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呼び出し
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性生活以外は順調だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。すでに養子の手続きが終わり、リオネルの手を離れたと思っていたリカのことで、学園から呼び出しがかかった。
会議を終えたばかりのリオネルに、カイが学園からの伝言を伝えた。
「引き取り先のカップルじゃなくて、僕を呼んでるの?」
「えぇ、学園に来てほしいそうですよ」
「そう言われても、仕事が……」
「行ってあげてください」
すぐ後ろから、アノルの声が聞こえて、持っていた書類を取り上げられた。振り返ると、思い詰めた表情のアノルがいた。
「残りの仕事は私とカイがやっときます」
「でも」
「アノルもそう言ってるし、大丈夫ですよ、リオネルさん!」
ヘラヘラ笑いでカイにもそう言われ、リオネルは後ろ髪を引かれながらも艦長室を出た。
「何カッコつけてんだよ」
カイがアノルの肩を肘で小突く。
「別に、さっさと仕事片付けるぞ!」
「素直じゃないなぁ~」
カイは軽薄そうな笑顔を浮かべて、同僚を見る。
「いいから、仕事しろ!」
どことなく上司に似たアノルの物言いに、カイはふっと息を吐き、困ったように笑った。
一方、リオネルは急ぎ足で学園に向かっていた。まだ日は浅いとは言え、もう親がいるのに、呼び出されるとは、リカは一体、何をしたのだろう。乗り込んだ路面電車は空席が目立っていたが、リオネルは気持ちが逸り、立ったまま、電車の向かう先を睨むように見ていた。
学園に着くと、終業のチャイムが鳴ったところだった。すぐにガヤガヤと声がして、子供たちが校舎から出てくる。リオネルは、子供たちの群れとは逆に、校舎に入った。職員室に顔を出すと、気づいた教師に学園長室も兼ねた、応接室に案内された。柔らかすぎるソファに何度か腰を上げて座り直していると、リカを連れたクビンが部屋に入ってきた。
「仕事中にすまない」
クビンはそう謝ってから、ことの次第を説明する。
かつて寮として使われていた建物は今、1階が学生たちが昼食をとる食堂として使われている。昼食時、リカは食堂に来なかった。数人の教師で探すと、リカは人気のない空き教室にいたそうだ。教師が何をしているか尋ねたところ、こともあろうにリカはその教師を誘惑したそうだ。
以前、リオネルにもしたように、教師のズボンのジッパーを下げ、ものを取り出そうと……
「リカを見つけたのが、ミュンターで良かったよ」
クビンはメガネを外して、目頭を押さえた。酷く疲れた様子だ。
ミュンターはクビンのパートナーだ。学生の頃、婚約していた2人は、クビンが学園を卒業すると結婚した。クビンはパートナーと同じ教師となる道を選んだ。そのことからも、クビンがミュンターに並々ならぬ愛を向けているのがわかる。
ミュンターも、教え子のクビンを婚約者にしていた過去を除けば、子供に手を出すような人物ではない。リオネルもよく知っている。厳しい人ゆえに、信頼できる人物だ。
「新しいご両親にどう伝えるべきか、わからなくて」
「そうか……そうだな」
リオネルは、リカをハイネとイオの家に送っていった日のことを思い出す。嬉しそうにリカを迎えてくれた優しげな2人に、この事実は少々、刺激が強すぎるように思う。
クビンが事情を説明する間、入口付近の壁際にポツリと、俯いて立っていたリカに目を向ける。後ろで手を組んで、足を所在なげにモジモジ動かしている。
「リカ」
リオネルが呼びかけると、リカはびくりと肩を震わせ、さらに下を向いた。リオネルはソファから立ち、リカの前まで歩く。その一歩ごとに、リカは体を震わせた。
「リカ、また地上にいた時みたいな生活がしたいのか?」
リカの両肩を包むように掴んで、リオネルは言った。屈んで目線を合わせようとするが、下を向いているリカの目は見えない。ポタリとリカの足元に滴が落ちた。俯いたリカが鼻を啜る。
「いや……」
小さく否定の言葉を告げて、リカは泣いた。
「じゃあ、どうして」
リオネルの言葉に、リカはただ、首を振るばかりだった。その間も、涙は止まらず、リカの足元にポロポロと落ちていく。
これは反省の涙なのだろうか。リオネルは判断に迷い、クビンの方を見た。クビンも眉を八の字にして困ったような顔をしている。
「とあえず、今日のところは、僕がご両親の家に送っていくよ。急に環境が変わって、リカも混乱したんだろう」
リオネルはそう言うと、まだグスグスと泣いているリカをソファに座らせた。自身も隣に座り、肩に腕を回し、頭を撫でてやった。リカは鼻を啜りながら、リオネルに身を預ける。
「荷物を取ってくる」
クビンはそう言って、部屋を出て行った。
リオネルはリカが泣き止むまで、体にもたれかかるリカの重みを感じながら、頭を優しく撫でていた。リカの髪から嗅ぎ慣れないシャンプーの香りがした。
会議を終えたばかりのリオネルに、カイが学園からの伝言を伝えた。
「引き取り先のカップルじゃなくて、僕を呼んでるの?」
「えぇ、学園に来てほしいそうですよ」
「そう言われても、仕事が……」
「行ってあげてください」
すぐ後ろから、アノルの声が聞こえて、持っていた書類を取り上げられた。振り返ると、思い詰めた表情のアノルがいた。
「残りの仕事は私とカイがやっときます」
「でも」
「アノルもそう言ってるし、大丈夫ですよ、リオネルさん!」
ヘラヘラ笑いでカイにもそう言われ、リオネルは後ろ髪を引かれながらも艦長室を出た。
「何カッコつけてんだよ」
カイがアノルの肩を肘で小突く。
「別に、さっさと仕事片付けるぞ!」
「素直じゃないなぁ~」
カイは軽薄そうな笑顔を浮かべて、同僚を見る。
「いいから、仕事しろ!」
どことなく上司に似たアノルの物言いに、カイはふっと息を吐き、困ったように笑った。
一方、リオネルは急ぎ足で学園に向かっていた。まだ日は浅いとは言え、もう親がいるのに、呼び出されるとは、リカは一体、何をしたのだろう。乗り込んだ路面電車は空席が目立っていたが、リオネルは気持ちが逸り、立ったまま、電車の向かう先を睨むように見ていた。
学園に着くと、終業のチャイムが鳴ったところだった。すぐにガヤガヤと声がして、子供たちが校舎から出てくる。リオネルは、子供たちの群れとは逆に、校舎に入った。職員室に顔を出すと、気づいた教師に学園長室も兼ねた、応接室に案内された。柔らかすぎるソファに何度か腰を上げて座り直していると、リカを連れたクビンが部屋に入ってきた。
「仕事中にすまない」
クビンはそう謝ってから、ことの次第を説明する。
かつて寮として使われていた建物は今、1階が学生たちが昼食をとる食堂として使われている。昼食時、リカは食堂に来なかった。数人の教師で探すと、リカは人気のない空き教室にいたそうだ。教師が何をしているか尋ねたところ、こともあろうにリカはその教師を誘惑したそうだ。
以前、リオネルにもしたように、教師のズボンのジッパーを下げ、ものを取り出そうと……
「リカを見つけたのが、ミュンターで良かったよ」
クビンはメガネを外して、目頭を押さえた。酷く疲れた様子だ。
ミュンターはクビンのパートナーだ。学生の頃、婚約していた2人は、クビンが学園を卒業すると結婚した。クビンはパートナーと同じ教師となる道を選んだ。そのことからも、クビンがミュンターに並々ならぬ愛を向けているのがわかる。
ミュンターも、教え子のクビンを婚約者にしていた過去を除けば、子供に手を出すような人物ではない。リオネルもよく知っている。厳しい人ゆえに、信頼できる人物だ。
「新しいご両親にどう伝えるべきか、わからなくて」
「そうか……そうだな」
リオネルは、リカをハイネとイオの家に送っていった日のことを思い出す。嬉しそうにリカを迎えてくれた優しげな2人に、この事実は少々、刺激が強すぎるように思う。
クビンが事情を説明する間、入口付近の壁際にポツリと、俯いて立っていたリカに目を向ける。後ろで手を組んで、足を所在なげにモジモジ動かしている。
「リカ」
リオネルが呼びかけると、リカはびくりと肩を震わせ、さらに下を向いた。リオネルはソファから立ち、リカの前まで歩く。その一歩ごとに、リカは体を震わせた。
「リカ、また地上にいた時みたいな生活がしたいのか?」
リカの両肩を包むように掴んで、リオネルは言った。屈んで目線を合わせようとするが、下を向いているリカの目は見えない。ポタリとリカの足元に滴が落ちた。俯いたリカが鼻を啜る。
「いや……」
小さく否定の言葉を告げて、リカは泣いた。
「じゃあ、どうして」
リオネルの言葉に、リカはただ、首を振るばかりだった。その間も、涙は止まらず、リカの足元にポロポロと落ちていく。
これは反省の涙なのだろうか。リオネルは判断に迷い、クビンの方を見た。クビンも眉を八の字にして困ったような顔をしている。
「とあえず、今日のところは、僕がご両親の家に送っていくよ。急に環境が変わって、リカも混乱したんだろう」
リオネルはそう言うと、まだグスグスと泣いているリカをソファに座らせた。自身も隣に座り、肩に腕を回し、頭を撫でてやった。リカは鼻を啜りながら、リオネルに身を預ける。
「荷物を取ってくる」
クビンはそう言って、部屋を出て行った。
リオネルはリカが泣き止むまで、体にもたれかかるリカの重みを感じながら、頭を優しく撫でていた。リカの髪から嗅ぎ慣れないシャンプーの香りがした。
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