろ盾はあるんだろ?」
「欲しくて貰った後ろ盾じゃないのよ。無ければ殺されるかもしれないって思ったから、乗るしかなかった。分かる?あなたに。まぁ、アドニスからすれば、人間さえ無事ならそれで良いんだもんね。高みの見物で、我関せずなんて、虫の良い話よ」
「何でそんなこと言うんだよ。ちゃんとこうして関わろうとしているじゃないか、僕にできることなら、やろうって、そう思ったからこの話に乗ったんだ」
「よく言うわよ。あなたみたいな意志の弱い男の善意なんて、信じられない」
「唐突に暴言吐くじゃんか。だいたい、善意とは言ってないだろ?僕には僕の考えがあるんだ」
「そっ、立派なんだね。羨ましい」
「なんでこんな事をしたんだ」
「だから、正当防え」
僕は言葉を被せる
「何故ゆかが怒ったのかを聞いているんだよ」
「……知らないわよ」
「何を話したんだ」
「本人に聞けば?」
「誤解しているかもしれない」
「あなたの方がでしょ?」
「僕が誤解してたなら謝っても良い。だから、訳を聞かせてくれ、このままじゃ帰ってケルビンに何て話せば良いのか分からない」
「そ、仕方ないね、私の評価にも響くし、もうちょっと弁解してあげる」
「あぁ、期待して聞かせてもらうよ」
アカリは心底面倒そうにして頭を掻く。
「ったく、要するに、私は、この子の本当の目的が知りたかったの。桃正院家は、昔から、由緒正しい家系で、伝統を重んじるのよ。だから、この子にも、そういう一本スジの通った何かがあるって、そう思ったわけ」
「天使なんか許さないって、どういう文脈で言ったんだ」
「単純な話よ。セイシ、あなたみたいな普通の人間を、デーモンハンターにしようなんて、馬鹿げてるって。でも、別にセイシだって、強制されたわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、拒否ができないってほどではなかったのは事実だけど」
「ね?そうでしょ。レオミュールだって、私に強制したわけじゃないもん。天使はそんなに身勝手じゃないから」
「意外に肩入れするんだな。そもそもレオミュールと初めて話したのは、つい最近だろ?なんでそんなに信用できるんだ?」
「ちょっと勘違いがあるみたいね。私、成体になったのはつい最近だけど、デーモンハンターになってからは1年経つのよ」
「1年?羽化する前から、やってたのか」
「そうよ」
「でもなんで?自分だってサキュバスなのに、悪魔殲滅に加担しようなんて、特殊な状況じゃないと思わないでしょ」
「ええ、そうよ。何で好き好んで同族を襲わないといけないのよ。そんなの、私にだって理解できないわ」
「なら、なんで」
「……人間に、憧れてたから」
「憧れ?」
「そう」
「サキュバスが?」
「おかしい?」
「いや、そういう事じゃなくて、人間の何に憧れていたの?」
「人間そのものよ、正確には、人間の作る社会の規範、と言った方が正しいかも」
社会の規範?
「余計に分からなくなってきた」
「まぁ、そうでしょうね」
アカリの顔に陰りが見える。夕暮れの日の光が、美少女の憂いを際立たせた。
オレンジ色に照らされるアカリの姿がとても美しく見える。
「アカリは、何者なんだ?過去に何があったんだ」
僕は彼女を問い詰める。
答えない。
だが、僕は決して目を逸らさなかった。
ただ誠実な気持ちで、彼女の解答を待つ。
そうしないと、アカリの本心には辿り着かないだろうと思った。
アカリがふと覚悟を決めたように、僕の目をじっと見つめた。
綺麗な瞳だった。
話してくれるようだ。
「……私は、母親がサキュバスだったの」
「母親が、……てことは、父親は」
「……人間」
「そっか。そうなんだ……」
アカリは人間とサキュバスのハーフだったのだ。
サキュバスは人間との子どもを産めるんだと初めて知った。
種族が違うからもしかして無理なんじゃないかと勝手に想像していた。
「私、お母さんのことは嫌いじゃなかったんだけど、サキュバスの生態自体は、嫌いだった」
「それは、どういうこと?」
「私のお父さんは、真面目で堅実で、女遊びなんてする人じゃなかったの」
「それは、お母さんに会う前からってこと?」
「聞きたいの?」
「うん、それがアカリが戦う本当の理由なんだろ?なら、教えてほしい。僕はアカリを理解したい」
「そ、なら、教えてあげる。少し長い話になるけど良い?」
「構わない」
アカリは、息を大きく吸って、ゆっくり吐き、何かを思い出すように遠くを見つける。
彼女は語る。
自分の過去を。辛く、噛み締めるように。
「私のお母さんは、10代の頃から欲望に忠実で、好き放題してたみたいなの。私は母さんの10代を見たことはないけど、今の母さんを見ると納得がいったわ。話を聞く限り、ほんとにメチャクチャだった。そりゃね、悪魔なんだから、当然っちゃ当然なんだけど、暴力も盗みも、性に関しても乱れまくってて、本当にどうしようもない人だったの。ちょうど、二十歳の時に羽化して、身も心もサキュバスになったわ。当時、母さんは自分がサキュバスだって知っても、焦りも心配もしなかったそうなの。すぐに受け入れたんだって。私とは正反対よ。ぶっちゃけあり得ないと思う。でも母さんはそういう人だった。人?いえ、そういう悪魔だったって言ったらいいかな」
「それがアカリのお母さんにとって普通だったんだ」
アカリが思いついたように、ポンっと左手の平に拳を載せた
「そういや、セイシって、夢精とかしたことある?」
「むせいって、夢を見て、実際に射精するってやつ?」
「そうよ」
「たぶんあったかも知れないけど、あんまり覚えてないな」
「夢の中でえっちした事は?」
「それはあるよ」
「何度も?」
「まぁ……って、恥ずかしいな」
「夢魔との経験はないわけね」
「そうだね、夢の中でやって、実際に出したってのはまだ経験ないかな」
僕はふと、ちゆを見る。
ちゆは目が合うと、嬉しそうに微笑む。
「ふふっ、なーに?」
「……いや、何でもない」
アカリに視線を戻す。
「で、母さんは、初めは物珍しい気分で、夢魔として、色んな男と夢の中で交わったの。もちろん肉体を持っているサキュバスなんだから、リアルでもね。それで、多くの人間の男の、魂ごと吸っていったわ。で、欲望のままに生きる母の元へ、お父さんが現れたの。当時、母さんは夜の店で働いてて、父さんは、取引先の社長さんの接待をしていたらしいの。たまたま接待先に、母さんのいた店が選ばれたみたい。でも、初対面で、明らかに純粋なお客さんじゃないことが分かったんだって。……初め、父さんは、母さんに全く興味がなかったの。恥ずかしがってるんだと思ったそうなんだけど、後で聞いたら違ったんだって。母さんは、本当に美人だし、完璧なスタイルも持ってたから、昔、てか子供の頃からモテモテだったの。サキュバスって、魅了できるから、そんな美人でなくてもモテる事はできるんだけど、母さんは元が完成されてたのよ。まー、私のこの容姿を見れば、納得いくよね?」
両手を広げて僕を見るアカリ。
「……なんて言うか、はい」
「歯切れが悪いんだけど」
「美人です!」
「でしょ?」
チラッとちゆを見ると、目が合って微笑む。いつも嬉しそうだなちゆは、と思った。
アカリはそのまま続ける。
「そんな母さんだから、どこにでもいるようなサラリーマンの男なんて、簡単に落とせると思ってたの。でも父さんは違った。本当に性欲を感じなかったようで、母さんに欲情するなんてことは無かったみたい。今思うと、めちゃめちゃ仕事人間だったのか、当時から枯れ果ててたのか、よく分かんないわ。でも、母さんとってはとても新鮮だったの。母さんって自由人だから、店の中でも好き勝手にやってたそうなんだけど、お父さん、そんな母さんのハチャメチャな身の上話にでも、同意して共感して、慰めてくれたの。私からしたらもうそれだけで充分変な人なんだけど、母さんは嬉しくなって、ひたすら自虐的な発言ばかりしていたらしいわ、私なんてゴミなんだとか言って。そしたら、その社長さんが話に乗って、母さんを馬鹿にし始めて、酷いことをたくさん言ってきたそうなの。そういう雰囲気を作ったの母さんの方だけど、父さんは庇ってくれた。彼女の生き方は、彼女が決めて良いんだって、擁護してくれたのよ。母さんは、それが嬉しかったって言ってた。否定も肯定もせず、ただ、共感して、生き方を認めてくれた。母さんを、『女』ではなく、ただの1人の『人間』として扱ったの、お父さんはね。その時に、母さんは、初めて、人間の男に恋をしたの」
「ロマンチックー!!」
ちゆが楽しそうに反応した。
確かにロマンチックではある。
それにしてもちゆは明るいなと思った。
アカリは気にせず続ける。
「それから母さんは、父さんに猛アタックして、結婚したの」
「どうやってアタックしたの!?サキュバスでも結婚できるんだね!」
ちゆがハイテンションだ。
「ふつうよ。連絡先を聞いて、休みにデートで、遊びに行ったりご飯食べたり、……って、そんなのどうでも良いでしょ」
「なんで!どうでも良くないよ!ちゆはクレープ好きなんだけど、アカリちゃんのお父さんは、何クレープが好きなの!?ちゆはバナナクレープ!!」
「マジでどうでも良いし、知らない、お父さんの好きなクレープとか」
「ええー!」
ちゆが残念がっている。それにしてもクレープ好き過ぎだろ。
「でもまぁ、母さんとスイーツ食べに行った時は、チョコパフェだったそうだから、チョコのクレープとかは食べてたんじゃない?知らないけど」
「チョコ!ちゆもチョコ好きだよ!!」
「話戻してもいい?」
「いいよ!!!」
ちゆがサキュバスのしっぽをパタパタ振っている。興奮している。なぜ。
アカリは話に戻る。
「けど、もちろん、父さんは普通の人間。結婚したのは、母さんの独占欲がそうさせたのね。だけど、母さんは、子供は産まないつもりだったそうなの。何故なら、子供を求めることで、愛する父さんを殺してしまうから……。立派な決意だったけど、結局はダメだった。ダメだったのは父さんの性欲ではなくて、母さんの性欲の方ね。私が産まれて、私が10歳の頃に父は他界したの。理由は、母さんが父さんの生命力を吸い取り過ぎたから。……でも、仕方ないよね。だって、サキュバスと人間なんだから。むしろ母さんはよく我慢した方よ。そこを責めるつもりはない。だけど、父さんが居なくなって、母さんは昔の頃と同じように自虐的になって、元のひどい日常に戻っていったわ。それは、母さんに淡い期待を寄せていた、幼かった私の心を傷付けた。本当につらかった。そこだけは、お父さんとの約束を守り抜いて欲しかった。人の社会で生きることは、秩序を守ることなんだっていう、お父さんの自分へのルール。母さんが目指した理想。まぁ、そんなの、幻想だって思っていたんだけど、少しくらいは期待しても良いじゃない?愛していたなら、少しは、ね。私もサキュバスの血が流れているから、子どもなりに母さんの気持ちは分かったの。だけど、私は母さんの子であると同時に、父さんの子どもでもある。当然よね。だから幻想だと思い切ることができなかった。そもそも私は、人間の血を半分引いているから、正直羽化しないと思ってた。だけど、結局はこうなっちゃった。私は自分の運命を呪った。これは大袈裟ではなく、この運命を受け入れたくなかったの。だって、私は、子供の頃、お父さんのことが本当に世界で1番好きだったから……。申し訳ないけど、母さんよりも、私は『お父さん』が好きだった。だから、母さんには諦めて欲しかったの。これ以上交わるのは。お父さんが望んでいたのなら、私も一歩譲れたんだけど、母さんは自分の欲に正直だったの。そこから、私は自分の血を憎むようになった。母さん自体は、別にどうも思ってない。ただ、大好きなお父さんを殺したこのサキュバスの血が憎い。だから、サキュバスなんて、いなくなれば良いと思ったの。私は今まで、1日もお父さんのことを忘れたことなんてなかった。母さんがどんなに酷い状況でも、私の血の中に父さんはいる。母さんの中には父さんはいないけど、私の中には、いるの。そう思うことで、何とか立ち直ることができた。私が産まれたことが運命だったなら、父さんが居なくなるのも必然だった。そう思うしかなかった。母さんを責めたくはなかったから。そんな風に考えてたのに、呑気なものよね。他人になら何とでも言えるのに、私は結局、自分の性欲のコントロールはほとんど出来てないんだから」
アカリは、まるで独白のように語った。その語り口調には、自分への戒めや、諦めを含んでいるような気がした。
彼女がこうして苦しむことは、それがそのまま父親への懺悔なのかもしれない。
でも、まだ、デーモンハンターになるには動機が薄いと感じるのは何故だろうか。
「それが、デーモンハンターになった理由なの?」
僕はアカリに問う。
おそらく、他に理由があるはずだと思いながら。
「納得できない?」
「いや、理屈は分かるよ。アカリのお父さんを想う気持ちは伝わった。だけど、僕には、お父さんが、アカリにデーモンハンターになることを許すと思えなくて」
「お父さんが生きていたら、私を説教する。そう、あなたは思うわけね」
「うん。アカリなら、想像つくんじゃないかって思うんだ。もちろん、僕はアカリのお父さんと会ったことがないから、僕の認識がズレているだけなのかもしれないけどね」
アカリはため息を吐く。
今日このアカリのため息を見るのは何度目だろう。
「ズレてないよ。セイシ、あなたが正しい。さすがアドニス、……って言いたいところだけど、こんなの、人間の男なら皆んな理解できちゃうのかな。そうよ、お察しの通り、私は結局は自己保身でデーモンハンターになることを選んだ。自分でも、ほんとにつまんない理由だと思うし、恥ずかしくて友達にも言いたくない。まー、言える人なんていないんだけどね」
「聞いても良いの?」
「ま、ある意味で、立場を共有してるんだから、1番の友達候補があなたってことは確かかもね」
「じゃ、同じデーモンハンターとして、仲間の悩みは解決しとかないとね」
「偉そうに」
「僕じゃ不満?」
「不満に決まってるでしょ」
「だけど、アカリを理解してやれるのは、世界で僕だけかもよ」
「カッコつけないでくれる?どんどん安っぽくなって話す気も失せるから」
「それは面目無い」
「……お金よ」
「え?お金って、マネー?」
「馬鹿なの?」
「いや、だって、なんで」
「生活費よ」
正直、予想外の解答だった。
デーモンハンターで謝礼がどうのとはケルビンも言ってたような気はするが、てっきり、何か、ストレス解消というか、単なる個人的な恨みか、そういうハントに対して快楽を感じるとか、そういうやつだと思っていた。
「え、だってお金だなんて思うわけないじゃん」
「はぁー?セイシ、あなた本当に私の話ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたよ。もちろん」
「なら、どう考えても、うちってど貧乏でしょ?」
「まぁそりゃ、たしかにそうだろうけど」
「私は人間の社会的な規範に憧れてるって、最初に言ったでしょ、覚えてる?」
「覚えてる、けど」
「母さんは浪費家で、稼いだら稼いだ量よりお金を使っちゃうの。だから借金しまくり。私の生活費なんて払えるわけないでしょ?お父さんが私の為にコツコツと貯めていた貯金も、母さんが遊んだら1ヶ月で溶けて消えたわ。母さんって、そういう人なの。人って言うか、悪魔。ほんとに悪魔でしょ?」
「それは、さすがに擁護できないな」
「ね?かと言って、私は母さんみたいな稼ぎ方はできないし、やりたいとも思わない。だから、普通のアルバイトとかしてたんだけど、貯めてても母さん勝手に使っちゃうから」
「子どものバイト代を?」
「そう」
「そんな母親いるんだ」
「べつに珍しくないでしょ」
「まぁ、話に聞くことは無くはないけど。てことは、デーモンハンターは、報酬が高いんだ」
「そりゃそうよ。悪魔退治なんだから、レアな仕事でしょ」
「まーね。そんな風に考えた事なかったけど」
「特にセイシ、あなたの方がたぶん私より過酷になると思う」
「どういうこと?」
「私はサキュバスを捕まえるのが仕事だけど、セイシはサキュバス化の抑制が仕事。しかも失敗したらサキュバスが増えるし、天使にも狙われかねない。凄く厄介な難易度よ。分かってる?」
「そう言われるとリスクもあるのか」
「まぁ、結局、あなたの相棒は私じゃなくて、そこの小柄な可愛い女の子になったからほとんど関係ないけどね」
それを聞いてちゆが喜ぶ。
「それちゆ?ちゆのこと可愛いって言った?」
嬉しそうで何よりだ。
「とにかく、私の話はこれでおしまい。早く眠り姫を連れて部屋に戻りなさい」
僕はゆかを見ると、なるほど、確かに眠り姫だ。
椅子にもたれるようにして眠っているゆかがいた。
僕は彼女をおぶってやる。
ゆかは軽いから、バス停まで歩くくらい余裕だ。
もう下校時間はとっくに過ぎていて暗くなっている。人もまばらだから、バスは空いているだろう。
むにゅっと、ゆかの胸が背中に当たり、温かい体温と、甘い香りと柔らかい吐息を耳元で感じる。
僕の心臓の鼓動が速くなった。
さっきまでの緊張感が、おんぶするだけで一気に緩む。これだからゆかは油断ならない。
ちゆに目配せして、化学準備室を出ようとすると、アカリが何か投げてよこした。
「待って、コレ!」
弧を描いて飛んで来た小さい立方体を掴む。
グレーの体温計みたいだった。
「それ、悪魔測定器」
「あー、そう言えば。コレがそうなんだ」
「そ、目盛りがあるでしょ?あと、色で測定できるから、覚えといて、赤が手遅れ、黄色が注意、緑は問題なし。3つ指標があるから、オールグリーンにすればほぼ人間に戻ってると思っていいわ。細かいことは担当に聞いて」
「うん、ありがとう。助かったよ」
アカリが気力無さげに微笑む。
「どういたしまして」
僕が出ようとすると、ちゆがアカリに手を振った。
「またね!アカリちゃん。こんどクレープ一緒に食べよーね!」
「ええ、楽しみにしてる」
⭐︎
部屋にたどり着いた僕は、ベッドにゆかを寝かせる。
ゆかは背中でおぶっている時にちょくちょく目を覚ましていたが、バスの中でまた熟睡していた。
疲れていたんだろう。
僕も疲労感が凄かった。
ベッドの端に寝転がると、そのまま自分も眠ってしまいそうになった。
ちゆはレモネードが飲みたいと言って、電気ポットでお湯を沸かしている。
「レモネード♪ レモネード♬」
楽しそうだ。さっきの緊張が嘘みたいだ。
悪魔測定器の目盛りを眺めながら、さっきのアカリの話を思い出す。
そうか、彼女も苦労してデーモンハンターをやってるんだな。
僕の想像もつかないような苦しみを、アカリは乗り越えてきたのかもしれない。
そう思うと、彼女をただの性欲が強い可愛い女子としか認識して無かったことを恥じた。
話を聞くまでその人は分からないものだ。悪魔だが。
ケルビンに電話しないといけないと思ったが、疲れ過ぎて仮眠したくなった。
僕はちゆに声を掛ける。
「ちゆちゃん、僕、ちょっと眠るから、1時間くらいしたら起こして」
「えー?寝るのー?お兄ちゃんレモネード要らないー?」
「起きたら飲むよー」
「そっか、じゃあ、1人分だけにしとくねー、おやすみー」
僕はちゆの高い声を聞き、眠りに落ちた。
夢の中で、派手な金髪の女性と、少しくたびれた印象がある細身の男性が、ベッドの上で交わっているのが微かに見える。
女性の方は、少しアカリに似ている。
すごく妖艶で、楽しそうだ。
男性の方は、なんだか寂しそうな表情だった。
愛し合っている。……ように見える。
女性が上に跨り、男性は下から彼女を支えている。
女性が、気持ちいい、と連呼していた。
なんだか必死というか、獣じみた性欲を感じた。これは、きっとサキュバスの本来の搾精というやつだろう。
男性はあまり逞しい印象はなく、優しげで、誠実そうで、慈愛に溢れている人といった雰囲気がある。
まさか。
いや、こんなに分かりやすく夢の中に現れるなんてことはあり得ないだろう。
だけど、その行為を夢中になって見てしまった。
こんなに惹かれる交わりを見ることは今までなかったような気がする。
たぶん、この男女の関係性や、シチュエーションが、あまりに理想的過ぎるからだ。
作られたものではない、本来の愛の形がある。
そんな風に見えないこともない。
気づいてなかったが、僕も裸でその場に立っている。
背中にむにゅっとした肌の感触。
誰かをおぶっている。
横を見ると、ゆかの顔があった。
「セイシくん、ありがとう、助けてくれて」
ゆかが僕にお礼を言う。
「いや、当たり前のことをしただけだよ、ゆかが無事で良かった」
「ふふっ、セイシくん、また愛し合おうね」
ゆかが優しい笑みを浮かべて僕を見た。
「ったく、ゆか、そんなこと言うと、僕はまた」
「起きて!!お兄ちゃんっ!!!」
急にゆかの顔がちゆの顔に変わったかと思うと、さっきの空間がいつの間にか僕の部屋の天井になっていた。
「え!? ちゆちゃん! どーしたの?」
ちゆが僕を揺り動かして起こしていたようだ。
時間を見ると、21時。眠った時間が18時くらいだったから、もう3時間くらい経っていた。
1時間くらいのつもりがかなり寝てしまっていたらしい。
それにしても、何だかちゆが焦っている。
今まで見たことがないような焦りようだった。
その表情を見て、何か重大な事件があったのかと察する。
「ゆかさんが!」
「ゆかが? なに?」
僕はちゆの焦りに血の気が引いた。
ゆかに何が!?
「ん、……なに?ちゆちゃん?セイシくん??」
ゆかの眠そうな声が聞こえて安心した。
だが、ちゆの顔を見ると、焦りは消えていない。
ブンブン首を振って否定しているように見える。
「ちがう!さっき、ビリって!びりりって!」
ちゆがゆかを指差す。
ゆかが寝転がってうとうとしているだけだ。
「え?ちゆちゃん、なに?電撃でも走ったの?」
僕はちゆの指差す方向を凝視する。
「ん?」
「は?」
「嘘だろ??」
僕は自然と声を漏らしていた。
だって、まさか……。
頭の中で、ケルビンが、僕に合言葉を教えた時の声が鮮明に流れた。
『良いかいタマモトくん。まず、その人物に会ったらこれを伝えてくれ。
アフロディーテは選択を間違わない。
黒き翼 の問いには、色欲と答えよ。
そして、
白き翼は、愛情だ。』
眠そうなゆかの背中から、白い羽根が生えていた。
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